コミカライズ記念SS フェンリルくじ引きと予言師の受難
この物語ではお久しぶりです!
本日よりめちゃコミ先行にてコミカライズ開始。
漫画はこぐま先生が描いてくださいました。
記念SSもお楽しみいただければ幸いです!
ラディルが、赤銅色の瞳を輝かせる。
その視線の先には、エレナがいる。
『視えるのは――クジ?』
ラディルは困惑した。どうしても必要な素材を手に入れるために未来を視たところ、エレナがクジを引いている姿が見えたのだ。
そして、彼女が大量のクジを引いた直後に、自分がクジを引いている姿が視えた。
「そういえば……エレナとレイ・ハルト卿の未来を視たときも、フェンリルのぬいぐるみが視えたな」
魔術師ギルドの双子の魔法薬師。
彼らの手にかかれば、作れない魔法薬などないという。
噂では、不老の研究は成功しているらしい。
実際、本来大人のはずの彼らが子どもになっているのだから、それは事実なのだろう。
彼らが欲している素材――それを手渡すのが取引成功の鍵だ。
「しかし、フェンリルクジと素材の繋がりが、さっぱりわからない……」
ラディルは赤銅色の瞳を妖しく煌めかせた。
彼の瞳に映るのは、大興奮しながらフェンリルクジを何度も引いているエレナの姿。
彼女が狙っているのは、以前手に入れた大きなフェンリルのぬいぐるみの番バージョンのようだ。
その隣で真剣な表情でクジを引くエレナを見つめるレイの姿。
「――あいかわらず、レイ・ハルト卿はエレナに夢中だ」
ラディルはため息を一つつき、フードを深く被ると街を歩き始めた。
***
「大丈夫ですか!?」
「ええ、親切なお嬢さん」
幸いなことに老婆の変装は成功し、エレナはラディルが先日の予言師であることに気がついていないようだ。
「実は腰を痛めてしまいまして」
「まあ! 荷物を持ちましょう。立てますか?」
疑うことなく、ラディルが扮した老婆に手を貸すエレナ。
彼女が変わらずお人好しであることは疑いようもない。
「……ありがとうございました。お礼にこれを」
「これは?」
「フェンリルクジの引換券です」
「……フェンリルクジ!?」
エレナの目が輝いた。本当に彼女はモフモフの狼が好きだ。
「でも……こんなにたくさん」
差し出した引換券は、束になっている。
「お好きでしょう? モフモフが……」
「好きですけど、どうしてご存じなのですか?」
「そのポシェットにマスコットが付いているではありませんか」
実はエレナは、フェンリルのぬいぐるみを手に入れてからも、何度かフェンリルクジを引いていた。
もちろん、二等や三等が手に入ることはなかったが、手に入れた小さなマスコットはお気に入りで最近はいつも鞄につけて持ち歩いている。
「あの、でも……あれ? もういない」
腰を痛めていたはずの老婆は、少し目を離した隙に消えていた。
エレナは首をかしげたが……。
「せっかくいただいたから、クジを引こうかしら」
彼女は立ち上がり、王都のメインストリートへと向かうのだった。
***
「エレナ殿!」
メインストリートに着くと、元気な声が聞こえてきた。
「リドニック卿!」
飼い主を見つけた犬のように走り寄ってきたのは、赤茶色の髪の騎士だ。
彼が笑うと、八重歯がキラリと光る。
だが、エレナはもう、それが八重歯ではなく牙であることを知っている。
「レイ様……」
後ろから歩み寄ってきたのは、レイだった。
白銀の髪に金色の瞳をした彼は、今日も光り輝かんばかりに麗しい。
彼はエレナに微笑みかけた。もちろん、彼の口元にも牙がチラリと覗くのだった。
「どうしたんだ?」
「実は……」
エレナが老婆を助けたことや、お礼にくじ引きの引換券をもらったことを説明すると、レイが眉根を寄せた。
「……あいつの匂いがする」
「……あいつ?」
「丁度、今日の仕事はこれで終わりだ。付き合おう」
「では、直帰したと騎士団に伝えておきますね!」
「ああ、頼む」
止める間もなく、ジャンは疾風のごとく走り去っていった。
「さあ、行こうか」
当然のようにエスコートの手が差し伸べられる。
手を重ねると、強く引き寄せられた。
エレナは、レイに手を引かれ目的の店へと向かうのだった。
***
「……再び、フェンリルのぬいぐるみがこの手に!」
「エレナがすでに持っているものと同じだろう?」
「違います! これは番なのです! 女の子ですよ」
「……番」
レイがエレナに向ける視線が、ほんの少し熱を帯びる。
だが、その変化に気がつくこともなくエレナは興奮したように言葉を続ける。
「男の子と女の子のフェンリルは、仲がよくてずっと一緒にいるんです!」
「そうか……」
「ふふ、男の子のフェンリルは変身したときのレイ様にそっくりです」
「――番だというなら、これはエレナということだな」
「えっ……」
エレナはフェンリルのぬいぐるみを抱きしめる力を思わず強めた。
おそらく、対になったフェンリルのぬいぐるみを見るたびに、レイの言葉を思い出してしまいそうだと思いながら。
「さあ、屋敷に戻ろうか」
「え……ええ」
二人は仲良く並んで去って行った。
***
「いらっしゃい」
「クジを引かせてくれ」
二人が去った直後に現れたラディルがクジを引く。
何を引き当てるのかはわからないが、この先に目的の素材を手に入れる未来があることは間違いない。
引き当てたクジは、金色に輝いていた。
「特賞……!」
「特賞……?」
大きくベルが鳴り響いた。
「フェンリルウォッチング、秘境三泊四日の旅~!!」
「……は?」
確かに、一等にはフェンリルぬいぐるみ、特賞にはフェンリルウォッチングの旅と書かれている。
だが、前回までは特賞はぬいぐるみだったはず。
「これは一体……?」
「実は、フェンリルのキャラクターの権利を公爵家が買い上げたそうで……特別に支援いただき今回の特賞は旅行になったのですよ」
「レイ……ハルト!!」
そうだったとラディルは思う。
エレナお気に入りのフェンリルシリーズを、レイが放っておくはずがないのだ。
「――だが、フェンリルがいるのは秘境のそのまた奥だぞ……?」
「運がいいですね~」
運がいいというか……フェンリルがいくら好きだからといって、一般人がこの特賞を当ててしまっても困惑するばかりだろう。
エレナであれば、諸手を挙げて喜ぶかもしれないが……。
「……だが、秘境の奥に目的の素材があるのだろう」
「素材?」
「なんでもない……」
ラディルはチケットを手に、大きなため息を吐きながら店を去った。
3泊4日ではすまない、命がけの冒険をすることになる――すでにその未来は彼の瞳に映っているのだから。
小説を書き始めて一年足らず。元旦に書き始めたこの物語を電子書籍に続きコミカライズという形でお披露目できることになりました。
いつのまにか商業デビュー五年目になりましたが、ひとえに皆さまが物語を読んでくださったおかげさまです。ありがとうございます! これからもよろしくお願いいたします。 氷雨そら




