恋の予言と二人の幸せ
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ローグウェイが姿を消した後、狼姿だったレイは、魔力の回復と共に姿を変える。銀の髪に金色の瞳をした、神が作り上げた最高傑作のような美貌を持つ騎士の姿へと。
(ああ〜。理想の銀のモフモフが……)
「……元の姿に戻るたびに、エレナが残念そうな顔をするのは、気のせいなのか?」
「本当に、エレナ殿は、団長の毛並みが好きですよね」
確実に、気のせいではない。
それは、側から見ている、空気の読めないジャンにさえ分かることなのだった。
レイにとって、己の努力で手に入れたわけではない容姿のことを誉められるのは、それほど嬉しいことではない。
「俺だったら、狼姿のほうが好きと言われても、嬉しいですけどね」
「俺は、まだそこまで、狼姿を達観できていない」
劣等感と拒否感しかなかったレイは、狼姿を受け入れてもらえたことは、得難いことなのだと認識している。しかし、狼姿より、人間の方が、本当の姿だと認識しているのだから、その胸中は複雑だ。
「……帰るか」
今度、そのことについて、聞いてみようか。でも、聞くのが怖いかもしれないなどと、普段の思考回路であれば、決して考えないようなことを思い浮かべるレイ。
そんなレイの心中なんて、気づいてもいないだろうエレナが、神妙な顔をした。
「……あの、私」
「今日から、エレナは俺の婚約者だ。そうだろう?」
有無を言わせないように、腰に手をまわして、レイはエレナのことを引き寄せた。
その体は、細くて頼りない。こんな小さな体に、あんな行動力が隠されていることは、レイにとってとても不思議なことに思えた。
「じゃ、俺もそろそろ帰るんで」
ジャンも、あとから来た騎士たちに紛れて帰っていった。
ローグウェイ侯爵家は、不死鳥との戦いで、魔術師ギルドへの王命を遮った疑いで、侯爵と、嫡男ともに捕らえられたらしい。その直前、王立騎士団が遠征先で毒を受けたことや、解毒の魔法薬が市場から姿を消したことについても、嫌疑が掛かっているという。
「――――魔術師ギルドは、どうなるのでしょうか」
「……そうだな。少なくとも、ローグウェイ殿は、その責を受けてギルド長を降りることになるだろう」
「……そうですか」
「次のギルド長には、アーノルド殿が推薦されている」
おそらく、ディアルト・ローグウェイが、魔術師ギルド長にまで上り詰めたのは、エレナを守るための力を得るためだったのではないか。レイは、そんなことを思う。そして、おそらくその推測は、事実なのだろうとも。
そして、先の不死鳥との戦いで、レイとともに英雄と認識されたアーノルドであれば、これから大幅な再編が予想される魔術師ギルドも、まとめ上げていくことができるだろう。
「帰ろう、俺たちの家に」
「はい。レイ様」
二人は、ローグウェイ侯爵邸を後にする。
エレナを取り巻く運命は、まだこれからも波乱を巻き起こすのだろう。
なぜなら、二人の恋は、これからが本番なのだ。
恋の予言は、終わりを告げていない。
それでも予言の先には、エレナとレイの笑顔がある。それは、幸せな予感だった。
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