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【完結】あなたを愛するつもりはないと言いましたとも  作者: 春風由実
本編

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83/96

83.精一杯愛しますとも


 咳を続けたあとに、ジンは言います。


「あの二人はともかく、いずれ伯は本当にこの地に来るだろう──あの方は基本的には有言実行の人だから──そう悲観しなくても大丈夫だ」


「はい」


「だが来たら最後、帰らなくなりそうだな」


「お母さまが回収しますよ」


「回収──そうだな──」


 また会う日まで。

 私も頑張らなければなりませんね。


 侍女たちの話をよく聞かなかったことをそれはもう叱られまして。

 聞いていなかったわけではありません。ただ王都の話に関しては実際に王都にいる従姉妹たちの方が詳しいだろうと、適当に流してしまっただけ。

 お説教中なのにそんな話をうっかり零してしまったものだから、お説教はそこからさらに長引きまして。


 ぶるり。


 最も恐ろしい瞬間を思い出して、一度震えてしまいました。



 気を取り直しまして。


 こちらの侍女たちは素晴らしい腕前をお持ちだと感じておりましたが、さっそくお母さまのお眼鏡にかなったようですね。

 侍女たちの言う通りにしておけばまず間違いはないのだから、今度こそよく話を聞きなさいとのこと。

 お母さまが言うには、それも夫人としての務めだそうです。


 夫人としての努めとあれば、精進せねばなりません。

 シシィをはじめ、侍女たちの言葉によく耳を傾けて、次回はお母さまが叱る必要のないほどの立派な夫人として出迎えられるように頑張りたいと思います。


 お母さまから、夫人としての心得も教わりましたからね!




 ジンが後ろから私の髪を束でとって、毛先を指でくるくるとしていました。

 何をしているのかしら?


「邪魔者もやっと消えたところだ──そろそろ二人の話をしてもいいか?」


 邪魔者……?

 まさか、侵入者が──。


「ごほん。邪魔者の件は忘れてくれ。その──ひとつ聞きたいことがあってな」


 はい、なんなりとお聞きくださいませ。


「その──あれだ──ごほん。今は私を愛する気になれているだろうか──?」


 はい?


「勘違いとはいえ、愛するつもりはない宣言をしていただろう?それを撤回するとは聞けていなかったから──」


 はっ!そういえば。

 誤解を解いて、謝罪もしましたけれど。

 その発言をどうこうという話はしておりませんでした。


 でも、それって……今さら必要かしら?


「ミシェル。私は弱い」


「いえ、お強いですよ?」


 手合わせをしましたから、ジンが強い人だと分かっています。


「ミシェルの言うようには強いが、ミシェルに関しては弱いんだ」


 どうしましょう?

 何も分かりませんでした。


「つまり──言葉で安心したいということなのだが」


 まぁ。安心をお求めでしたか。

 それが弱いこととどう関係するのか、よく分かりませんが。


 言葉……何を伝えたら安心してくださるのかしら?


「うん──そうだな──ミシェルにははっきり言わねば──」


 私は待つことにしました。

 ジンが懸命に言葉を出そうとしていることが伝わったからです。


 こうして待てば、お父さまも話せたのかしら?

 いえ、きっとお父さまは無理ね。

 私が聞き流している間も、延々と関係ない話を続けていたんだったわ。


 ジンとお父さまは違うようです。


「今後私を愛する気が少しでもあるならば──ただそうだと──その一言でいいんだ」


 力ない声で言われると、心が落ち着かなくてそわそわとしてきます。

 私は膝の上で急いで振り返り言いました。


「愛しますとも!夫人として精一杯ジンのことを愛しますわ!」


「ミシェル!」


 がばっと抱き締められて。

 それからはまた記憶喪失となったのです。


 この記憶喪失後は、よく寝た後のすっきり感がなく不安だったのですが。

 お医者さまも悪いものではないと言われましたし、これも侯爵夫人としての大事な務めとのことで、もう気にしないことにしています。

 侍女たちも大丈夫だと言ってくれましたからね。




 こうして私は、当初の想定とは異なり、領民を愛し、夫を愛する、理想とする侯爵夫人を目指すことになったのです。

 お母さまが、夫人は「愛」を与えるものだと教えてくださいましたからね。

 私のこの、人のお役に立ちたいという気持ちも、領地を守りたいという気持ちも、愛なのだそうですわ。

 だから私でも、お母さまと並ぶ立派な夫人を目指せると言ってくださったのです!


「置き土産ね」


 そう言って扇の向こうで笑っていたお母さまは、なんだか楽しそうでした。

 私の成長に期待してくださっているのかしら?


 それからお母さまは最も大事なことを私に打ち明けてくださったのです。

 扇には「愛」が詰まっているんですって!だからこんなに重いものなんですって!

 ですから扇の使い方もシシィたちに見ていただきながら、特訓中なのです。



 ふふふ。

 というわけで、今日もこの地を守るために騎士団で鍛錬をしてきますわ!


 あら?どうなさったの、旦那様?

 え?要らぬ土産を置いていくなですって。何の話かしら?





 おしまい。




 本編はこれにて完結です。

 長くなりましたが、最後までお付き合いありがとうございました。


 今後、番外編としてミシェルの父親や叔父の話などが続きます。


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