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猫より役立て‼ユニオンブレイブ  作者: がおたん兄丸
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第32話:ナナミ・トクミヤは人を探して役に立つ09(ナナミとクロノスは聞き込みをする)



 お空に昇って街中をさんさんと照らしている太陽がずいぶんと傾き出していた。まだ空の色は青いが、もうじき夕方が訪れてまっ赤に燃えたような色になるだろう。三時の茶の時間を終えた街の人々は、もうひと踏ん張りだと本日の仕事の残りを頑張っている。


 この街にしては人通りがやや少なめな通りを、クロノスとナナミは横並びになって歩いていた。大きな通りでも人とぶつからないように縦一列になって歩くことも多いこの街では、横並びでおしゃべりをしながら歩くのはそれだけでちょっと贅沢な気分だ。

 しかしナナミは不安げな表情をしている。いま向かっている目的地を理解していないからだ。知っているのは隣にいるクロノスただ一人。ナナミは彼の後を追って横に着いている状態にすぎない。


「ねぇ、本当に見つけたのー?てゆうかどこ行くのかいい加減教えてくれてもいいんじゃない?」

「しつこいな。見つけたと言っているし、目的地もすぐ着くから教える必要がないとさっきから再三言っているだろうに。」

「でももう十分は歩ているよ~。」

「もう着くから。それよりも有難く思えよ…これでも俺はS級だぞ。そんな人間がこんな人捜しのクエスト如きに…あいや、クエストの難易度に良いも悪いもないが…とにかく、この捜し方は本来であれば金貨四十枚が相場のやり方なんだぞ。」

「金貨四十枚…って、金貨ぁ!?」


 クロノスの発言にナナミはびっくりして大声をあげて立ち止まってしまった。無理もないだろう。金貨と言えば大陸で主に使用されている硬貨の一番価値の高いヤツだ。並の金銭感覚の庶民ではその辺の商店の買い物でもせいぜい銀貨止まり。よほどまとまった支払いの時以外では滅多に使うことはない。

 そんな高価な硬貨を四十枚も…ナナミは頭がくらくらしてきた。


「時計塔に登って手紙をクンカクンカしただけで金貨四十枚って…ウソでしょ‼ボッタクリだ‼」

「だと思うか?残念ながらホントだよ。ただし値段を決めているのは俺じゃない。いつものように冒険者ギルドがそう設定しているんだ。そんくらいとらないと俺のところにばかり同じような依頼が来るからその対策だろうな。そもそも、俺が君のクエストを手伝わなかったのもこれが理由にある。もしルハイ嬢のクエスト報酬程度でS級の俺が動けば、今後も同じ報酬で俺に仕事をさせようという連中がうじゃうじゃ湧いてくるだろう。だからギリギリのギリギリ、クエストを受けた団員がこのままでは達成できないと判断してクランの不利益になりうる…そうなってやっと動けるようになったわけだ。」

「へぇ、なるほどねぇ。しっかし金貨四十枚。四十枚かぁ…ありゃ?」


 クロノスの話を聞きながらまた隣を歩くナナミだったが、横目で通りを目にすると、ここらはあまり来たことがない場所だったことに気が付いた。ミツユースの街はとても広いので、生活圏以外は用がなければ行くことはあまりないから、知らない通りはまだまだたくさんあるのだ。


「そうこうしているうちに着いたぞ。」

「ここって…」


 到着した場所には派手な外観の店がいくつもあった。昼間でも目立つそこに掲げられている看板の「サロン」とか「クラブ」とか書かれていた文字で、どういう場所かナナミはすぐに気づいた。


「あっ、もしかしてエッチなお店とかあるところでしょ‼色町ってヤツだ‼」

「イエス。」


 予想通りここはミツユースの一角にある色町だった。ようは酒を出すお店とエッチなお姉さんがいっぱいいるお店が立ち並ぶ、大人の世界だの夜の世界だの言ってもけっきょくは街の中で最も不純で欲望と暴力に塗れた場所だ。


「君はここへ来るのは初めてか?」

「当たり前だよ‼ナナミさんはまだ未成年‼こんな鼻の下伸ばした野郎の巣窟なんて来る用がありません‼」

「意外かもしれないが、女性もわりと遊びに来るんだぞ。女性向けのイケメン野郎が在籍するクラブもあるからな。女冒険者も金が入ればやってくる。」

「それってホストクラブ…やだちょっと興味あるかも。そっちは健全そうだし…‼」

「(体売らないと稼ぎが安いし大抵はソッチの趣味のある男向けのエロい店の男娼も兼任しているから、健全もクソもあったもんじゃないんだけどな。)」


 色町は夜は賑わいを見せる場所だが、なにせいまは真っ昼間。酔っ払いも娼婦もまったくおらず静かな通りとなっている。色町にとっては昼は夜で、夜は昼のなのだ。


 それでも全く人影が無い、というわけでもなく…色町を管理する団体に雇われたであろう清掃業者が道端で捨て置かれたゴミや、日中のうちに乾いてすっかり固まったであろう酔っ払いの吐しゃ物らしきものを水に流してせっせと片付けている。酒場の一つでは大工が大破した壁を修理していた。昨日に喧嘩騒ぎでもあったのだろうか?


