ハナとサスケと星空と
猿に案内されて太郎達は木々の間を歩いて行きました。岩があったり、ぬかるんだところがあったりしましたが、動物たちによって踏み固められた道は思った以上に歩きやすく、スイスイと進んでいきました。
「なぁ、猿には名前つけへんの?」太郎より前を歩くハナは、ふと顔を後ろに向けて言いました。
「名前か・・・。確かに、猿って呼ぶよりは名前ある方がええか」そう言って太郎は犬よりも前を歩く猿に呼びかけました。「なぁ、他の猿からなんて呼ばれてるん?」
その声を聞いて猿は振り返りました。「何もない。ワイは孤高の猿や。仲間などおらんからな」キリッとした顔で猿は言いました。
「じゃあ、名前考えんとあかんなぁ」太郎は腕を組みました。
「聞いてた?孤高の猿なんよ。名前はいらんのよ」
「まぁまぁ。今の間だけでもな。名前ある方が呼びやすいから」ハナが言いました。
「サスケはどうや?猿が木の上から飛んできたから、猿飛でサスケや」太郎は猿に向かって言いました。
「何でもええよ。今の間だけやから」ぶっきらぼうにそう言ってサスケは前を向き歩きましたが、しばらくすると木に登って飛び下りたり、蔓を伝って行ったり、喜びを隠せていない様子でした。そんなサスケの姿を見て、前を歩くハナを見て、仲間って良いもんだなと太郎は思いました。
太郎達が歩き始めて数時間が経ち、時間は酉の刻になりました。辺りは暗くなりもうそろそろ歩くのが危険な時間帯になりました。
「よし、今日はここまでにしよか」太郎が2匹に言いました。
その言葉を聞いてハナとサスケは止まりました。太郎は大きな木の幹にもたれて座り、サスケはその木の上に登って行き、寝やすい場所を見つけて枝に体を預けました。ハナは太郎の横に来ると、そこで伏せて休む体勢になりました。
「明日は時に余裕があるから、しっかり日が昇ってから動こか。動物に襲われるかもしれんから警戒はせなあかんけどゆっくり休んで」太郎は2匹に言いました。それぞれが返事をし、しばらくすると夜の静けさが辺りを包み始めました。太郎がふと空を見上げると、たくさんの星が光り輝いていました。その星々をボーッと眺めていると次第に眠気が襲ってきました。2日続けて歩き続けていたので、さすがに疲れが溜まっていた太郎は深くグッスリと眠りました。
そして、夜が明け辺りが明るくなり始めた頃、太郎はパチッと目を覚ましました。自分が思っていた以上に疲れがあった事を自覚しつつ、横と上を確認すると2匹とも眠っていたので太郎は安心しました。両手を組んで真上に挙げ伸びをした太郎が小便をしようと立ち上がった時、何か違和感を感じました。何だろうと思い体を確認すると、腰につけていた巾着が空っぽになっていて、きび団子が全て無くなっていました。
「あ!無い!」太郎は思わず大きな声を出しました。その声に驚きハナが目を覚ましました。
「何?びっくりするやん」目を細めたままハナが言いました。
「盗まれたんや、きび団子!」
「え?嘘やん。朝餉に食べるの楽しみにしてたのに!」ハナは立ち上がりました。
「何か動物とか来た気配あったか?」
「いや。地面には落ち葉もあるし、動物来たら気付くと思うけど」
「じゃあ・・・」と言って太郎が見上げるとサスケが見下ろしていました。
サスケは両手を胸の前でブンブンと振って違うというジェスチャーをしながら、「キキキッ!」と鳴きました。
「あ」太郎とハナは声を揃えました。「犯人やん」
今回も読んで頂きありがとうございました!