王立騎士団と銀の犬 4
二人は無言のまま、街中を歩いていく。
(そういえば、王立騎士団にいた時はフードを目深にかぶっていたし、一瞬だけ見せた姿だって、魔法の紐とメガネで偽装した今の姿とは違うのに。どうしてすぐ私だとわかったのかな?)
今のエレナは、ごく普通の地味な容姿のはずだ。
確かに、魔術師ギルドの職員の制服を着てはいるが、パッと見た印象は先ほどとは違うはず。
「あの……。どうして私が、エレナだとすぐにわかったんですか?」
「それは香りが……。いや、王立騎士団の情報網をもってすれば、簡単だ」
「それもそうですね」
なぜか、少しだけレイの耳が赤くなっていた。そこまで寒いわけでもないのに。
「それにしても、ほんの少しの間に、危険に巻き込まれているから久しぶりに焦ったな」
「たしかに、ギルド職員は危険に巻き込まれることもありますが、最近そんなに危険な案件はなかった……はずです、が」
そこで、エレナは最近なぜか市場から消えてしまった、解毒の魔法薬、そして多数の騎士団員たちが毒に侵されていたという事実に思い当たった。
それは、王立騎士団や魔術師ギルドを相手にした、周到な計画に基づいた強大な陰謀だったのかもしれない。
(――――ん? 今日の出来事って、もしかしなくても第一級レベルの危険な案件だったの?)
ギルド長もエレナを窓口に立たせないのは、安全のためだと言っていた。
たしかに、王都中の解毒魔法薬が買い占められ、ましてや魔法ギルドを相手に、納入できないようにするなんて、よほど強大な組織や大貴族にしかできないだろう。
「そっかぁ……。ギルド職員なのに、危機管理意識が乏しかったですね。レイ様、助けていただいてありがとうございました。これで、貸し借りなしですね!」
「……は? 俺たちに巻き込まれたのを助けて、借りていた恩がなくなるはずないだろう」
「……え? そうですか? 助けていただいたのは事実です。ましてや、私はギルド職員ですよ? レイ様は、私の命の恩人です」
「真面目なのか……。変わっているのか?」
なぜか、ますます耳元が赤くなったレイの歩調は、だんだんと速度を上げていく。
必死になって、エレナはそのあとを小走りについていく。
大通りに出ると、そこにはエレナが遠目にしか見たことがないくらい豪華な馬車が停まっていた。
まさかと思ったのに、当たり前のようにレイは、その馬車へと近づき、勢いよくその扉を開いた。
「……数日間、ギルドを休みになったという情報はすでに得ている」
「えっ、そんな情報どうやって」
「――――王立騎士団だからな」
(王立騎士団怖い!)
王立騎士団というのは、いったいどんな情報網を持っているのだろうか。
エレナは、王立騎士団というだけで、何でもできてしまうのではないかという気がしてきていた。
「とりあえず、その恰好は目立つな。服を買いに行くぞ」
「えぇ……? 家に寄って頂ければ、着替えてきますけど」
「礼も兼ねている。付き合ってくれ」
「……わかりました」
(でも、我が家の家訓は、簡単に人には奢られてはいけないというものです。お財布にいくら入っていたかな。騎士団長さまが連れて行ってくれるお洋服屋なんて高いのでしょうね……?)
違った意味で、心臓が高鳴ってしまう。
(いざとなったら、ギルドカードに貯めこんでいる秘密資金に手を付ければいいか。さすがに使えるよね? カード……)
レイが、珍妙な生き物でも見ているような視線を向けていることに気が付かないまま、走り出した極上の乗り心地の馬車の中、エレナは大きく何度も頷いていた。
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