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猫より役立て‼ユニオンブレイブ  作者: がおたん兄丸
31/35

第29話:ナナミ・トクミヤは人を探して役に立つ06(ナナミは見つけ出すことに成功し、そして協力を求める)



 

 ルハイ嬢のクエストを受けて二日目――――



 ――――三日目。



 ――――四日目。



 …おやおや、あっという間に四日経ってしまったぞ。ナナミはいったいどうなってしまったのだろうか?



「…み、みつけた‼これだっ…‼」


 ナナミは椅子から勢いよく立ち上がると、思わずガッツポーズをして叫んでしまった。そしてすぐに自らの痴態に気付き慌ててあたりをきょろきょろと見渡したが、この空間には自分の他には誰もいないことを思い出してほっとすると再び椅子に座り、見つけたそれを凝視した。


「ルハイ小国…ホードリ村…ドルハ・シャペン…うん、ルハイさんと同じ苗字だよね。まさか同姓同名の別人なんてオチなんてのは勘弁してよね…うん、これで間違いない。…はぁ~ようやくみつけたよ~‼」


 ナナミが脱力して腕を動かすと、近くにあった書類の山のひとつにぶつかり崩してしまう。これだけでなく机の上には大量の書類が積まれいくつもの山となっていた。これはナナミがこれまでに積んでつくったものだ。何千人…下手をすれば何万人分に届く数の資料を目にしてついに見つけたのだ。あっさり見つかりすぎてそのままスルーするところだった。


 依頼人ルハイの父親ドルハ氏を捜しているナナミは、再び管理組合の資料室を訪れていた。その意気込みや逞しいもので朝一番に早番の爺さん職員がやってきてカギを開けるのと同時に建物に入ったほど。そして乱雑に置かれた資料を片っ端から目に通して、ドルハ氏の資料をこれまでずうっと探し続けていたのだ。

 昼になっても持参したサンドイッチをほおばりながら資料を眺め(※館内は飲食禁止です)、邪魔な関係ない資料を退けて片付け、余計な新しい資料を適当に置いていこうとする職員と戦う日々。とにかく余計な邪魔尽くしであった。

 視力に自信はあったナナミだが危うく眼精疲労から事務作業用の眼鏡を買うかを本気で検討するところだった。この世界で一般的に流通している眼鏡は彼女のいた世界よりも分厚いレンズに野暮ったいデザインをしているものばかりなので、お洒落好きな女子としては抵抗があったのだ。眼鏡っ子ナナミは冒険者界隈でそれなりに需要はありそうだが…とにかくそうはならずに済んだとナナミはホッとした。


 もちろんこれまでただ闇雲に自分一人で探していただけではない。知り合いの冒険者にも片っ端から声をかけて暇な者には捜索に参加してもらったり、知り合いの知り合いにまでドルハ氏を知らないかと聞いて回っていた。冒険者の情報交換の掲示板でもドルハ氏の有益な情報の提供者には賞金を出すと書き込みそれらしい話を聞くだけ聞いたりもした。

 リリファやイゾルデなど猫亭の仲間達も暇を見つけてはこちらを手伝って一緒に資料を探してくれたり、自分の知り合いにドルハ氏について聞いて周ったりしてくれたので、ナナミは頭が下がるばかりだった。

 ただし、クランリーダーのクロノスだけは冒険者たちとカード遊びをするだけで全く協力してくれなかったが、彼にはなんだか気まずくて声も掛けて協力を要請したりしなかったのでしょうがない。


 結局のところ残念ながらそちらについてはいずれも有益な情報の取得には至らなかった。しかし何もしないようりはよい成果だったと言えるだろう。少なくとも「猫亭周辺の住人はドルハ氏について何も知らなかった」ということがわかっただけでも大きい。ナナミはそうポジティブに捉えることにしていた。


 そうして資料の捜索を続けること四日目の昼ごろ、つまり今――――ナナミはついに目的の人物であるドルハ氏の資料を見つけ出すことに成功したわけだ。


「ふむふむ…えっと、最初に就いたお仕事と住処にしていた場所は…」


 ナナミはまるで宝の地図を眺める子供になったかのように、お昼ご飯のサンドイッチの残りを頬張りながら資料を食い入るように眺め内容を読み進めていく。資料は薄い紙っぺら一枚だが、そこにはドルハ氏が勤めた事業所や住んでいたアパートなどの情報がすべて乗っていて、彼がこの街を訪れてからどういう経緯をたどったのかがよくわかる。諸事情によりそれらのどこかを変えるたびに新たな場所が追加で記載されている。多い情報ではないが内容はとても重要なものだ。いっぺんたりとも見逃せない。


