1 まだいないけど
「デートで最初にコンビニに行くの? 何しに?」
「ゴム買いに」
「やる気満満じゃん」
幼馴染の鈴木豊は呆れた顔をしている。
「そうじゃなくて、いつそういうシチュエーションになるか分からないでしょ。病気とか怖いし」
「えっ? だって初デートでしょ? いきなりそれはないって」
「わかんないよ! 知らないうちに睡眠薬の入ったコーヒー飲まされて、爆睡してる間に襲われちゃうかもしんないじゃん!」
豊は目を丸くした。
「まあ、メイちゃんがそういうならスルーしよっか。で、その後は秋冬のアウターをチェックしてカフェね。これは普通だね。うん、デートっぽい」
豊が数学IAと丸文字で書かれたノートを見ながらメイを誉める。
「でしょ? これ数学の授業中に考えたんだよね。つまんない授業のときほどこういう作業が捗るのよねえ」
「その気持ちはわからなくもない。そして、最後はアニメね。ここは好みが分かれるから、相手の趣味とか聞いといた方がいいと思う」
「そっかあ。じゃあ、コンビニだけカットするわ。ありがと、ゆー君」
「それで彼氏とはいつ会うの?」
「えっ? まだいないけど」
「・・・・・どういうこと?」
豊はこの女子高生の意図を五秒ほど考え込んだ。
「だからあ、ラブな人が現れたときのためにデートプランを考えておいたの。告られてから慌てるの嫌でしょ?」
「まだ彼氏もいないのに、このデートプランがアリかナシか聞いたの?」
「うん!」
メイは元気よく答えた。
「心配して損した」
ファーストフード店の一角で豊は脱力したように言った。
「だって、私みたいな可憐なJKに、いつ白馬に乗った王子様がやってくるか、分かんないじゃん!」
メイは持論を展開する。まるで大日本帝国の真珠湾攻撃によって戦争の大義を得たフランクリン・ルーズベルト大統領のように。
「おいおい、それはドズニー映画の見過ぎだよ。現代日本にどうして白馬が登場するんだよ。せいぜい白い軽自動車に乗った営業マンぐらいだろ」
「全く夢がないなあ、イマドキの男子は」
メイは大人びた顔でイタイことを言った。
「・・・百歩譲って王子様がいたとする。でも、ジャパンに当てはめたら、天皇家の皇太子だぞ。まだ、小学生じゃないか。それに馬車に乗れるのは東京駅の丸ノ内中央口から皇居に向かう国賓ぐらいなもんだ」
「でも、十年経ったら、いい大人じゃない???」
「メイちゃん、皇族に嫁ぐつもりなの? “なんとかの宮のメイ”とかになるつもり?」
「いやあ、それは畏れ多いかな。私ギャルだし」
そう言いながらメイはオーダーした特大ハンバーガーにかぶりついた。