2.面倒な仕分け
浮世の柵ってやつで仕方なく引き受ける羽目になっちまったんだがよ……想像以上の難題っぷりに、俺はすぐさま頭を抱える事になったね。
性別がみんな男ってなぁまだしもだ、この骨ども、兄弟か何かって言いたくなるほど似通ってやがったのよ。
「……っしょうめ……年齢も身長もほぼ同じ、目印になりそうな病変の痕も無ぇ。……これでどうやって三体を識別しろってんだ……」
安請け合いした事を呪ったね、俺ぁ。
知ってっか? 人の身体の骨ってなぁ、大小取り混ぜて二百個以上あるんだぜ?
それが三体分。都合六百個以上の骨を、三つに仕分けしろ――なんてよ……
「はぁ……愚痴ってても仕方ねぇし……やれるとこまでやっちまうか……」
バラバラの骨を組み立てるにゃあ、ちょっとしたコツってやつがあってな。
まず、左右一対の寛骨と中央に位置する仙骨を組み合わせて、骨盤を作るとこから始めんのよ。実はこの三つの骨、関節面の形が複雑になっててな、別人の骨だと上手く嵌まらねぇんだわ。だから、こいつがピッタリと合うんなら、それぁ同じ一人の骨ってこった。
骨盤ができたらお次は背骨だ。仙骨の直ぐ上にある第五腰椎から順繰りに、胸椎、頸椎と繋げていく。第一頸椎と頭蓋骨の結合面も、別人の骨だと――基本的には――上手く繋がらねぇから、ここがピタリと嵌まるようなら、同一人の骨って事になる。これで腰から頭まで、いわゆる躯幹が組み上がる。……首尾好くいけばの話だけどな。
そして、こん時ぁその「例外」ってやつだったのよ。
「……っしょうめ……二つの髑髏が、どっちもキチンと嵌まりやがる……」
三体のうち一体分の躯幹は何とか組み上げられたんだが、残り二体の頭骨は、どっちの頸椎にもそこそこ上手く嵌まりやがる。作業は序盤から躓いちまった。
――あ? 手足の帰属を先に決めろってか? 残念だが、そりゃ素人考えってもんだ。
確かに、関節がピタリと適合するようなら、その骨は同一人のものと言える。けどな……同じやつの骨であっても、必ずしも綺麗に適合しねぇ関節ってもんがあんのよ。具体的にゃあ肩関節や股関節でな、関節面の凹部と凸部の大きさや曲率がかなり違うんだ。おまけに、脊椎骨と上腕骨を直接結ぶ関節は無ぇんで、腕の骨の仕分けは更に面倒な事になる。
「あー……どっかに違いが無ぇもんか……ん?」
自棄気味に髑髏三つでお手玉してたら、そのうち一つだけが僅かに重いような気がした。慌ててお手玉を止めて確かめてみたんだが……間違い無ぇ。一つだけが他の二つより、僅かじゃあるが明らかに重い。
「……待てよ……これぁひょっとして……」
頸椎から骨盤までの他の骨で比較しても、三体のうち一体だけが重くなってた。
生前の骨密度の問題か、スケルトンになってからの経歴が違うのか、その辺りは俺にゃあ解らねぇが……
「……取り敢えず、仕分けの手懸かりにゃなるってこった」
そんなこんなで、どうにか一体分の仕分けだけは済ませる事ができたんだが……生憎残った二体ってのが、頭の帰属がはっきりしねぇやつらだった。
「……ったく……おぃ、お前らだって生前は別人だったんだろうが。ちったぁアイデンティティってもんを見せやがれ……」
……なんて愚痴ってたのが効いたのかどうか、骨を撫で回してるうちに、今度は手触りの違いってやつに気が付いた。
前にも話したと思うけどよ、骨に筋肉が付着する部分はザラザラとした粗面になってんのよ。こいつぁ筋肉の発達具合によって違ってくるもんでな、力自慢のやつの骨ほど、ザラザラ凸凹した感じになんのよ。おまけにこの傾向ってやつぁ、基本的に全身の骨に現れるんでな、同一人の骨ならどこの骨でも、粗面の状態は似てるもんだ。
「……って事ぁ、こいつを手懸かりに二体を仕分け……お……上手くいきそうじゃねぇか……?」
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ま、結論から言やぁどうにか三体の仕分けを済ませる事ができたんだが……あんな面倒な真似は、二度としたくねぇって思ったね。
【参考文献】
・埴原和夫(一九九七)「骨はヒトを語る――死体鑑定の科学的最終手段」講談社+α文庫.