2XXX年 シブヤ
「くらいやがれ、化け物どもぉおおおおお!!!」
シブヤのショッピングビルをぶっ壊している、牛のような動物や女らしき物体。道路を挟んで向かいのスモールカメラからTVをかっぱらい、そいつらに向かって投げつける。それは見事に外れ、901という看板に命中した。焦点の合わない目で、心なしか笑ってやがる気がする。看板はむなしく落下し、入口付近に見るも無残な姿になった。
「あ、やば。せめて部品は返してください!って叫んでたな。あの店員。」
走って、ショッピングビルのカラフルな入口付近に向かうと、虚ろな目の、牛や女の化け物たちが上から集まってきた。一応、自分に殺意を向けてくる者への敵対意識はあるらしい。
「つられて来たな。あとはーーー」
後ろを振り返ると同時に、スクランブル交差点の信号などまるで無視して爆進してきた都営バスが、目に飛び込んでくる。図帯の大きいそれはすぐ横を突っ切り、化け物たちを踏み潰していった。
ビルの入口に激突する寸前で止まったバスから、やけに涼しい顔の男が一人出てくる。バスの背面に記された『学03 渋谷駅前行き』の電光掲示板が点滅し、妖しく男の姿を照らしているのだった。
「やっぱり『ゲルニカ』だったね、ピカソの。」
「お!高くつきそうじゃねーか。ていうか、怪我してないんだな。」
バスからこちらへ歩いてきた男の手を確認すると、先程まで乱雑な運転をしていたとは思えない長くて白い手には、化け物から絵に戻ったばかりの『ゲルニカ』が握られていた。
「なに。心配してくれたの?気持ち悪い。明日は雪かな。」
「んなわけねーだろ。ビジネスパートナーが死んだら、不便だし。あと最後の一言は余計。」
「二言でしょ。ついに数も数えられなくなったの?」
無表情のまま首をこてんとかしげ、元の位置に戻したと思えば、長い髪をかきあげる。一瞬でも彼の身を案じた自分を後悔するが、その仕草は女の私よりよほど色気があるから、憎たらしい。この時はその薄い唇から、自分の人生を揺るがす一言が告げられるなど、思いもしなかった。