06 新しい仲間
ロビーで待っていると、久我も帰って来た。
「お前、人の話聞いてたのか。俺ごと吹き飛ばしてんじゃねえよ」
「いやー、すまん。まあ、勝ったんだし良いじゃねぇか」
いや、良くねえよ。ここがゲーム世界じゃなかったらと思うと、恐ろしい。
俺は一度死んだことで、ここがゲーム世界だと実感することができた。
そして、久我の頭の悪さを再認識したのだった――。
◇◇◇
――次の日
「よお! 壱!」
「おはよう、久我……」
「何だ、お前まだ怒ってんのか」
「いや、怒っては無いけど……」
「あっそうだ、壱! 今度AFGの大会があるらしいぜ、一緒に出ないか!」
「遠慮しとくよ……」
「よっし、決まりだな! あと一人どうするかだよな」
おい、何勝手に決めてんだよ。と言おうとした時、始業のチャイムが鳴った。
授業も終わり、下校の時間になった。
「壱、俺らと一緒に試合に出る奴連れて来たぜ」
久我の隣りには、同じクラスの男子がいた。
「どうも、僕の名前は菅原 秀太。久我くんに言われてついて来たんだけど……」
「秀太は頭が良さそうだから連れて来た」
おい、勝手に連れて来たのかよ。俺はもう諦めて大会に出ることを決めたけど、そこの菅原くんは何も理解してなさそうじゃないか。
「よ、よろしくね菅原くん。ところで、久我からAFGの大会に出ること聞いてる?」
「AFGの大会!? 久我くんそんなの聞いてないよ」
「うん、言ってないもん」
言ってないもん、じゃねえよ。
「ぼ、僕、勉強はそこそこできる自信はあるけど、魔法はあまり得意じゃないんだ。 お役には立てないかな……」
「大丈夫だ、俺がいるから!」
大丈夫な理由に何一つなっていない。逆にお前がいることでこっちは不安だらけなんだよ。
「よっしゃ、AFGセンターに行こうぜ!」
俺と菅原くんは久我に強引に手を引っ張られて、AFGセンターに連れて行かれた。
「よーし、今日も絶対勝つぞ!」
「こ、ここがAFGセンター……初めて来たな……」
俺達はエレベーターに乗り、ゲーム世界へと入った。
ゲーム世界に入って直ぐ、大会への申し込みを行った。
「えーっと、AFG公式大会、"4月22日"」
22日……、22!?一週間後じゃねえかよ。久我のやつ、"今度"とか言ってたけど、直ぐじゃねえか。
まだ魔導の授業も始まってないのに、まともに戦える奴が一人もいないぞ。
「おい、久我、1週間しかないのに、勝てる見込みあるのかよ」
「ある! 俺らなら勝てる!」
は?言ってる意味が分からない。
菅原くんも呆れている。
「今日も特訓だー!」
そう言って俺たちを引き連れ、試合の受付所へと向かった――。
――真っ白な視界が開けた。ここは地面や壁は石でできている広い空間だ。
「ここは、洞窟だね」
菅原くんがそう言った。そんな菅原くんは青いジャージを着ている。
「秀太、お前ジャージかよ。センス無いな」
いや、だからお前が言うな。てかまた、鎧着てるし。
「あはは、僕こういうのはよく分からなくって。久我くんは鎧、似合ってるね」
「だろ、分かってるなお前」
「そんなことはどうでもいい。相手がいつ来るか分からないんだから、いつでも戦える準備しとけ」
「ほーい」
「う、うん」
俺達は洞窟の中を少し歩いていると、突然雨が降り出した。
「雨? 室内なのにか?」
「相手の魔法だよ、気をつけて」
菅原くんが注意を促す同時に、雨は次第に霧へと変わっていった。
辺り一帯が霧になったことで何も見えなくなった。
「ぐは……」
「どうした久我!」
久我からの返事は無い。
「菅原くん!」
「大丈夫だよ、僕は何とも無い」
久我だけが相手に何かやられたようである。
この霧をどうにかしなければ、俺か菅原くんのどっちかがやられる。
よし、少し強めの風吹かしてこの霧を晴らそう。
魔力を集中させ、風を起こした。
