1.面倒な依頼
死霊術師ってなぁ、要するに「死」とか「屍体」の専門家だ。冒険者ギルドの検屍役とは、また違った意味でのな。だから、死霊術とは関係の無ぇ依頼が舞い込んで来る事も珍しかねぇ。殊に、俺みてぇに冒険者ギルドに所属してるとな、結構そういう依頼が――それも立場上断りづれぇのが――押しつけられる事もままあんのよ。
今から話す難題噺みてぇにな。
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「混ざり合っちまった骨を分別しろ? ……理由ってやつを訊いてもよござんすかね?」
冒険者ギルドから言い渡された指名依頼は、どうにも訳が解んねぇもんだったな。骨が混ざり合ったってのがまず解らねぇ上に、今度ぁそいつをまた仕分けしろってんだから。俺が事情を訊いたのも当然だろ?
「不審に思うのも無理はねぇ。あんまり自慢になる話じゃねぇんだが……」
そう言ってギルドマスターが話してくれたなぁ――なるほど、ちょいとお間抜けな話だった。
きっかけは王都の学院から、各地の冒険者ギルドに出された依頼だった。何に使うのか判らねぇが、スケルトン数体分の骨格を送れ――ってな。死霊術師ギルドも連名で依頼人になってるから、何かの研究にでも使うんじゃねぇかと思えるんだが……
「お前の方にゃ話は来てねぇのか?」
「来てませんね。……してみるとこれぁ、死霊術師ギルドとしての依頼じゃねぇですね」
ギルドとしての依頼なら、ギルド員である死霊術師に依頼を出す筈だからな。そうじゃねぇって事は……依頼の主体は魔導学院か何で、そこに死霊術師ギルドが協力してんのか?
「……で、俺にお座敷がかからなかったって事ぁ、スケルトンの入手は済んだんですね?」
「お前に話を持ちかけなかったなぁ、てっきり死霊術師のギルド絡みで動いてると思ったからだがな。お蔭で結構面倒だったぜ」
……ん? ここの冒険者が、今更スケルトンぐれぇで手を焼くたぁ思えねぇんだが?
「確かに、討伐だけなら問題無かったんだがな……」
ギルマスが溜め息を吐いたって事ぁ……本当に面倒だったってのか?
「何しろな、依頼の内容は討伐じゃなくて骨の確保だ。粉々に吹っ飛ばすわけにゃいかねぇもんで、意外と斃すのに時間がかかってな。お前ならチョチョイのチョイだろうが」
「いや、さすがにチョチョイのチョイってわけにゃいきませんや」
こちとら死霊術師たぁ言っても駆け出しだぜ? ガチで闘った事なんざ、数えるほどしか無ぇよ。歴戦の強者と一緒にされちゃ迷惑だっての。
「……で? 何が問題なんで?」
「あぁ……ぶっ締めたスケルトンを箱詰めにして、いざ王都へ送ろうとした時にな」
依頼書の注意書きを読み直して気付いたらしい。……〝全ての骨を一体ずつに纏めて〟――って書いてあんのにな。
「この件を担当したやつぁ、〝全ての骨を一つに纏めて〟だと思い込んでたらしくてな」
「……全部の骨を一緒くたに纏めちまって、その後で勘違いに気付いた――と」
「そういうこった」
……なるほど、こりゃ間抜けな話だ。けど、仮にも死霊術師ギルドが協力してんだから、ごちゃ混ぜのまま送っても、向こうで分別してくれると思うんだが。
ギルマスにそう言ってやったら、
「うちにも面子ってものがあるんでな。いい加減なギルドだと思われたら、色々と拙いのよ。下手をすると、所属している冒険者どもの評価にも関わってくるからな」
「なるほど……」
ギルマスともなると、そういうところまで考える必要があるんだな――と、俺が感心していたら、
「特に、スカッツやキーズのギルドより下に見られんなぁ我慢できねぇ」
……割と個人的な感情も含まれてたみてぇだ。
「……引き受けるに吝かじゃありませんがね、一応訊いておきますぜ。【鑑定】は使えなかったんで?」
念のために訊ねておいたんだが、
「一応試しちゃみたんだがな、案の定無理だった。【鑑定】ってなぁ基本的にブツの種類……精々が品質を見極めるのがいいとこでな。混ざっちまった骨の持ち主までは表示しちゃくれねぇそうだ」
おぉ……そうなのかよ。俺は【鑑定】持ってねぇから知らんかったわ。
「で、やってもらえるな?」
「……できるかどうかは請け合えませんがね、まぁ、できるだけの事ぁやってみましょう」