赤い狼と魔法薬 3
そして、今、フィルの前には、キュルンッとあざとく首を傾けた、中型犬がいた。
つまり、赤みを帯びた薄茶色の毛並みの狼が。
「説明してくれるよね?」
「キュウン……」
「その姿でも、しゃべれるってわかっている私の前でそんな可愛さ……。かわい……」
フィルはたまらず赤みを帯びた毛並みの狼に抱きつく。
エレナのことをとやかく言うなんてできない。
フィルもモフモフが大好きだ。
「面目ないです。フィル殿」
「あまり、聞きたくないんだけど、聞くわ」
「双子の兄妹が作った魔法薬を、飲みました!」
「……ピット様とペティ様の!?」
うなだれた狼を、しばらく呆然と見つめていたフィル。
頭の中で、ナンバーワンギルド受付嬢であるからこそ、得られた情報から、その事実が引き起こす惨劇を計算していく
「よ、よりによって、なぜ」
ピットとペティの、幼い姿は、不老不死の研究のなれの果てだと言われている。
そして、その研究は、すでに不老までは、たどり着いているとも。
エレナは知らない、それは、ナンバーワンであるからこそ得ることができる情報だ。
「魔力のコントロールが悪いじゃないですか」
たしかに、先の戦い以来、レイだけでなく、ジャンの魔力は不安定だ。
急に枯渇して狼になってしまったり、周囲を少々燃やしてしまったり。
「魔道具を探すと、約束したよね!?」
「…………」
それは、ほんの1週間前の話だ。
フィルとエレナは、ジャンのために、魔力を安定させる魔道具を見つけると、約束した。
「フィル殿?」
「リドニック卿」
「守りたいんです」
「……っ!」
フィルは、いつだって、一人で立ってきた
エレナはたしかに、天才肌で、すべての評価が並だなんて、ギルド長ローグウェイが、彼女を守るための方便だ。
そんなこと、いつも一緒にいるフィルが一番よく知っている。
今まで、親でも、周囲の人間でも、すべてが秀と評価されるフィルを心配する人なんていなかった。
それなのに、ジャンは、フィルが子どもの頃からほしかったものを知っているみたいに、あっという間に境界を越えてくる。
「守って貰わなくても、私は」
「……そんな、フィル殿に惹かれてしまうのは事実ですが」
「…………」
「好きな女くらい、俺は守りたいんです」
そんなカッコいいことを言った、目の前のフィルの恋人は、可愛い可愛い狼だ。
それでも、それはフィルがほしかった一言に相違ない。
「じゃあ、守って、ジャン」
「この剣にかけて」
目の前の狼は、フィルが贈ったリュックを持っているだけ。
剣なんて持っていないから、フィルが守ってあげなくてはいけないに違いない。
少しだけその事実がおかしくて、口元を緩めると、フィルは、モフモフの毛並みに抱きついて、顔を埋めた。
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