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吉之助

翌朝、太郎が目を覚ますと、外を眺めて立っている一斉がいました。


「今のところ鬼は来てない」一斉は太郎が起きたのに気づき言いました。


「すみません。しっかり寝てしまいました」


「構わん。朝餉を食ったら行くぞ」


太郎達は朝ごはんを食べると、一斉の案内で刀工のいる家へ向かいました。家の前まで来て、一斉が扉を叩こうとした時、太郎が声を発しました。


「あれ、ここって・・・」


「なんや知ってるんか?」と一斉。


「はい。村に来た時、ここの人に団子貰って世話になったんです」


一斉が案内したのは、太郎達が村に来た時に世話になった女の家でした。職人らしい道具が家の中にいくつかあった事を太郎は思い出し納得しました。


「そうか」とだけ言い、一斉は扉を叩いた後、その扉を開け中へ入りました。それに続いて太郎も入ると、昨日はいなかった男が女と共にいました。


「どうしました?一斉」男は小さな木の椅子に座りながら言いました。男は60代くらいの見た目で、細い目と筋肉質な上半身が特徴的です。


「刀を作っていただけませんか」


「作刀は辞めたと言ったでしょう」


「オレのではなくコイツの為にお願いしたい」一斉は太郎を見せるように少し左に避けました。


太郎は少し頭を下げ「桃 太郎と申します。剣の修行にこの村に参りました」と挨拶した。


「誰の為とかの問題じゃありません」


「吉之助殿。あなたが刀を作らないのは自分の刀で人を斬って欲しくないとの事でしたね」一斉が問いました。


「その通りです。目の前で人が斬られるのを見て決心しました。さっきまで生きていた人が僅かな間に殺される。その行為に自分が携わっているのが苦しくなりました」


「その刀が人を斬らないとしたら?」


「人では無い・・・。ほお。鬼・・・ですか」


「え、知っとるんですか?」


「さっき表を掃除をしていた時に、源兵衛が通りかかりまして、ここだけの話や言うて聞かせてもらいました」


「あいつ・・・。昨夜、鬼の片付けを手伝ってくれたやつや」一斉は太郎にわかるように言いました。


「何を言っているのかと思っていましたが、一斉が言うとなると、鬼は本当にいるという事ですね」


「はい。殺したのは1匹で、まだ鬼がいる可能性があります」一斉は言いました。


「人ではなく鬼を斬る為に刀を作れという事ですか」吉之助は腕組みをしました。


「そういう事です。鬼の身体は硬く、コイツの刀も良いモンだと思いますが折れてしまいました」


一斉に促され、太郎は刀を腰から抜き吉之助の前に出し見せました。その刀を見た吉之助は細い目が僅かに開き、ゆっくりと刀を手にしました。


「これをどこで?」吉之助は太郎に問いました。


「山の中に埋まっていたのを見つけました」


「それは幸運なことで。この刀は良いモンどころではない名刀です。100年以上前の刀工、池 弥太郎殿の刀で、こんな綺麗な状態で残ってる物があるとは思っていませんでした」吉之助は紐を解き、刀を鞘から抜き出しました。そして、刃を刃先からじっと眺め、「見事な物です。技術だけでなく材も良い物を使用していますし、さすがの一言です」と言いました。


「その刀を直す事は出来ますか?」太郎は吉之助に聞きました。


「それは出来ません。刀を溶かし、もう1度同じ形に戻しても同じ物にはなりません。斬れ味も粘りも硬さも何もかも劣る物になります。刀とは呼べないでしょう」


「では、1から刀を作るしかないですか?」太郎が言いました。


「それも無理です。少し皮鉄が残っていますが、芯になる鋼は特に上質な材で無ければいけません。しかし、ここにはありません。作れたとしても、鬼を斬れるものにはならないでしょう」吉之助は刀を太郎に返しました。


吉之助の言葉を聞いて一斉も太郎も何も言えなくなりました。太郎は、自分の父が作った刀の凄さは初めて握った時に感じていました。一般的な素材や普通の腕の刀工が作った刀では戦えない事は明らかで、鬼がまだいるのであればどう戦えばいいのかを思案しました。しかし、考えてもいい案は見つかりませんでした。

今回も読んで頂きありがとうございました!

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