「でもどこも閉まってるよ。昼間だとお店にも誰もいないんじゃない?」

「そりゃここらの店は夜が本番だからな。」

「なら夜に出直してきた方がいいんじゃ…でもそれだと仕事の邪魔になるかな?」

「別にその必要はないぞ。…ああ、もしかして君は店の方に聞き込みをしに行くと思っていたのか?なら期待をさせておいて悪いんだが…そもそも用があるのは表の店じゃない。そっちの通りだ。」


 クロノスが指を指す先には、店と店の間にある奥へと続く通路があった。しかしそれはとても狭く、人間一人がやっと通れそうなくらいのもの…あれでは通りというよりもただの壁と壁の間の隙間である。


 しかしクロノスはそんなことお構いなしに体を横向きにしてその隙間へ入り込んでいく。ナナミも文句を言わずに後を追った。


 二人は建物と建物の間にあった通路を蟹歩きでくねくねとした狭い一本道を道なりに進む。とにかく狭くナナミはスカートの裾を何度も壁に引っかけそうになってしまう。

 道中の塀の上では野良猫が猫集会を開催していて、それを眺めるナナミの足が止まりかけたが、スカートの裾とそれ以外では特に問題もなくかねがね順調に進んだ。



 狭くて短い探検を終えた二人はやがて少し広い場所に出た。確かに通路に比べたらいくらか広いがそれでも手狭で、小柄な人が三人も横に並べばあっという間に端から端までつながってしまい塞がれてしまうだろう。

 両脇には古い住居がいくつも建っている。普通の家よりも大きいそれは集合住宅だ。長屋とかアパートとかそんな風に言われるそれは、長い歴史の中で何度も増築や改築を繰り返したのだろう。壁の色が途中から変わっていたり、古い壁の上に新しい壁を盛って建物の形を保っているものまであった。


 ふとナナミが端っこにあった共用水道の方に目をやると、そこには女が一人いて顔を洗っていた。その女も顔をあげた時にこちらに気付き、水気をタオルで拭いてから呼び止めてきた。


「おっと、ここは客が昼間から来るようなところじゃないよ。たまに女に熱をあげるアンタみたいな奴がこっちの方にも来るけど、自分の部屋に男を上げるのは色町の組合で禁止されてんだ。娼婦のプライベートに踏み込みたい気持ちはわからんでもないけど、帰ってくんなよ。それにこの通り化粧もしてないから夢をぶち壊されるよ。」


 女はすっぴんだった。発言から察するに彼女はおそらく娼婦なのだろう。今のままだと派手な化粧をしている夜の状態はまるで想像がつかない。


「どうしても帰んないってんなら…」


 女は手を後ろに構えて何かを持っている。不法者対策の武器か用心棒を呼ぶ笛か…どうやらクロノスのことを日中に娼婦に会いに来た悪質な客だと誤解しているらしい。


 誤解を解かねばなるまい。クロノスはもろ手を挙げて降参の意を示してから、口を開いた。


「違う違う。ほら、女連れだ。女連れて女に会いに来るかっての。」

「まだ子供じゃないか。…たまーにいるんだよねぇ。自分の子供連れて「この子の母親になってくれ‼」って情に訴えかけてくるヤツ。」

「確かに彼女は見た目はかなり子供だが、これでも十六歳だぜ。背もだいぶある。」

「むっすー‼」

「そういやそうだね。可愛い嬢ちゃんじゃないか。もしや身売りに来たのかい?」

「違いますうっ‼」

「冗談さ。身なりよさそうだし金に困っているようにも思えないよ。こんなところには来ない方がいいのさ。もしかして…アンタら冒険者かい?」

「ああ、クエストで聞き込み中でね。話を聞きたい奴がいる。」

「ならいいか。みんな寝てるんだからあんまり騒がしくしないで、目的が終わったらさっさと帰っておくれよ色男さん。」


 住人を起こさないようにしてくれ。女は二人にそれだけ忠告をして、顔を拭ききってからさっさと自分の住処へ戻っていきいなくなった。


「あの人…たぶん娼婦のお姉さんだよね?ここってなんなの?」

「ここは色町で働く連中が暮らすアパート群さ。夜の蝶は昼間の間はこうしてひっそりと仲間同士で集まって暮らしているのさ。娼婦とかが表の市民街に暮らそうとすると何かと言われるだろうし、何よりここなら店に近い。住処にとって重要なのは住み心地より職場への近さだしな。」

「でも本当に古い建物ばかりね…築四十年ってトコかしら?ミツユースって街になって歴史はそんなに長くないって聞いたから、もしかしたら発展したてのころの物だったり…もしかしたらここがかつての街の中心地だったのかもしれないわね。誰もいないみたいけど…ああそっか。みんな寝ているのね。さっきのお姉さんが言っていたのはそういうことか。」


