表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/67

ギルド受付嬢は手配される 4



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 くぅくぅと、可愛らしい寝息を立てながら、眠るエレナを愛おしげに見つめていたレイは、トンッと静かにベッドから降りた。


「はぁ。それにしても、何の我慢比べだ」


 狼の姿なのに、その表情は誰が見ても、苦笑していた。レイは、エレナに手を出すつもりはない。


 大事に守り続けたいのだ、今は。


「それにしても」


 グイッと体を伸ばして、軽く上を向いた時に、レイの姿は、元の空恐ろしいほどの美貌を持った、王立騎士団長の姿になっていた。


 変わらないのは、銀に輝く髪と、ギラギラと時に獰猛に光る金の瞳だけ。


 鬱陶しげに、前髪をかき上げるレイが、近づいた机の引き出しには、一枚の姿絵が収められている。王族から各方面に配られた、手配書だ。


 といっても、その人物が、何か罪を犯したというわけではない。むしろ、褒賞を与えたいので探してほしいという程度の触れ込み。


「パールブルーの髪に、スミレ色の瞳をした、所属不明の魔術師。顔は不明、年齢も」


 それが誰なのかもハッキリしないのに、わざわざ第二王子の直筆サインが施されたその紙は、とても異質だ。


 だが、王都にいる、一部の者にはそれが誰か分かるだろう。あの日、エレナは王都の門を通るために、あえてその姿を晒し、無所属の魔術師と名乗ったと、レイは耳にしていた。


「解毒の魔法薬を騎士団に届けたことで、すでにエレナは、目をつけられている」


 第二王子がエレナの本当の姿にたどり着くのは、時間の問題だ。金の瞳は、交戦的に輝く。


「……服を買ったのは、俺が直接経営に関わった店だ。店員も、ハルト公爵家の関係者。しばらくは、問題ないだろう」


 王立騎士団の中にも、口を割るものなどいない。いたとすれば、それは団長であるレイの責任だ。


 エレナの元の姿を知っているのは、レイと関わったあの日まで、魔術師ギルド長ディアルト・ローグウェイだけだった。


 そして、エレナの公の調査書は、全てが並だと記されていた。そんなことができるのは、ギルド長であるローグウェイだけだろう。


 明らかに、そこにはエレナを隠し、守ろうという意図が感じられた。


「王立騎士団と、魔術師ギルドが確執があるのは事実だが、会わないわけにもいかないか」


 ギルド長ローグウェイが、エレナを守ろうとしていたのは、間違いないのだ。秘密裏に会う手筈を整えるべく、レイは魔法紙にペンを滑らせ始めた。



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



 時を同じくして、夜の闇の中、黒いローブと黒い皮の手袋、そして嘴のように口元が尖った白い仮面の男が、レイの屋敷を遠くから眺めていた。


 月も出ない真夜中であるという理由だけではなく、その姿は誰の目にも止まらない。

 例外として、強い魔力をその身に持つ者だけが、認識阻害の魔道具に包まれたその姿を見ることができるだろう。


「あの日、俺の姿を確かに認識した君に、興味を示したのが始まりか」


 赤銅色の瞳が、その男の脳裏をよぎる。それは、彼女と出会う直前に、接触してきた幼い予言師が、フードの奥から覗かせた瞳だ。


『この後、初めに君を見つけた人を守ればいい。そのあとは、波乱の人生なのは変わらないとしても、少しは人間らしく生きられるだろうから』


 予言の通りに行動してしまったのは、ほんの気まぐれだった。少しだけ、興味が湧いたから、助けようかと思っただけだ。


 それと同時に、人間らしく生きられるという言葉は、その男にとって何よりも渇望する願いだった。


 今夜のように月も出ないあの日、見つけた少女は、フードを深く被っていても、髪と瞳が常人とは違い、強い魔力を帯びていることは、すぐに分かった。


 そして彼女も、認識阻害で隠しきっているはずの彼の姿を、真っ直ぐに見つめた。涙に濡れたその瞳は、スミレ色で、絶望を宿しながらも、あまりに澄んでいた。


「珍しい。髪だけでなく瞳もか。よく今まで生き延びてきたものだ。……俺と来るか?」


 思わず、そう声をかけていた。


 ただの気まぐれだ。誰も信じず、誰からも認識されないように生きてきたはずだった。


 それが、彼にとっての予言が示す、運命の始まりだった。


「……レイ・ハルト。彼女を守り、幸せにできるなら、俺はただ見守っているよ。だが、もし彼女を守りきれないと判断した時には」


 あの、光が見つからない路地裏で、白い仮面が、ほんの一瞬外されたのは、気まぐれか、運命か。


 そこに隠されていたのは、闇夜に浮かぶピジョンブラッドルビーのような、見る者を畏怖させ、魅了する瞳だった。


 その男の知る限り、世界中で彼女だけが、あの日、その瞳をまっすぐ見つめて、「きれい」だと無邪気に微笑んだのだった。



最後までお読み頂きありがとうございます。


『☆☆☆☆☆』からの評価やブクマいただけるとうれしいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