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4.寝たふりは許されませんでした


 お飾りの妻とは、領内ではどのような扱いになるのでしょうね。

 

 公式行事などで、侯爵様の隣に立てばよろしいのでしょうか。

 それともそういう場においても愛する方が立つことになって、私はひっそりとどこかに隠されて暮らす……。


 これは命があるだけ有難いと思った方が良さそうです。


 監視付きでも構わないので、領内で平民として暮らしてはいけないかと聞いてみましょうか。

 けれどもその監視役という仕事を新たに増やすことになっては、侯爵家としては不合理な申し出かもしれません。

 それに生かしておいたとして──。


 自分がその立場にあったなら、どうするか。

 そのように考えますと。


 どうしても私の命が危うくなってしまうのでした。


 王命を果たした、これが貴族として最も大事な結果ですからね。

 その後に誰がどうなったとしても、それはそれです。




 すぅっと息を吸い込み、手に持つカップから漂うハーブティーの香りを堪能しました。


 メインの茶葉は分かりませんが、どうも種々のハーブが調合されているようで、すっきりとした香りを嗅いでいるだけでも心が安らいでいく気がします。


 ラベンダーも僅かに含まれているようですね。

 これは気を遣っていただけたのかもしれません。

 というのも、自領には広大なラベンダー畑がありまして、乾燥したお花はお茶としても多用されているのです。

 しかしながら他領では、ポプリとして香りを楽しむくらいで、そのようにお茶として利用される方は少ないのだとか。

 ラベンダーに対して口に含むものという認識が他では薄いようです。



 これもまた、侍女たちの配慮なのでしょうか。


 ここに来てからというもの、侯爵家の侍女たちの働き振りには感嘆してばかりです。

 我が家の侍女たちも腕は確かでありましたけれど、ちょっとガサツで大雑把……おおらかな性格の女性が多かったものですから。


 急に胸がつんと痛みました。

 これがホームシックというものかしら。


 侍女を一人くらい連れて行けとお父さまには言われたけれど、断ってしまったのよね。

 彼女たちには、それぞれあの地に想い人や恋人、夫がいたものだから。


 夫も一緒にと言ってくれた侍女もいたけれど。

 長旅はきついし、王命で仕方なく結婚される相手がどう出るかも分かりません。

 連れて行ったところで、侍女として受け入れてくれるかどうか。


 それで皆には、このまま領地で両親や弟に尽くして欲しいとお願いしてきたのでした。


 そんな彼女たちにも、もう二度と会うことはありません。

 鼻の奥までつんと痛んだときです。


 扉からコンコンとどこか躊躇いがちに音が鳴りました。

 それは廊下ではなく、奥の部屋へと繋がる扉からに違いありません。


 この場合、返事をしなければならないのでしょうか。

 放っておいた方が、円満にことが終わるような気がします。


 初夜を成し遂げられなかった理由として、私が非礼にも寝入ってしまったから、それでいいではありませんか。

 そうです。それがいいです。


「開けてもいいだろうか」


 せっかく妙案だと思ったそれは、侯爵様の声掛けで台無しにされました。

 まだ寝入った振りも出来ますが、答えなかったら勝手に扉を開けて入ってくるぞ、という意気を声から感じます


 気のせい?

 いいえ、こういう勘は鋭い方ですので。


 仕方ありませんね。


「えぇ、どうぞ」


 ……さすがに早過ぎないでしょうか。


 扉の開き方に勢いがあり過ぎて、そのまま飛び込んで襲撃されるのではないかと、思わずこちらは身構えています。


 ところが部屋に入り扉を閉める姿は、ゆったりとした貴族らしい優雅なものに変わりました。

 たった今、勢いよく扉を開けた方とは思えませんね。


 こちらを見てにこりと微笑まれたかと思えば、今度はずかずかと速足で近付いてこられました。


 やはり襲撃ですか?


 と、つい身構えてしまうところは、私の悪癖でしょうか。

 この場合、先に悪いことばかり想像し過ぎたせいもありそうですが。




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