霧は晴れて、視界が開けた。しかし、隣りにジャージがボロボロになった菅原くんがいただけだった。
辺りの岩も粉々に砕けていた。
「み、神坂くん、凄いね。 こんな強い風吹かせるなんて。まるで小さな台風みたいだったよ」
そんなに力を入れたつもりは無かったが、想像以上に強い風が起こったらしい。
「台風の目にいなきゃ死んでたかもね……」
「そ、そんなに強い風だったの……ごめん……」
「それより、早く久我くんを探さなくちゃ」
「そ、そうだね……」
走って更に奥まで進んだ。
突き当たりまで行くと、相手三人が退屈そうに立っていた。
「やっと来たか、待ちくたびれたぜ。 ほらよ、これは土産だ」
太った男が地面に何かを投げた。それは、久我の鎧の一部だった。
クソッ、やっぱり、もう既にやられていたか。
「まあ、そういうことだ。大人しくやられてくれ」
「いやだね、俺達二人だけでもまだ戦えるさ」
「ほう、じゃあ死ね!」
細身の男が剣を大きく振りかぶり、俺を目掛けて走って来た。
剣を上手く躱し、相手の腹を蹴った。男は勢いよく壁に衝突した。
続いて、巨体の男が斧を横に大きく振った。
俺はしゃがんで躱し、顎に一発拳を入れた。相手は二人とも起き上がらない――。
菅原くんは太った男と対峙している。
「お前もうボロボロじゃねえか。そんなんで俺と戦う気か」
「ぼ、僕は最初から戦う気はないよ。戦うことは苦手だからね」
と言って、菅原くんはもと来た道へと走って行った――。
太った男は俺を見て言った。
「お仲間さんが逃げちゃったぜ。お前も仲間に裏切られるなんて、哀れだなぁ」
「そうか? 俺一人でお前を倒せるかもしれないぜ」
「おい、お前ら早く起きろ! こいつを早く仕留めてさっき逃げた奴やるぞ」
「「は、はい親分」」
さっき俺が倒したはずの奴らが起き上がって来た。
三対一での戦いだ。
細身と巨体の男が同時に襲い掛かって来た。
交互に攻撃を仕掛け、連携を取ってくる。
俺は反撃せず、攻撃を躱していく。
「ちょこまかと動きやがって、ムカつく奴だな」
「よしお前ら、あれやるぞ!」
「「はい!」」
何か必殺技的モノがくるのだろうか。どう対処するか……。
「うぉぉ! "岩弾"!」
「"水弾"!」
「"火球"!」
「「「奥義! "ファイアウォーターロック"」」」
えっ……ダッサー……。一人二発ずつしか出てないし……。
俺は"風斬"を六枚放ち、相手の奥義なるものを相殺した。
「な、何!? 俺達の奥義を相殺しただと!」
「う、嘘だろ……」
「あ、あり得ない……」
ここまでとは思わなかった。もう少し手こずると思っていたのだが……まあいい、菅原くんももう準備できただろう。
「おいお前ら、上見ろよ、上」
「上?」
相手の頭上に大量の鍾乳石があった。
俺はしゃがんで地面に手を置き、小さな地震を起こした。それによって、相手の頭上の鍾乳石は崩れ落ちた。
大量の鍾乳石が降ったことで相手三人は押し潰されて死んだ。
これらは全て菅原くんが計画したものだった。
というのも、俺と菅原くんが奥に向かって走っている時――
「多分だけど久我くんはもうやられたと考えていいと思う」
「うん、そう考えるのが妥当だよね」
「だからその方針で作戦を考えたんだ」
菅原くんは土属性の魔力を持っている。しかし、石や岩の形を変えることぐらいしかできないらしい。
作戦としては、菅原くんが相手の天井の形を鍾乳石に変える。その為の時間を俺が稼ぐ、というものだった――
俺と菅原くんはその作戦を完璧に遂行することができた。
「ふー良かった。 神坂くん、上手くいったね!」
「うん!」
俺達は久我がいなくても無事勝つことができたのだった。
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