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51.記憶喪失になったようです


 駆け足で時が過ぎていました。

 すでにハルが来てからもう三日も過ぎたと聞いたときには、さすがに私も耳を疑ったものです。


 頭を打った覚えはありませんが、記憶喪失かしら?

 いつもなら思い出せることですのに、頭のどこを探してもその三日の記憶が見付かりません。


 もしかして頭にまで異常をきたし……どうしましょう。

 身体もなんだか重くて辛くて、稀に見る健康体が消え掛けているように感じます。


 そのうえ頭までおかしく。これは夫人として──。


「ミシェル、大丈夫だよ」


「はぅっ」


 どうしてかジンに声を掛けられますと、変な声が出るようになりました。

 これも頭の影響でしょう。


 顔が熱いのも、頭を打ったせいなのかしら。


 きっとそうに違いないわ。

 打った記憶さえ消え去ってしまったのね!


「……ミシェルお姉さまは、何をなさっておいでなの?」


「え?」


「どうしてそのような体勢なのかと聞いておりますのよ!」


 ぷりぷりとご立腹は、従姉妹のミーネでした。

 その姉のレーネは、目を大きく見開いて、私を見ています。


 そのような体勢とは?いつも通り座っているだけ……まぁ!


「なんてこと!おります。おろしてくださいませ!ユージーン様!」


「どうして呼び方が戻ってしまったんだ?そんな他人行儀にされると悲しいよ?」


「はぅ。で、でも。従姉妹たちの前なのですよ?」


「君にとっては身内なのだろう?ならばいつも通りでいいはずだ」


「そ、それはそうですが」


 いいのでしょうか?


「良くありませんわ!はしたないですわよ、ミシェルお姉さま!」


 そうですよね。

 えぇ。そう思うのですが。


 どうしてジンの膝の上に座っているか、それがまず分かりません。

 


 従姉妹たちが来たからと聞き、私は応接室に連れられて……連れられるところからおかしかったようね。

 何故抱えられた状態で移動していたのかしら?


 そういえば、その前には何が……。


 侍女たちに身体中磨かれていたことは思い出せました。


「まぁ、執着が怖いわ」

「本当にね。さすが長く片思いしていただけのことはあるわ」

「着られるドレスが減ってしまうわねぇ」

「あら?今回は見せ付けたらいいのではなくて?」

「それもそうね」

「あなたたち、そのくらいにして慎みなさい」


 とよく分からない侍女たちの言葉を聞き流して、お湯加減の心地好さにうっとりと身を任せておりました。

 なんだか久しぶりに感じたのですよね。


 それから気が付いたら、いつの間にか綺麗なドレスに身を包んでおりまして。

 首の詰まったデザインですのに苦しさや動きにくさは一切なく、こちらもまた羽根のように軽い、とても楽なドレスでした。


 着替えの記憶もありませんが、そういえばメグの凄腕を見る間もなく、髪型も整え終えていましたね。

 ララも沢山塗りたくってくれていた気がしますのに、気が付いときにはもう化粧も出来上がっておりました。


 こちらの侍女たちは、密偵でもしていた方がよろしいのではないでしょうか?

 身支度を手伝った相手に記憶を残さないなんて、凄腕に違いないわ。


 やはり侍女に弟子入りをしたく──。



 ごほん、という音も耳元で聞いたせいで、背筋がぞぞっとしました。

 すまない、驚かせたな。そう耳元で囁くのもやめてくださいませ。

 

 顔だけでなく身体も熱くなってきました。

 これは重病かもしれないわ。お医者様に改めて診て頂いて──。



 片手で両頬をぷにっと挟まれていました。

 その手が閉じたり開いたり。


 ぷにぷにとしないでくださいませ。

 さすがに恥ずかしいですよ!


 え?膝の上にいて今さらですか?



「……侯爵様、父からの文は届いておりますでしょうか?」






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