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学園祭 1

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 学園祭当日は、学園祭がはじまる前の最終確認を行うので、いつもより朝が早い。

 一時間早く登校すると、教室にはすでに半分ほどのクラスメイトがいた。

 前日のうちに教室の中を飾り付け、机をいくつか組み合わせてテーブルクロスをかけて飲食用のスペースを作っておいたから、教室内はいつもとはずいぶん様相が違う。


 前の方はパーテーションで仕切り、別途借りることができた食堂のキッチンで作られた料理を置いたり、茶葉を保管したりと、作業場所に使うことにしていた。

 オルテンシアがシャロン公爵家から持って来た赤い薔薇をクラスメイトに手渡すと、彼女たちは急いで一輪挿しに生けはじめた。各テーブルに飾るのだ。


 オルテンシアはクラス代表の仕事として、チェックシートを見ながら準備に漏れがないか確認していく。

 あらかたの確認を終えたところで、ワゴンを押した学生が教室に入ってきた。食堂では朝からケーキやクッキーなどのお菓子が焼かれていて、その第一便が届いたようだ。昼食時には簡単な食事も出すことにしているから、お菓子などの作り置きできるものは今のうちに作ってしまう作戦である。


 クリームが使ってあるケーキの持ち帰りは厳しいが、クリームが使われていないケーキやクッキーは、カフェで出すもの以外に販売用にもラッピングしていく。


(メニューを決めるときに試食したけど、このバターサンドクッキーがすごく美味しかったのよね)


 カフェで提供するお菓子にはたくさん種類があるが、オルテンシアは特にバターサンドクッキーがお気に入りだった。干したドライフルーツをバタークリームに練り込んでいて、クッキーはサクサクほろほろで、とにかく美味しかった。今日顔を出してくれるらしい両親や兄に勧めておいたので、おそらく持ち帰り用のものを購入して帰ってくれるはずだ。


 チェックが終わったので、オルテンシアと同じく裏方担当のクラスメイト達とともにお菓子をラッピングしていく。

 接客担当者たちは服を着替えに行った。接客担当は主に侍女コースを取っている子たちだ。男爵家や子爵家の学生が多い。卒業後に仕える主人が決まっている子たちもいれば、まだ決まっていない子たちもいる。主人が決まっていない子たちは、この学園祭で完璧な接客をすれば、来客者の誰かのお眼鏡にかなうのではないかという期待も抱いていて、とてもやる気に満ちていた。


「予定していたよりケーキの種類がたりないわね」

「学園祭の開始時間まであと十五分しかありませんね。見て来ましょうか」

「ううん、わたくしが行ってくるわ。ついでに食堂のキッチンの過不足も確認してくる」


 食堂のキッチンは昨日の放課後にしっかり確認していたが、念のため今朝も見てくると言って、オルテンシアは残りのラッピングをクラスメイトに任せて食堂へ向かった。

 食堂へ向かうと、キッチンでは、将来飲食店を経営する男爵家の男子学生をはじめ、彼を補佐する数人の学生がせわしなく動き回っている。その表情には少し焦りがあって、心配になったオルテンシアは声をかけた。


「大丈夫?」

「オルテンシア様! すみません、ちょっとトラブルがあって……間に合わせます」


 近くにいたクラスメイトが時計を確認しながら言う。


「トラブルって、何があったの?」

「それが……」


 出来上がったチョコレートケーキをワゴンの上に乗せながら、彼が肩をすくめる。


「昼食用に購入していたハムがなくなっていたんです」

「え?」


 昼食時に提供するメニューの一つにハムサンドがあるのだが、それ用のハムがなくなっていたらしい。


「いったいどうして? 昨日買って来たのよね?」

「はい。昨日買ってきて、キッチンの上に置いていたんです。だけど今朝来たら無くなってて、キッチンの中を探していたら思いのほか時間を食ってしまって……」

「それで、見つかったの?」

「いえ、まだです」


 ハムがなくなった報告をしなくてはと思っていたらしいが、お菓子の準備が間に合わなくなるので、ひとまずお菓子の制作に集中することにしたという。


「わかったわ。探している時間が惜しいから、昼食の時間に間に合うように、ハムを買ってきてもらうように頼んでおくわね。ほかに足りなくなったものがあったらついでに買ってくるけど、どうかしら?」

「それなら、バターの追加をお願いします!」


 キッチンの奥から、責任者の男爵令息の声がした。

 持ち帰り用のクッキーやケーキは事前に予約もできるのだが、思いのほか予約が多かったので、余裕ができた頃に追加で作るつもりらしい。


「バターだけでいい?」

「予算が余っているなら、小麦粉や砂糖、チョコレートなどもあると嬉しいです」

「予算はまだあるから、そのくらいは全然かまわないわ。三十分後に購入担当者を決めてここに来てもらうことにするから、それまでにリストアップしておいてくれる?」

「わかりました。あ、ケーキ、持って行ってもらって大丈夫です。これでひとまず、最初分はラストなんで」


 最後にアップルパイをワゴンに乗せて、やり切った笑顔で彼が笑う。


「ありがとう、もらっていくわね」


 オルテンシアはワゴンを押しながら食堂の中の時計を確認した。はじまりまで残り五分。ギリギリ間に合ったようだ。


 ワゴンを押して教室に戻ると、オルテンシアの帰りを待っていたクラスメイト達がホッとしたように笑った。

 近くにいたクラスメイトにワゴンを渡して、オルテンシアはクラスの副代表である侯爵家の男子学生に声をかける。


「このあと、追加の材料を買ってきてほしいんだけど、誰か手が空いている人はいるかしら? キッチンに確認に行って、お昼前までに買って帰ってほしいの」


 ハムがなくなったことも含めて説明すると、彼はぐるりと教室内を見渡して、クラスメイトの一人を呼んだ。オルテンシアたちと同じ裏方担当の男子学生だ。


「一回目の休憩は昼前だったろ? 悪いんだけど、今から買い出しに行ってきてくれないか?」


 オルテンシアたち学生も、どこか時間を見つけてはほかのクラスの出し物を見に行くことになっている。それぞれが休憩を取るスケジュールは、クラスの副代表である彼が管理していた。


「いいけど、じゃあ俺の代わりに、キッチンの料理を運ぶ担当を補充してくれ。すでに結構並んでいるみたいだから、お菓子の追加がすぐに必要になると思う」

(本当ね)


 準備で頭がいっぱいだったため気が付かなかったが、カフェの入口にしている後ろの扉の前の廊下には、すでに長蛇の列ができていた。開始までまだ二分ほど時間があるのにびっくりである。


「わかった、料理の補充担当を誰か追加しておく」

「助かる。じゃあ、俺はキッチンへ行ってくるよ」


 彼がそう言って教室を出て行くと、オルテンシアは副代表と顔を見合わせた。


「最初から整理券の出番かしら」

「みたいですね」


 昼食時は混雑が予想されたので、予約用の整理券を準備することにしていた。整理券にだいたいの目安時間を書いてその時間に来てもらうことにしていたのだが、最初から導入の必要がありそうだ。


「嬉しい誤算だけど、この調子だと今日中に全員さばききれるかわからないわ。テーブルがたりないもの。対策が必要かしら」

「できれば」

「わかったわ。わたくし今から生徒会室に行ってくるわね」


 空き教室を貸してもらえるよう頼んでくると言って、オルテンシアはカフェの運営を副代表に任せて、急いで生徒会室へ向かった。




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