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2.政略結婚の鑑だと言われておりましたので


 政略結婚の鑑。


 私たちの結婚は、貴族の社交場でそのように揶揄されていたようです。

 というのも、伝え聞いていたことで、実際に私はそのように囁かれている場所に出向いたことはございません。


 それはそうでしょう。

 私は常に領地で過ごしていたのですから。


 中には領地を出て王都に居座り、社交に忙しくされているご令嬢もいらっしゃるようですが。

 私には到底考えられないことです。


 何故なら我が領地は、馬車で一月進んでも王都には辿り着かない辺境の地。

 その道中も平坦な舗装された道ばかりとはいきません。

 崖の淵に作られた危険な山道を進むこともございますし、古く朽ちかけた木橋の上を走ることもございます。

 時には宿もない山中で野営も必要なのです。


 そんな遠い場所に苦労してわざわざ出向き、貴族の集まる社交場に顔を出すなんて。

 余程の物好きでなければ、それをしようとは思わないものでしょう?


 驚いたことには、その物好きな者たちが身内におりまして。

 従姉妹たちは頻繁に王都と領地を往復し、帰って来るたびに、私に面白おかしく王都で耳に入れた情報を教えてくれていたのです。


 私はそこで、私たちの結婚がどのように言われているかを知りました。


「お飾りの妻になるなんて。大変ねぇ、ミシェルお姉さま」


 と言ったのは、父の弟の娘である従姉妹の一人、レーネだったと思います。

 それからその妹のミーネにはこんなことも言われました。


「結婚まで一度もお会いにならずにおくなんて。ミシェルお姉さまも悪いのですわ」


 お会いすれば、侯爵様の人となりを知って断ることも出来たでしょうと言うのです。

 むしろ侯爵様からお断りされたのでは?と言い始めたときには、レーネもうんうんと頷いておりました。


 けれども私には、二人が何を言って笑っているのか、よく理解出来ません。

 この結婚は王命なのです。


「侯爵様には想い人がおられるそうなのですよ。ですから、政略結婚の鑑と囁かれておりますの」


「ミシェルお姉さまも、そんな相手に黙って嫁ぐ、貴族令嬢の鑑と囁かれておりますわ」


 ということらしいのですが。




 私は湯に浸かりながら、ぼんやりとこれまでの経緯を思い出しておりました。


 侯爵家の侍女たちの腕は素晴らしいものですね。

 お部屋のあまりの美しさに感動していたら浴室へと導かれ、あれよ、あれよと身体を磨かれまして、気が付いたときには薄い布を重ねた心もとないドレスに着替えさせられておりました。


 これは、あれね。初夜の準備というものだわ。

 この労力が全部無駄になる予定なのだけれど、それはそれ、これはこれね。

 彼女たちはただ仕事をしているのでしょう。


 私が侍女たちに礼を伝えると、とても嬉しそうに笑ってくれました。

 お飾りの妻となることを知っていながら、嫌味を感じないこの笑顔は流石です。


 侍女の一人が肩にガウンを掛けてくれましたので、寒いということもなくなりました。


「ご夫婦の寝室には、そちらの扉からどうぞ」


 と言って、侍女は下がりましたが。

 開けなくていいのですよね?


 けれどもひとつ心配なことがございました。

 私の部屋だというこの場所には、ベッドがありません。


 ソファーで眠れば良いのかしらね?

 

 座ってみますと、ふわりと柔らかい座面に感動します。

 布地の手触りもよく、ここで眠るのは申し訳ない気もしますが……。


 毛布も畳んでありましたし、これを使って眠りましょうか。


 私はやれやれと肩を下ろして、侍女が置いてくれたハーブティーをいただくことにしました。


 まぁ、とっても美味しいです。

 これは何という茶葉でしょうか。あとで聞いておきましょう。


 それから、政略結婚をした身としてこの家でどう振る舞うか、ゆっくりと考えていきました。

 今夜は時間がたっぷりとありますからね。





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