6 ハマチ君だっけ?
「ふう、やっぱコーヒーにパイは最強よね」
「そう? 俺は腹が膨れれば、何でもいいかな。運動部だし」
「ゆー君? 食事は量より質よ。全く・・ダイエットする身にもなってよ。あっ、ごめん。ちょっとお手洗い」
「ん」
大きなハンバーガーをかじったまま豊が目で「了解」の合図を送る。
彼女が扉の向こうに消えると小柄な女子高生が豊の元に歩み寄ってきた。メイの高校と同じ制服だった。
「ごきぶり! えっと・・・・・ハマチ君だっけ?」
「スズキです」
「ああ、そうだった。で、メイは? さっき、駅で一緒じゃなかった?」
「トイレに」
話しかけてきたのはメイとおなクラの浜辺三緒だった。メイだけでなく、豊とも中学が同じで彼にとっては一個上の先輩に当たる。
「そう・・・。ところでメイの中学時代の黒歴史知ってる?」
「自分もおな中なので、だいたい知ってますけど」
「甘いわね。あなたがまだ小学生のときよ」
「あー、納得」
ようやくお腹が膨れて安心した豊は身を乗り出して三緒の話に聞き入った。
「私たちが中学入ったとき、バレーのマンガが流行りだしたの覚えてる?」
「はい。背の低い少年がめっちゃジャンプする話ですよね?」
「そうそう。で、私はバスケ部にしたんだけど、メイは背も高い方だったし、マンガの影響をもろに受けてバレー部に入ったの」
三緒は持ち帰り用の紙袋をテーブルの上に置いて、さっきまでメイが座っていた席に腰掛けた。
「でね。夏か秋ぐらいになって三年が引退して、一年のメイもトスとかスパイクの練習をやらせてもらえるようになったわけ」
「まあ、どこもそんな感じですね」
「で、ちょうど私らが休憩に入ったときにメイが味方のトスを受けて、天高くジャンプしたのよ! あのマンガの主人公みたいに!」
「はい」
「そしたらさ、メイって百七十センチぐらいあるから、高くジャンプしすぎちゃって顔レならぬ顔面アタックしちゃったの」
「ハハハッ。メイちゃんらしい」
「でしょ。それからメイったら、部活も出ずにかたつむって、どこかの雑誌に載ってたモデルが自分と同じ県の出身って知って、日に日にギャル化していったってワケ」
すっかり三緒が語り終えたところで、当の本人が登場した。
「あれあれ? なんで三緒がいるの?」
化粧を直したメイがキョロキョロしながら言う。
「うん、ちょっとね。持ち帰りオーダーしてたの。じゃ、また学校でね」
こうして三緒はクスクスと笑いながら、メイに席を譲ると自動ドアの向こう側へと去っていった。
「ねえ、三緒と何話してたの?」
「ちょっと挨拶しただけだよ」
「ホントに?」
「・・シャケ」
「何それ? 肯定のつもり?」
「ツナマヨ」
「・・・呪うよ?」
その後、豊は沈黙を貫いた。