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40.懐かしい人の名を聴きました


 この珍しい色をした瞳を持つ方は、一人しか知りません。


 歩き方も一致しました。

 声色は変わっていても、声の出し方は同じです。

 背丈も体付きも大きく変化しておりますが、それでも面影はちゃんと残っています。


 これは間違いないでしょう。


「もしかしてハルですか?」


「おぉ!覚えていてくれたんだね!そうだよ、ハルだよ!あのハルだ!」


 一段と輝きを増した瞳で、ハルは破顔します。

 私も嬉しくなって微笑みました。


「まぁ、大きくなって」


「その言い方。ミシェルだって大きくなったよ!」


 と再会を喜んでおりましたところ。


 あら?ユージーン様はどうされたのかしら?

 廊下に立ち竦み、天井を見上げるようにしながら両手で顔を覆っておられました。


「ん?どうしたんだ、あいつ」


 遅れてハルも、ユージーン様の様子に気が付きます。


「どうしてお前が──私だけ何故──」


「ミシェルはあいつがどうしたか分かる?」


 私は首を振りました。

 さっぱりと分かりませんが、心配でしたので、せっかく立っていたこともあり、ユージーン様のお側に向かうことにいたします。


「あの、ユージーン様?もしかして体調が悪いのですか?」


 しばらく間を置いてから、ぶわっははっと笑う声が後方から聞こえてきました。


 笑い上戸なところも変わっていないようですね。

 故郷で聞いた声はもっと幼いものでしたが、笑い方も変わりません。


 よくアルと並び、お腹を抱えて大笑いしておりました。


「なに?そういうことなの?あはは、本当に?え?そんなことになっていたの?」


 今も昔のようにお腹を抱えたハルは、そのまま膝を折って、腰を折って、床の上で蹲ってしまいました。

 そして苦しそうに悶えながら、床をバンバンと手のひらで叩いています。


 そんなに楽しいことがあったでしょうか?


 ユージーン様はじとっとした目でハルを睨んでおりましたが……この目はそう素敵ではありません。


 あの鋭く光る目は、いつに見られるものかしら?


「ミシェルはここに来て何日目だっけ?」


 顔を上げたハルが急に聞いてきました。


「え?ここに来て?えぇと……」


 客間にいたときを含めてのお話かしら?

 それとも侯爵領に入ってからのことでしょうか?


 結婚式からはまだ二日で、えぇと客間には……。


 朝陽がすっかり昇ってから起きた日があることも忘れ、朝一番に聞いた鳥の声を一、二、と数え始めてみます。


 後で思えば、食べた料理を思い出したら良かったかもしれません。いえ、それも昼食や夕食を取らなかった日などが含まれてややこしくなりますね。

 ベッドで眠った回数、いえ目覚めた回数を……二度目をした日もあってますます分からなくなりそうです。


 記憶から日数を割り出すのって大変だわ。


 途中でユージーン様が止めてくださって助かりました。


「ミシェル、こいつの問いになど真剣に答えなくていいぞ。お前も黙れ。妻を困らせるな」


「わぁ、黙れだって。不敬罪だぁ」


「はっ。出来るものなら裁いてみろ」


「冗談だってば。あはは。でもおかしいなっ。君は何をしているのさ。こんなに時間があったのに」


「くっ」


「ミシェル、ジンのことは忘れちゃった?」


 急に懐かしい名前を聞きました。

 もちろん、忘れてはおりません。人に対する記憶力だけはいいのです。


「覚えておりますとも。懐かしいですねぇ」


 元気にしているでしょうか。


「え!」


「は?」


「え?」


 驚く二つの声に、私も遅れて驚きの声を重ねてしまいました。

 一体どうなさったというのでしょう?




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