01 入学試験
――俺は一体何者なんだ?
俺の最初の記憶は病院のベッドで目が覚めたところからだった。
血だらけで道端に倒れていたところを見つけられ、病院に運ばれたらしい。
俺には過去の記憶がまったくと言っていいほど無い。
分かっているのは、自分の生年月日と名前が神坂 壱だということだけだ。
自分が何処からきたのか、自分が何処の誰なのかも分からない……。
俺は15歳になるまでの約ニ年間、東京の小さい病院に併設されている施設で育てられた。
何不自由なく施設の仲間達と楽しい日々を過ごしていたが、俺は心の中でずっと、自分が何者なのか疑問に思い続けてきた。
だから、自分の記憶を探すことを決めた。
その第一歩として高校に入学することにした。
俺は、日本で最も大きい高校"魔導高等専門学校"に決めた。
この高校は各都道府県に一校あり、政府直轄の学校である。
この学校に入学すれば、何か手掛かりを得られるのではないかと考えた。
入学試験日までの約一年間、近くの公立図書館で独学で基礎科目や魔導、武術について勉強した。
俺はそれなりに才能があるらしく、基礎的な魔法はもちろん、恐らく高位の魔法までも、直ぐに会得することができた。
――入学試験当日
試験会場には約一万人もの受験生が集まっていた。
この中で合格できるのは約千人……
試験項目は二つ、1筆記試験、2実技試験である。
俺は最初の筆記試験を受けるため、筆記試験の会場へと向かった。
指定の席に座り、試験が始まるのを待った――
試験時間になり、試験官の開始の合図と共に筆記試験が始まったのだった。
◇◇◇
試験官の終了の合図で筆記試験が終わった。
他の受験生を見てみると、納得のいっていない様子が窺える。
確かに、難易度の高い問題ばかりだった。
だが、俺はそれなりにできた方だと思う。
そんなことを思いながら、次の実技試験の会場へと向かって行った。
実技試験は、市街地や森林を模した訓練場にて、一組約500人で行われる大規模な実戦形式の試験である。
試験内容は、「出現する魔物を倒して、ポイントを稼ぐ」ということだけである。
俺は3組目になり、試験のステージは"市街地"となった。試験時間は一時間、ルールは、他の受験生への攻撃禁止のみ――
俺は会場に着いて直ぐ、辺りを見渡した。
500人もいるだけあって、色んなヤツがいる。
金髪のイケメン風のヤツがナンパしていたり、これ見よがしに自分の筋肉を見せているヤツなど……。
そんなこんなで辺りを見渡していると、突然サイレンの音が鳴った。
「緊急事態発生、緊急事態発生、A地区に魔物が大量発生しました。出動可能な戦闘員は直ちに出動して下さい。繰り返します――」
このアナウンスを聞いた受験生達は、2パターンに分かれた。
状況が理解できず唖然と立ち尽くす者、そして、状況を瞬時に理解して、動き出した者だ。
俺も瞬時に理解して、動き出した。
数分移動した場所に、一匹の魔犬がいた。
俺は手を前に出し、手の平に魔力を集中させ、初級魔法"火球"を放った。
見事命中し、魔犬は光る粒子となり、消えていった。
その時、左腕から音がして、いつの間にか腕に腕時計のような機械が付いていることに気がついた。
機械には、ポイント"1"点と残り時間が表示されていた。
また新たに魔物が数体出現した。俺は、この魔物も難なく倒した。
ここは、訓練場の中心部に近いが、周りには人が少ない。しかも、魔物が沢山出現するという都合の良い場所だった。
俺はこの場所で地道にポイントを貯めていくことにした。
◇◇◇
――時間が45分を経過した時、俺は、"1"点の魔物を地道に狩っていたことで、"32"点を獲得していた。
この調子でいけば、"45"点ぐらいまではいけるだろう考えていた矢先……
爆音と共に巨大な何かが、中心部に降ってきた。
「「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」
という受験生の声が、俺のところまで届いた。
俺は、急いで中心部へと向かった。
中心部には、大型の巨人が一体と、周りに小型の巨人が数十体いた。
既に、多くの受験生が巨人達によってやられ、倒れていた。
僅かだが、動くことのできる受験生は小型巨人を倒しつつ、大型巨人にも攻撃を仕掛けていた。
俺も動けるので、大型は他の人に任せて小型巨人を片づける事にした。
三体小型巨人を引き連れて、また、中心部から少し離れた。
三体を一体ずつ相手をするのは、流石に厳しいと考え、"風斬"を六枚放ち、小型巨人を斬った。
無事三体の小型巨人を倒すことができた。
小型巨人を倒したと同時に、近くで連発して爆発が起きた。その爆発は止まることなく、徐々に俺の方へと近づいて来ている。
爆発の正体は、赤茶髪の男が起こしているものだった。男は、爆発魔法により、次々と小型巨人を倒し、建物までも破壊していた。
「うぉぉぉ! 邪魔だ、邪魔だ! チビに用はねぇ、デケェのは俺が倒す!」
赤茶髪の男はそう言いながら中心部へと走っていった。
まだ、大型巨人は倒されていないようだった。
俺も討伐に協力しようと思い、また中心部へと向かった。
中心部へと急足で向かっていたその時、突如建物の角から小型巨人よりも大きい中型の巨人が現れた。
中型巨人は俺を見るなり、殴り掛かってきた。
俺は、突然のことで対応できず、数十メートル先へと飛ばされた。
幸いにも、受け身を上手く取っていたおかげで、無傷だった。
中心部で大型巨人を倒すのを手こずっていたのも、中型巨人が現れたからだろうと予測した。
俺は起き上がろうとしたが、中型巨人はもう目の前まで来て拳を振り上げていた。
瞬時に防御魔法を使おうとしたその時、甘い花の香りがした。それと同時に、目の前の巨人が光の粒子になって消えていった。
俺の目の前には、中型巨人ではなく、黒長髪の女が立っていた。
「あ、ありがとう助かった」
俺は、お礼を言ったが、女は何も言わずに立ち去ってしまった。
図々しいがせめて、心配の一言ぐらいあってもいいのではないのかと、俺は思った……。
◇◇◇
そんな事がある内に、被害は出たものの、大型の巨人を含めた全ての巨人は、三十人近くの受験生達の協力により倒されたらしい。
――そして、一時間が経過し、終了のアナウンスがあった。
俺の最終的なポイントは、"53"点だった。
ポイントが一桁の人も多く、俺は稼げた方なのだと分かった。
俺は、あの冷酷な女に、再度お礼をしたいと思い辺りを探したが見つからなかった――。
途中、危機はあったが俺は無事、入学試験を終えることができたのだった。
◇◇◇
合格発表は学校で行われる。俺は、ドキドキしながら掲示されている場所へと向かった。
掲示板には、五十音順に名前のみが掲示されている。
ま行の欄をゆっくりと見ていく。
――神坂 壱――という文字があった。
他人から見たら冷静に見えるだろうが、嬉しさで今にも飛び上がりたい気持ちだった。
斯くして、俺の高校への入学が決まったのだった――。
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