表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aに至る病  作者: 龍谷新生
2/7

2

幼い顔立ちを、真っ黒なショートボブが覆う。暗い印象を受けないのは前髪が短く切り揃えられ、くりっとした目元や小さめの鼻や口元がはっきり見えるからだろう……というのはゲーム内の文章をそのまま引用したわけだが、二次元世界での話のはずなのに、こうして現実として目の前に現れてもまるで違和感がない。


首から下も遜色なく、ゲームではおなじみの戦闘服だった。白を基調としたスタイルで、黒の縁取りを施した白いジャケットに白シャツ、首元には赤いタイ。スカートは白と紺のチェックで白いハイソックスが細い足を覆う。足元は黒いローファー。寸分違わずゲームの中の彼女そのものだ。


「どうかしましたー? 顔色が変ですけど。一発デカイの喰らいます?」


ふいに、その顔が眼前まで迫っていた。不穏な台詞があったがそれに反応する間もなく、慌てて取り繕う。


「ああ、いやいや! 何がおかしいわけじゃなく! 正常だから正常」


正常、とは言ったがどこまでが正常なのかは不明だ。それと、デカイの喰らいます? と聞きながら真顔で剣の束に手をかけるのはやめてくれ。


近未来セイバー ネネ&ナナ。発売から一年たった今でも売れ続け、既に百万本売った人気ゲームだ。自分は指揮官となり、戦闘隊員である「ネネ」や「ナナ」に指示を出しながら侵略してくる敵と闘う。決め台詞は「動脈切断! ついでに心臓真っ二つ!」。ものすごく物騒だが、彼女らのキャラクターがそれを中和しているようだ。


対してアドベンチャーパートでは二人とお出かけをしたり休暇をともに過ごすなどして絆を深めていく、平たく言えば女の子とデートを重ねて仲良くなっていくわけだ。いわゆるシミュレーション型アクションアドベンチャーである。


「……」


某サ○ラ大戦みたいだ、というツッコミは正当だ。

ただ決定的に違うのは、ヒロインが二人しかいないのと、二人しかいないがためにそれぞれのストーリーやキャラクターの掘り下げが半端ないところだ。なにせ他のゲームでは少なくとも五人くらい、多いものでは十人程度のヒロインがいて、酷いものだと「十股」ができてしまい、あげくの果てには十人以上の女の子全員から「ちょっとアンタ何してんのよ」と詰め寄られる修羅場イベントまで用意されていたりする。


二人ってやっぱり少ないよな……。


そう思いながら改めて「ネネ」を見る。かわいらしい見た目通りの天然さと不思議ちゃんを足して電波系で割ったようなキャラ設定。だがそれに反して、そんなキャラを忘れさせる面もある。それがあまりにも恐ろしく、トラウマになってしまった人もいるとか。


「ところで」


いつの間にか彼女は離れていた。俺に背を向けて、自販機の向こうに立っている。うなじのその白さに目を奪われる。ああ、綺麗だなあ……。

だが、次の言葉とその仕草で俺の気持ちは全て吹き飛んだ。


ネネは上半身を捻りながら顔をこちらに向ける。そのままブリッジするかのように体を無理矢理曲げる。まるで足を固定されたまま、頭を鷲掴みにされて捻られているかのよう。


ぎちぎち、と音がしなる。

ごりごり、と「首」を曲げるごとに音が増す。


やがて、見開かれた目が俺を一直線に捉え、彼女は口を開いた。


「あなたは」


眼から光が消え虚ろになり、開かれた口は涎をまとう。


「あなたはここで何をするつもりだったンデスカ?」


「え?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