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61.今は弟が父を制御しているそうです


「あなたたちの身柄は、殿下に預けることに致しますが、わたくしも共に王都に参ります」


 お母さまは扇を閉じたまま、静かに語りました。

 従姉妹たちは固まっているようです。


「伯より我が家の恥の後始末を一任されておりますからね」


 お父さまの代理ということなのでしょう。

 アルではまだ頼りなかったということかしら?


「違うわよ、ミシェル。わたくしたちの代の問題はわたくしたちの手で始末を、という伯と共通した考えの元に、領地から動けない伯の代わりにわたくしが動いているのです」


 お母さまが「始末を」と語ると、とても恐ろしい想像をしてしまうのですが。

 それは気のせいと思うことにして、私はほとんど条件反射で返事をしていました。


「はい!」


「アルは元気に伯を制御しているから安心なさい」


 伯を制御……?

 アルがお父さまを制御しているのですか?

 それで安心とは……?


「はい……」


 とりあえず返事をしてみたのですが。


「分からないのに返事はしなくてよろしい」


「はい!」


 やはり叱られてしまいました。

 お母さまにはすべてお見通しですね。


 けれどもお父さまは、お母さまと離れて大丈夫なのでしょうか?

 ひとときも側を離れたくない、という人でしたのに。


「これは伯へのお仕置きも兼ねておりますから、あなたは気にしなくてよろしいわ」


 お仕置き……。

 返事をすることはやめておきました。


「後で分かるわ。それではあなたたちのために、よく話してあげましょう」


 お母さまは、昔から私にもよくそう言っておりました。

 けれども今は、どうも従姉妹たちに向けて言っているようです。


 普段は口数の少ない方ですからね。


「こちらに来る前に王都に立ち寄り、義弟の除籍手続きの書類を提出してきました。ですから義弟は、我が家とはすでに縁を切った状態です。つまり、ただの平民となって、これから裁かれることになります。しかしながら、我が家から恥を出し、その恥が王家や他家の皆様にご迷惑を掛けたことは縁を切ろうと変わらぬ事実。わたくしは、愚かなあなたたち一家のために、これからご迷惑を掛けた皆様にお詫びをして回ることになります。ここまで聞いて、まだ分かっていないようですから、さらに言ってあげましょう。つまりあなたたちは──」


 お母さまの扇の先が従姉妹たちに向かいます。


「謝罪の義務さえ持たない、平民の娘です」


「嘘よ!」


「そうよ、嘘だわ!たとえお父さまが縁を切られたとしても、お母さまがいるじゃない!」


 レーネとミーネが堪らないと叫びました。

 お母さまは扇の先を戻しながら、淡々と伝えます。


「あなたたちの母親は離縁すると言いましたが、生家からは縁を切られました。ですから両親共にただの平民となって、我が家とは縁のない存在となったということです。あなたたちもこれからはただの平民の娘として、王都にて裁かれることになります」


「そんなっ」


「酷いわ!」


 震える声で二人は叫びました。

 レーネの顔は蒼白、ミーネは逆で赤みを帯びています。


「おかしいじゃない!」


 そう叫んだのもミーネです。

 ミーネは本当に強い子だったのですね。


「おばさまもおかしいわよ!ミシェルばかり大事にするなんて!」


「おかしいことはありません。ミシェルはわたくしの娘」


「それがおかしいのよ!不貞の子なんて卑しい身の上の娘を受け入れるだなんて!それなら正当に生まれたわたくしたちの方を助けなさいよ!わたくしたちは正当な当主の姪なのよ?」


 胸がきゅっと痛みました。

 後ろからジンがそっと優しく抱き締めてくれまして、少しだけ心の痛みが和らぎます。


 でもミーネの言う通りです。

 私より従姉妹たち二人を養女にでもした方がお母さまはきっと──。


「その件もこちらに来た理由です。ようやく、ようやく伯が覚悟を決めました」


 覚悟ですか?

 お父さまは何の覚悟を決められたのかしら。


 え?もしかして、従姉妹たちを娘にする覚悟ですか?


 私のこの考えが正しいようで、レーネの顔にも色味が戻っておりました。

 ミーネも期待を込めた瞳でお母さまを見ているような気がします。


 けれどもお母さまは私を見ていました。


「ミシェル。あなたには謝らなければなりません。わたくしの力が及ばず……あの男はいつもわたくしの言いなりでありながら、あなたのこととなると本当に頑固で聞く耳を持たず、そのうえ頭も弱くなって……」


 あの男はいつもは言いなり?

 私のことになると頑固で聞く耳を持たず頭が弱くなる?


 何の話でしょうか。


 それよりお母さまが私に謝ることなんて、今までにあったかどうか……。


 なんだか胸がドキドキしてそっと押さえてしまいました。

 いつの間にか、その手に手を重ねられていたのです。


 ジンの動きに気付けないくらいに私は緊張していたようで、お母さまの言葉を落ち着かない気持ちで待ちました。






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