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桃石の正体

しばらくの沈黙の後、一斉が口を開きました。


「吉之助殿の言う事はもっともな事。素材が無い以上作刀は出来ません。オレの刀はあなたに作ってもらったモンなんで、鬼にも負けんでしょう。鬼が来た時はオレが斬ればいい。太郎、お前は木刀でやれる事をやれ」


「しかし、傷を負っていては」太郎は言いました。


「これよりも酷い状態で戦った事は何度もある。問題にはならん」そう言った一斉は視線を吉之助に移し、「無理を言って申し訳ありませんでした。ではまた」と会釈をして扉へ向かいました。太郎も会釈をして振り返ると、


「また、団子食べに来てええからね」と女が言いました。


太郎は向き直りニッと笑い「ありがとうございます」と返しました。「あの、お世話になったのに名前も聞いておりませんでした。教えて頂いてもええですか?」


「わての名か?名は、『はつ』いいます」


「はつ殿ですね。また鬼が来るかもしれません用心して下さい。では」太郎は出口の方にもう1度体を向けました。


一斉が扉を開け外に出ると、その扉に大きな影が飛び込んできました。その物体は外に出ようとしていた太郎に当たりそうになりましたが、ギリギリで反応した為直撃はしませんでした。それでも僅かに腰のあたりにかすり、桃石が入っている巾着が飛び床を転がりました。飛んできた物体は大きな鳥で、小さな棚の上に止まりました。


「何ですかこの鳥は?」驚いた太郎が吉之助に聞きました。


「驚かせてしまいましたね。この子はハヤブサという鳥です。怪我をしていたのを助けたら懐かれまして、外とこの家を自由に行き来してるんです」


一斉ももう1度家の中に戻ってきました。「確か、名はマルでしたか?」


「そうです。目が丸くて印象的だったのでマルと名づけました」


はつは床に転がっている巾着を拾い上げました。「なんや硬い物が入ってんな。石でも大切にしとるんか?」


「そうです。中身は石です」太郎が答えました。


「ほんまに石やったんか。なんで石を?」はつが聞きます。


「それは桃石と呼んでまして、両親が言うには元は大きな桃でその中にオレが入っていたらしいです」


「なんやようわからん話やな。石を見てもええ?」


「どうぞ」


はつは巾着の紐をゆるめ中の石を取り出し、「桃らしさはないな」そう言っていろんな角度から石を観察しました。


「はつ、ちょっと見せてくれ」石を見た吉之助は立ち上がりました。


「どうしたんや急に」はつは驚きながら吉之助に石を手渡しました。


吉之助は石を受け取るとジッと石を観察し、「これは・・・」と呟きました。


「何かありましたか」太郎が問いました。


「この石は普通の石ではありません。刀の芯になる鋼です。さっきも少し言いましたが、刀は芯の部分の心鉄と外側の皮鉄とで使う材が変わります。芯の部分に使う為には柔らかさが必要になります。この鋼は一流の刀工の作った物で技術も見分ける目も見事なもんです」


「それを使えば鬼を斬れる刀が作れるいう事ですか?」一斉が聞きました。


「ええ。皮鉄になる材は昔作ったものが残っております。それを合わせれば一振り作れるでしょう。しかし、この鋼には思い入れがあるようですがよろしいのですか?」


吉之助と一斉は太郎に視線を向けました。


「ええ。悩む事もありません。この桃石を使って刀を作れという事だと受け取りました。鬼を倒すために」


「わかりました。鬼を斬る為だけに使う。人は絶対に斬らないと約束して頂けるのなら、作刀いたしましょう」


「必ず守ります」そう言って太郎は頭を下げました。

今回も読んで頂きありがとうございました!

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