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叔父さまはこんな方でした その2


 男の生まれ育った境遇は、一般的に言って恵まれていたに違いありませんが、男にとっては不運と言わざるを得ません。


 辺境伯領ではご説明した通りその土地柄強い当主が求められてきました。

 そのため当主家に生まれた子どもたちは、幼い頃から厳しい教育を施されることになります。


 それは他貴族の令息令嬢であっても同じことなのですが。

 辺境伯家での教育内容は、他の貴族家と比べると大変偏ったものだったのです。


 基本的に貴族は周囲の者に身を守らせて安全地帯で指揮する存在ですが、ここ辺境伯領ではそれは誤りとなります。


 自分の身ひとつ守れない者に領内の誰を守れようか、という強い信念の元、幼いうちから物理的な強さを求める教育が始まるのです。



 そしてこれが、男にとってはじめての挫折となります。


 男の兄である当代の辺境伯は、幼い頃から神童と言われ武に長けた存在として目覚ましい成長を見せていました。

 一方この男、幼い頃は身体も小さく、成長期が遅かったことから、当時は辺境伯領内の他の同年代の子どもたちの平均よりも身体的能力が劣っていたのです。


 それでも幼いうちの成長は一律ではありませんし、ここで周囲から見限られたわけではありませんでした。

 ただその大人たちの期待が、かえって男の自尊心を傷つけてしまったことは事実で。


 兄のように出来ない駄目な自分。


 そのようにして人知れず傷付いていた幼いその心を、ぽっきりと折った男、それが兄であったことに誰が気付いていたでしょうか。


 兄は弟を助けてやろうと、まったく悪気なく、男を鍛えようと試みました。

 これが大変良くなかったのです。


 投げ飛ばされ、模造刀を打ち込まれ、毎日増えていく怪我、時には気絶するように倒れ込むことも。

 辺境伯領の他の子どもたちの多くもこんな風にして身体を鍛え育っていくのですが、男はそうは受け取れませんでした。

 兄にとっての可愛がりは、弟にとっては暴行だったということです。


 そのうち男は兄の誘いだけでなく、その他あらゆる鍛錬の時間から、逃げ回るようになります。



 でもまだこの時点で、男には他に歩むべき道がいくつも用意されていました。


 いくら辺境伯家といっても、物理的に強い者ばかりが生まれてくるわけではありません。

 物理的強さに向かないタイプであったとしても、その場合に進むべき道はご先祖様たちがちゃんと示してくれていました。

 特殊な領地であろうとも、領民の生活を支えるために他貴族と変わらぬ領主としての仕事は必要になります。いずれ当主の弟となる彼にとって、その種の仕事はいくらでも考えられるものでした。


 ですからこの男を当主のスペアとして教育することを早々に諦めた彼の両親は、当主を支えられる人間になるよう教育内容を転換したのですが……。


 はじめは男もはりきって机に向かい勉強をしていました。


 というのは、兄が文武両道というタイプではなかったからです。

 彼の兄は苦手だからと逃げる男ではありませんでしたが、座学においても兵法などの戦に関わることばかりが得意で、領地経営に関するような分野については伸び悩んでおりました。


 これなら兄に勝てる。

 男は希望に燃えていたのです。


 ところがまたしても、男の心が折れる事態が発生します。

 これに関しては不憫と言うしかありません。





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