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14.従姉妹たち一家についてよく知りませんでした


「君は噂をどこから?」


 顔を背けていた侯爵様が、しばらくして問いました。

 もうこちらを見詰めています。


 どちらに顔が向いているにせよ、相変わらず手はがっしりと捕らえられたままで。

 そろそろ本当に捕獲されている気分です。


「……身内からです」


 さすがに誰かは濁しておきました。


 彼女たちも利用されている可能性がありますからね。

 それはそれで失態ですし、こんな遠くの地で他貴族に身内の恥を晒すのはあんまりです。


 家の問題ですから、まずは自領で対処した方が良いでしょう。


 我が家にもすぐに調査をするよう促さなければ……王都にも一報を入れて、その後に父でしょうか。


 こういうとき、物理的な距離の問題は大きな支障となりますね。

 いつも隣接する敵国ばかり睨み付け、国内の情勢に疎いところは反省点です。


「そうだろうな。王都の情報を信頼出来る者から得るというのは当然のことだ。だがそれは……もしやとは思うが、辺境伯殿の弟御、君の叔父上殿ではなかったか?」


 何故ここで叔父様の話題に?


「そちらの王都での統括職は彼なのだろう?うちの同じ立場の者と接触し、話は通してあったはずなのだがね。私からの手紙もうちの者から彼へと託したはずだ」


 確かに王都といえば、叔父様ですが。


 叔父様は……思い出すお顔がぼやけています。


 父は兄として叔父のことをそれは可愛がっていたようで、今でも甘い対応をしがちだと聞いています。

 それを母が時折びしっと正し……つまりかなり甘えた方だそうで。


 それも領内での話らしく。

 王都の華やかな暮らしや、他貴族との社交は性に合っているとのことで、我が領地の王都代表は叔父がずっと務めていました。

 そして母が怖いのか、それとも合わないのか、自身では領地に戻りたがらず、情報や手紙などの伝搬には人を使うことが多かったです。


 だから会ったことも数えるくらいで。

 その妻である方はほとんど領地に戻ってきませんので、もっとお顔を知りません。

 叔父様が戻って来たときにも何故か、奥様はご一緒されず。


 そんな二人の娘である従姉妹たちもまた、叔父様と一緒に戻ったことはありませんでした。

 けれども領地は好むのか、姉妹だけで王都と領地を幾度となく往来しておりましたね。


 この通りですから、従姉妹たちは叔父様から何の話も聞いていない可能性はあります。



 このように思い返してみますと、叔父一家について私はさほど知らないのだと気付きました。

 従姉妹たちは領地に戻るとよく話してくれましたが、両親の話はほとんど聞かなかったのです。



 我が家と大分違った関係性であったことに、まさかこんな遠くの侯爵領に来てから気付くだなんて。


 どちらが悪いとは言いません。

 家族の形はそれぞれでいいと思いますし、当主家とそうでない違いもあるでしょう。

 領地と王都、拠点としている場所柄の影響もあるはずです。


 ただ我が家は共に行動することを好む家族だった、ということ。


 たとえば父と母は、どこかに出掛けるときにはいつも一緒でした。

 それは領内の視察のときにもそうで。

 お父さまが内政的な部分で少々頼りない部分があって、細かいところに目が付きにくいといいますか、いつでも敵に目が向いていたせいか内側の人間は誰でも信用しやすいといいますか、どこに行ってもお父さまの興味はすべて布陣だとか武器の在庫に集中する……とにかく視察に母が同行する件に関しては様々な理由もあったのですが。

 他の私的な用事のときにも、両親はいつも二人で過ごしていました。


 そして私もまた、弟と共に行動することが多かったのです。

 自然と私は生涯領地で過ごし、当主となる弟を支えていく考えを育んでいたのでしょう。

 だから共に学ぶこと、鍛えることも大切にしていて……。

 

 家族のことを思い出していたら、また胸の奥がじんわりと熱くなってしまいました。

 慣れたと思ったばかりですが、そうもいかないようです。


「そちらの線であれば……筋は通るな」


 考えごとをしていたら、侯爵様が何か結論を出されました。

 どんな筋が通ったか、詳しく教えて頂けるのでしょうか。


「すまないが、もう少し調査してから話をさせてくれ。身内の話ならばこそ、慎重にならねばならないと思っている。だが……ひとまずは互いに想い人などいないと分かったことだし。だから、その──」


 侯爵様は言葉を止めて、何か思案なさっておいでです。

 この渋いお顔は、実は想い人はいないがこの結婚をよく思ってはいなかった、といったような私には厳しいお話が始まるのでは……。


「改めて初夜をはじめてもいいだろうか」


 侯爵様が何か言いました。




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