銀狼の騎士とギルドの受付嬢 7
「見ていてくださいねっ。エレナ殿!」
「よそ見をしているなんて、ずいぶん余裕だな」
魔法を見せてくれるという約束のためか、いつものことなのか、二人はなぜか真剣を構えて向き合った。
光魔法をかけて、レイが身体強化魔法を発動した。そのことが、はっきりわかるほどに、レイの体を包み込む魔力。
「すごいですっ! こんなの初めて見たわ!」
対するジャンは、全く魔力を体に纏っていない。しかし、代わりにジャンのごく普通の外見をした剣が、いつのまにか炎を纏っている。
「属性付与魔法っ! わ、戦闘でも使えるの?!」
属性付与魔法は、魔剣を作る時、使われるという魔法だ。そして、一流の使い手は、瞬時に作り上げる剣に属性魔法を付与できるという。
(といっても、こんな風に使えることを、私なんかに、簡単に見せても良いのかしら? 極秘事項では、ないのかしら?)
まだ、若く荒削りながらも、ジャンが、一流の騎士なのは間違いない。それでも、レイとの強さの差はあまりに歴然としていた。あっという間に、ジャンは、地面に倒れ込んでいた。
「ジャンの属性付与魔法なんて、まだ戦いで使用するには練度が足りない。なぜ、わざわざそれを選んだ?」
「だって、カッコいいじゃないですか?」
「――――ほう。なるほどな? では、ジャンが俺に勝てるまで続行だ」
そこまで言って、レイはエレナに視線を向けた。キララキララと瞳を輝かせるエレナは、まるで初めて美しい自分のためのドレスを目の前にした少女のようだった。
レイは、その顔を見て、本当に他の令嬢たちとは興味の対象が違うのだな、と妙に感心した。
すると、同時にその姿を、他の誰かに見られるのが、レイにとって耐えられないことのように思えてきた。
「……いや、そろそろ終わりにするか。エレナ嬢、満足してもらえただろうか?」
「最高でした!」
「そうか」
レイが笑うと、今日も犬歯が牙のように見えた。それを見た途端、あのモフモフの感触が隣にあったことを思い出して、エレナの胸は激しく高鳴る。
(あれっ? 趣味嗜好、性癖まで、最高相性?)
急に、予言師の言葉がエレナの脳裏をよぎる。
モフモフとした、毛並み。
誰よりも美しく強い魔法。
闇夜の月の光のような銀髪、そして月そのものの金の瞳。
『あなた、モフモフ好きですものねぇ』
もちろん、モフモフを除いた、レイ・ハルトは、完璧だけれど。たぶん、モフモフを含めても、理想そのものと言えるのは、少数派だろう。
(えっ、そういうことなの?)
それでも、エレナに受け入れてもらえないと、死んでしまうという部分だけは、納得がいかなかった。
だって、どう考えても、受け入れるかどうかの決定権があるのは、レイであり、エレナではないのだから。
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