5 なんかほざいた?
「次は“カフェでだべる”ね。節約したいから今日はメクドナルドで我慢して」
メイがトップシークレットのノートを確認しながら言う。
「今日は部ランチしてこなかったから、腹減ってるんだよね。何食べよっかなー」
豊の顔がオルレアンを出立した聖人ジャンヌ・ダルクのように光輝いた。
「そうだった、そうだった。ゆー君、空手部の練習帰りだったよね。まあ、私は小食だから・・・。気にしないで食べていいよ」
「あれで少食なんだ・・・」
「ん? なんかほざいた?」
豊はギャルJKの鋭い視線にすくみ上がり、練習試合で黒帯の選手と対峙したとき以上の畏怖を肌で感じた。
目的のメクドナルドは駅の反対側にあった。
駅舎の二階通路を抜けると改札やキオスクがあり、そこにはメイと同じ学校の制服姿もちらほら見えた。
ブレザーにスカートというデザインだが、県立なので色合いがシンプルだ。私服のメイはまるで他校の生徒を見るような感覚で通り過ぎていった。
***
ティーロリン、ティーロリン。
ポテトが揚がる軽快なリズムとファーストフード店特有の油の匂いが仮想デートなう、の二人の鼻を刺した。
「いらっしゃいませー、ご注文はお決まりですか?」
サンバイザーをつけた店員さんがサンキュースマイルで、ガゼルを目の前にしたヒョウのような目つきの豊に問いかける。
「ダブチのセットを一つ!」
「私はコーヒーと三角パイ」
「かしこまりました。お会計はご一緒でよろしいでしょうか?」
「はい」
そう言うと豊は左のポケットから小銭入れを取り出し、一枚一枚を数えるようにカウンターの上へと乗せた。
「ごちになりますっ!」
メイは無邪気に言った。
「それでは隣のカウンターへ移動してお待ちください」
「はい」
豊は受付番号が大きく印字されたモノトーンの感熱紙を受け取ると専用カウンターへと移動して、マイ番号が呼ばれるのを待った。
「ゆー君のおごり、おごり、おごりだよー」
メイはアップテンポなリズムで陽気に歌う。
「えっ! 違うって」
「まあ、いいじゃん。いいじゃん同じ町内に住む間柄じゃないの。あっ、番号ついたよ。場所取りしてるねー」
豊が口を挟む間もなく、メイは二人掛けのシートに向かってサンタさんからクリスマスプレゼントをもらった子供のようにすたすたと歩いていった。