 夜の街で働く人間の昼と夜は一般人とは真逆だ。夕方になればちらほら起きだしすのだろうが今の時間は全員部屋にこもって寝ているだろう。ナナミは迷惑がかからないように声の大きさを少し落として会話を続けた。


「いくら仕事場に近いからってこんな奥まった場所で暮らしにくくないのかな?買い物とかに行くのも大変そうだよね。」

「あっちの方にも通路があるだろう?あそこを通ると小さな商店街があるんだ。夜の街の住人が利用する用のな。彼女達は昼は寝ているから夜に店を開けてる場所でしか買い物できないし、生活を色町で完結させることも珍しくないからそこで十分なんだろう。」 

「へぇ…とゆうかなんでクロノスさんそんなことまで知っているわけ?」

「さてね。今は関係ないだろう。」


 ねーねーと袖をつかみ回答を要求してくるナナミに下手な口笛を吹いて誤魔化しながらクロノスは広場を歩く。


 それからぼろっちい二階建てのアパートの前まで来ると足を止めた。


「ここだ。ここから臭いがした。もっと強い女の香水の匂いが混ざっていたがそれはきっと…とにかく、ここで間違いない。」

「え?じゃあここにドルハさんが…?」

「それなら話は早いんだがな。いや、どうかそうなることを祈るとしようか。」


 二人は外付けの階段を登って二階へ移動して、一番奥にある部屋の前まで赴く。ここがクロノスの見つけ出した目的地らしい。


 クロノスが扉をノックをして中にいる人間を呼び出した。不在の可能性も考慮したがこの時間は殆どの者が寝ているはずだ。十中八九いるだろう。


 しかし何度かノックをしてもぜんぜん反応が返ってこない。しばらく待っても無反応だった。仕方ないのでもう一度ノックをした。それでも反応はない。

 留守だったのか?クロノスとナナミはそう思いつつも三度目の正直とちょっと大きめな音でまたノックした。そしたら…


「誰だこんな真っ昼間に!?夜の人間にとって昼が夜中なのは常識だろうが!!」


 ついに扉が勢いよく開いて中から人が出てきた。出てきたのは普人族の女で、女背丈が高く男のようにがっしりとした体格だった。細身だったり逆によく肥えた娼婦はいるが、こういう筋肉質の女も色町には珍しいがいないわけではない。男の女に求める性質は個人によって様々であるので、こういう手合いもそれなりに需要があるのだろう。


 女は目の口と鼻の穴だけが開いた顔全体を覆う布頭巾をかぶっていた。この被り物は娼婦などがすっぴんの素顔を見られたくないときに被るものらしい。肌のシミを防げるとかで市民街の奥様方の間でもぼちぼちと流行りだしているとか。そのため女の顔はわからなかった。


 そしてこれは一番大事なことだが…女はとても不機嫌そうだった。声は男のように低めにドスが利いたもので、顔色は布頭巾で伺えないが目つきの悪さと態度から一目瞭然だ。どうやら寝ていたところを起こしてしまったらしい。


「これは失礼お嬢さん。」

「何がお嬢さんだよっ‼ぶっ飛ばされたくなかったら帰んな‼夜になったら相手してやるよ‼」


 女がそう吐き捨て扉を乱暴に閉めようとしたが、クロノスが足を挟んでそれを阻止した。けっこう勢いよく挟まれたので大きな音がしたが、足の持ち主であるクロノスは平然としている。 


「なぁ、お嬢さん。」

「な、なんだいっ‼足挟んだことなら謝らないよっ。」

「…ドルハ。」

「…えっ!?」


 たった一言その名前を口に出すと、女は動揺した。ドルハなどという単語は存在しない。何かの言葉と聞き間違えたということもないはずだ。女は明らかに何か知っている反応だ。それがナナミでもわかるくらいにあからさまであった。

 クロノスの挟まれた足に構うことなくドアノブを力いっぱい引いて扉を閉めようとする女へ、ナナミは詰め寄って尋ねた。


「もしかしてドルハって人、知ってるんですか!?すいません、その人のことでお尋ねしたいことが…‼」

「ドルハなんて名前知らないよっ‼何も知らないから帰ってくんな‼」

「でもでにっ、そのひとの娘さんに頼まれて捜しているんですっ‼」

「――っ‼さ、捜すだって…?」

 

 ナナミの言葉を聞いて女は手をドアノブから離した。そして二人と目を合わせる。


「ちょっと待ちな。ドルハを捜しているってどういうことだい?娘がどうとかって…」

「えっと、私たち人捜しのクエストを受けた冒険者で…話を聞いてもらえますか?」


 別に隠すことでもないのでナナミは女に包み隠さずドルハのことを話した。その間クロノスは女が部屋の中へ逃げないように扉を抑えていたが、女は既に力を抜いておりその必要はなさそうだった。


「…そうかい。アンタらドルハさんを…入んな。表で騒ぐと寝ている連中に迷惑だからね。少しだけならつきあってやるさ。」


 女が扉を開いて中に招き入れてくれた。クロノスとナナミはうなずき合い、先に入る女の後を追って部屋の中へ入った。




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