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恋と運命と予言 2



 ✳︎ ✳︎ ✳︎



「はわわわわっ」


 人は感動しすぎると、上手く喋ることが出来なくなるらしい。


 壁の三方を天井まで、高い本棚がそびえ立つ。

 その本棚には、隙間もないほどに、本がぎっしりと詰まっていた。


 しかも、どう見ても古今東西網羅されていることが、その多様な装丁だけでもわかる。


 口元に当てた拳が、ブルブルと震えている。


「はわっ!」

「少し深呼吸でも、した方が」

「レイ様、レイ様っ! すごっ、すごい! 本当に、個人の蔵書ですか?!」


 プルプル震える反応は、通常であれば、棚の端から端までドレスを買った時に見られそうなものだ。


「……本が好きか」

「ううっ、好き! 好きですぅ! しかも、魔術に関する本ばかり! ここに一生篭っていたいですっ」

「え、一生?」


 その瞬間、沈黙の時間が訪れた。

 エレナは、我にかえって、図々しい失言に頬を染める。


「あっ、あの、すみませ」

「……好きなだけいれば良い。ふっ、一生でも構わないぞ?」


 迷惑だと、社交辞令なのだと思うのに、エレナは口の端が緩むのを止められなかった。


「社交辞令などではない。いつでもこの図書室に入って良い。執事のジェイルに、俺が不在でもここに入る許可を与えていると、伝えておこう」

「夢っ、夢ですか?!」

「夢じゃないが……。これなら、恩人に対する礼になるだろうか?」


 レイは、気負わない印象を受ける笑顔で笑う。

 

「え……。流石にそれは」


 解毒の魔法薬を納品しただけなのに、そのお礼が公爵家の屋敷にある図書室に自由に入る権利なんて、明らかに受け取りすぎだ。


 それは、ただ単に本が読めるという権利などではない。公爵家、あるいは王立騎士団長からの、信頼を得たと見なされるからだ。


「貰いすぎでは、ないで、しょうか」


 断らなくてはという、常識的な自分と、こんなにたくさんの本を読む権利なんて、手に入れられる機会、これから先、一生ないという悪魔の囁き。


「何を悩んでいる? 嫌なのか」

「嫌ではないです。嬉しすぎます。でも」

「信頼している」

「……は?」


 レイから発せられたのは、信じられない言葉だった。だって、レイとエレナは、昨日出会ったばかりで、貴族と庶民で、所属はそれぞれ騎士団と魔術師ギルドで。


 だから、そんな言葉おかしい。


「エレナのことを、信頼している。だから、ここに入る権利が、エレナには当然ある。……それに、気になることがあるのだろう?」

「っ……。はい」

「それなら、遠慮をするなんて考えは捨てて、俺を利用しろ」


(おかしいのに。本気だ、この人)


 さっきまで、目の前の本のことで一杯だったエレナの頭の中が、どうしようもなく目の前の人の言葉で塗り替えられていく。


(私、何をうだうだ悩んでいたんだろう。どちらにしても、予言に関することを解決しないと、レイ様に迷惑がかかるのに、命がかかっているかもしれないのに)


 例え、図々しい人間だと思われても、そんなの大したことではない。


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせてください」


 モヤモヤとしていた思考が吹っ切れたエレナは、レイに晴れやかに笑いかける。


「予言に関連した本は、こちらの棚だ」


 案内してくれるレイのあとについて、エレナは目的を果たすため、片っ端から予言に関する本を読み始めた。


最後までご覧いただきありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] レイ様が「ふっ」と笑ったところが好きです♪ どんな表情だったのかな〜と想像してはドキドキ(//∇//)
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