双子の調合師
8月25日電子書籍上巻配信記念SSその1です。
楽しげに、王都の街並みを走り抜けていくのは、浅黒い肌にベージュの髪をした小さな双子だ。
ピットとペティ赤く煌々と輝く、羽を一枚もって、二人にぴったりなサイズ感の小さな家に駆け込む。
「まさか、こんなところで、不死鳥の羽に出会えるとは!」
さらさらしたベージュの髪をした少年ピットが叫びながら、地下への階段を駆け下りていく。
「おい。置いていくな! しかし、我々の悲願をこんな風に叶えてくれるとは、さすが我らのエレナちゃん!」
ピットを追いかけていくのは、クルクルとしたベージュの巻き髪、ピットと同じ顔をした少女だ。
二人の言葉は、どこか古びていて、見た目の年齢から考えれば、違和感を感じる。
けれど、それもそのはず。すでに二人は、レイよりも、エレナよりも、ギルド長ローグウェイよりも、何十倍も長い時間を生きている。
その噂は、事実なのだから。
「さて、今回は失敗できないぞ」
「たしかに。前回の失敗で、この体になってしまったのだから。……次失敗すれば、赤子になってしまうやもしれん」
「……怖いならやめるか?」
「やめるくらいなら、こんな姿になっているはずない。そうだろうピットよ」
「それもそうか」
にやりと笑った二人は、さっそく、不死鳥の羽を細かく分解しはじめる。
「ふむ、根元はどうする?」
「まあ、決まっている。一つくらいは、依頼主の希望に沿ったものをつくらねばなるまい」
エレナが作る魔法薬に比べて、格段に複雑で高度な魔法薬を二人は作る。
しかし、エレナの魔法薬に出現する副作用については、二人にとっても研究が追いつかない謎の一つなのだった。
「とりあえず、依頼は永遠の美貌を維持する魔法の化粧水だ」
「ああ……。しかし、わしらの姿を見ても、若返りたいという若造がいるのが不思議だな」
「――――たしかに、この姿では、強大な魔法を使うこともできないな」
「――――ああ。王都中の男が振り返るナイスバディも、消えてしまった」
「……そうだったか?」
「……忘れたか?」
二人の姿は、たしかに子どもになったが、ペティはそうなる前から……。
しかし、ピットは、その話題からは一旦離れることにした。
ああでもない、こうでもないと、いろいろな素材と組み合わせて、七色に光る薬液ができたのは、それから半日後のことだった。
「どころで、我らがエレナちゃんが、このレシピで魔法薬を作ったなら、もしかしたら副作用でわしらの悲願も叶うのではないか?」
「その可能性は、万に一つくらいはある」
二人はお互いを見て、そのあと遠い目をした。
「だが、もしも人ではなくなる副作用でもできてしまったら……。どうする?」
「その可能性も、万に一つくらいはある」
ピットとペティの周囲には、最近人ではなくなる存在が多い。
一人や二人増えたところで、たいした問題では、ないのかもしれないが……。
「次の調合に入るか」
「そうしよう」
「とりあえず、今度の薬の被験者は最近ギルドの周りをうろうろしている赤い狼の騎士なんでどうだ?」
「それはいい。火属性の魔力だった。ちょうどいいだろう」
二人は、今度は不死鳥の羽の堅い部分を乳鉢ですり始めたのだった。
電子書籍では、加筆のほかに限定SSもあり。ご覧いただけるとうれしいです。
さすがに脇役すぎる二人。電子書籍には入れられないので、こちらに置いておきます。
お気に入りのキャラです。
この後、いくつか投稿予定ですが、さすがにメインキャラにしようと思います。




