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8.私の知らないお作法があるようです


「『あなたを愛するつもりはない』、あれはなんだろうか?」


 私は少々困りました。


 なんだろうかと聞かれましても。

 言葉通りの意味でしかありません。


 答えに迷う私に、侯爵様はさらに問い掛けます。


「君はそれから、君のことは気にするな、初夜だろうと気遣うなとも言っていたが、その真意を知りたい。何を想って、そのように発言したのだろうか?」


 一語一句覚えていてくださったのでしょうか。

 私自身、上手く言えた!と思うばかりで、仔細まで覚えていなかったのですが。


 愛さないと言ったことは覚えているのですけれどね。



 さて、どうしましょう?


 お噂を聞いて、すべて知っていますよ。とお伝えしては、失礼な気もしますし。

 それにどうも、私の言葉が伝わっていないことも気掛かりです。


 私のあの発言については、侯爵様の方がよくご理解いただけそうなものですが。

 もしかして妻には秘密の恋とするつもりだったのでしょうか。


 それでしたら、なんとお答えしたらよいものか……。



 私はここではじめて侍女を一人も連れて来なかったことを後悔しました。

 彼女たちはいつも、私が誰かとの会話に行き詰まると、さっと一言で場が流れるようにしてくれていたのです。


 さりげなく私に最良の答えに繋がるヒントを与えてくれたり。

 時にはお相手の方が侍女の発言から何かを理解して、話題を切り替えてくれることもありました。

 酷い相手のときには、私が何か言う前にご退室いただけるよう促してくれることも多かったです。


 私はどれだけ助けられてきたのでしょうね。

 この目力だけで切り抜けてきたわけではなかったのかもしれないと、今になって思います。


 胸の奥がじんと熱くなり、懐かしさと、もう会えない悲しみが襲いました。

 もう直接にお礼を伝えることも出来ません。

 もっともっと大事に出来たのではないか、してあげられることがあったのではないか、そんな後悔の念が一挙に押し寄せてきました。



 ふいに手を取られ、驚いて侯爵様のお顔を見れば。

 瞳を覗き込むように凝視されてしまいます。


 そんなにお近くで、それほど目を凝らして真剣に見なくても、私のことを観察出来ると思うのですが。


 近いです。顔が近い。近過ぎます。


「何がどうなってあの発言に至ったか、どうか教えてほしい」


 手をぎゅっと握り締められたのですが。


 逃げませんよ、私は。

 捕まえなくても平気ですよ?


 せっかく食べている間、解放されていて、座る位置が近いなぁ、真横からじっと観察されていると食べにくいなぁと感じるくらいで済みましたのに。

 これはまた長く捕まってしまうのでしょうか?


 はっ、分かりましたよ!

 謝罪だけでなくお願いのときにも、手に触れるものなのですね?


 きっとそうに違いありません。


 こういうことなら、最新のお作法を従姉妹たちから学んでおくべきでしたね。

 いつも彼女たちを適当にあしらっていた私への罰でしょうか。


 この新しいお作法にも慣れていきましょう。






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