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予言と選択肢 2



 ジャンがしょぼくれている上に、屋敷に入ろうとしないので、ついついエレナは、そこまで大きくないその体を抱き上げた。


(狼に変わると、重さも変わるのよね。どういう仕組みなのかしら)


 大人しく抱き上げられたジャンだが、抵抗する様子はないようだ。


「あーあ。後で知らないから」


 リフェルが、ぞんざいな口調になって、ジャンに話しかけている。上品な侍女という印象のリフェルは、何故かジャンといると少しだけ粗野になる。まるで、ずっと一緒に過ごしている仲間のようだ。


「事実、特別な団長命令には、従うしかない。そういう誓約だから、俺は一人では屋敷に入れない」

「それはそうだけど、これでは逆にだんちょ……いや、旦那様への罰みたいです」


 団長という言葉が、何度か聞こえてきた気がした。屋敷に入るなと、命令されているらしいジャンは、門をくぐってしまえば、自由なようだ。

 そういえば、初めて出会った時も、ゴルドン卿は、団員は特別な命令に背くことができないと言っていた。それを使うほどのことを、ジャンはしてしまったらしい。


「とりあえず、食事にしましょう。今日は、旦那様は、先の騒動の事後処理で遅くなるそうです」

「そうですか……。では、図書室で待っています」

「えっ? 食べずにですか? いつ帰るかわからないのに」

「……せっかくなら、一緒に食べたいです」


 そこまで言うと、なぜかジャンとリフェルの二人は、動きを止めた。

 そして、リフェルはジャンの横にしゃがみ込み、ゴニョゴニョと二人で話し出す。


「ジャン、ちょっとこれは、可愛過ぎないか?」

「エレナ殿は、可愛いぞ? でも、専属騎士になるのは、俺だからな?」

「いや、私はすでに専属(侍女)になっているからな」

「なっ、なんだ……と?」


 とりあえず、二人が楽しそうなので、エレナは迎えてくれた執事のジェイルに、図書室の鍵を開けてもらった。


 先日数十冊の本を勢いよく読んだけれど、まだ、読んでない本がある。


 エレナは、先日読みきれなかった、予言に関する最後の一冊の本を手に取った。そして、円卓周囲に並べられた椅子の一つにストンと座る。それは、狼の表紙の絵本だった。


 さすがに絵本は、後回しにしていたけれど、開けてみれば古代エルディーナ語で書かれていた。


(それほど、古そうにも見えないのに、どうしてわざわざ、読むのが難しい古代エルディーナ語で書いてあるの?)


 もちろん、たくさんの言語を学ぶ機会を与えてくれたのは、あの日、エレナを救ってくれたギルド長ロードウェイだ。


「――――でも、これだけは違う。教えてくれたのは、あの人」


 そうつぶやくと、エレナはその絵本を読み始める。

 書かれている内容は、美しい精霊に恋した、一匹の神の遣いである狼の話だ。

 だが、その絵本は、第三者の視点で描かれている。


 古代エルディーナ語によっぽど長けている人間でなければ、ただの神話を題材にした物語としか読み解けないに違いないその物語。


 けれど、エレナは違う。

 むしろ、古代エルディーナ語には、子どもの頃から慣れ親しんでいる。


 メガネと髪紐をぱらりと外せば、エレナの髪と瞳は、淡い青色と桃色、そしてスミレ色の光を放つ。


「――――第三者……予言師の視点」


 エレナは、その物語に心が吸い込まれてしまうかのように、真剣に読み解いていく。

 だって、その物語は、とても良く似ているのだから。



最後までご覧いただきありがとうございます。


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