「ふんふん…よし、ぜんぶ書いてある。資料の更新だけはちゃんとやっていたみたいね。こんなに散らかった状態でどうやって前の資料を見つけ出して更新していたんだか…それよりも今はドルハさんね。ええと、…あ、途中で途切れちゃってる。最後の更新は…二年前か。」


 情報の更新は二年前を最後にさっぱりと途絶えていて、そこから先の更新は停止していた。これはルハイへの手紙が途切れたのと同じ頃だったはずだ。


「やっぱり二年前にドルハさんに何かあったとみるのべきかな?事故に遭ったのか…事件にでも巻き込まれたか…ううん、それをこれから調べるのよ。考えていたって所詮は妄想の領域を越えないわ。」


 ナナミはとりあえずはドルハ氏がこれまでに勤めたところや住んでいたアパートなどを新しいところから順に一軒一軒あたっていくことにした。依頼者ルハイは叔父の仕事の手伝いでいないし、今日はヒマな知り合いがいないのでナナミ一人で向かうことになるが、もとより依頼者の手を煩わせるわけにはいかないし、このくらいなら自分一人でやらなくてはならないだろう。ナナミはそう意気込んだ。


「ようし、さっそく一番最後の勤め先の事業所を訪ねて…‼…あれ?ちょっと待ってよ私。」


 ナナミは頭の中で訪問先の最短ルートを練りながら資料室を出ようとした…が、その足が止まってしまう。


「もう四日目なんだよ。ルハイさんも叔父さんの商談は順調で滞在日数は予定通りになりそうだって言ってたじゃん。あと三日しかないよどんすんのさ?」 


 ナナミは夢中になるあまり時間制限のことが頭からすっ飛んでいたらしい。資料を見つけるという段階を終えたことで抜け落ちていたそれが頭に戻って来ていた。

 確かに資料を元に勤め先や住処にしていた場所を一軒一軒当たっていけば、いつかはドルハ氏にたどり着けるのかもしれない。しかしこのクエストには依頼者のルハイ嬢が故郷のペイルへ帰還するまでの間という時間制限があるのだ。それまでにドルハ氏の行方がわからなければどれだけの進展があったとしても意味がない。


 ルハイ嬢には捜索の経過を報告するために一日の間に何度も会っており、今朝にももちろん会っていた。そして同時に彼女が街に滞在している理由…商人である叔父の商談の具合も耳にしていた。商談は幸か不幸かスムーズに進んでおり、このまま予定通りに済ませられるとのこと。

 ナナミが早足で過去の居場所を片っ端から尋ねて調べていってもとても間に合わないだろう。


「でかい勤め先ならともかく零細商会やアパートの名前で場所までわかるかっての。し、市役所にでも聞きに行く…?でもそんなことしたらそれでまた一日潰れちゃうよね。準備ができたころにはルハイ嬢はペイルに帰ってるって…そうだ‼」


 焦るナナミだったがふと名案を思い付いた。


「亀とカルガモだよ。そこへ行ってフレンネリックさんに聞いてみよう。フレンネリックさんならいろいろと詳しそうだし…こういう時のためのクラン同盟だよね。万歳万歳っと…」


 ナナミは行き先は決まったようだ早足で管理組合の建物を出ると、目的地まで一直線に走っていった。



――――



 ナナミが訪ねていたのは、ミツユースに拠点を置く冒険者クラン「亀とカルガモ」だった。

 亀とカルガモは冒険者が冒険に必要な道具や食料を冒険者への販売や流通を行っているクランであり、世界中に支部を持っていてその規模は名のある大商会にも引けをとらない。冒険者ギルドも彼らを頼りにしていて、支店によっては建物の中に亀とカルガモの出張店を置くことを許可している場所もあるとか。

 冒険者業界において最も有名なクランのひとつだとも言われていて、冒険者からも冒険者ギルドからも信頼に厚く、全クランの中でもわずか五クランしか指定されていないクラン評価の査定段階の最高評価である「優」を持っている、とてもすごいクランなのだ。


 ギルドがこのクランを重宝している理由として、商品を扱っている外部の商会との関係性がある。商会というのは当然のことだが自らの利益を考えそれを第一優先として動くものだ。交渉の内容や在庫次第ではギルドに品物を降ろしてくれなかったり突然の値上げをしてくることだってありえる。

 向こうだって冒険者ギルドという大きな組織の機嫌を無意味に損ねるようなマネはしたくはないだろうが、他の商会や拠点にしている国の意向、はたまた自然現象による商品の原材料の調達状況によってはどうしてもそういう態度をとらなくてはならない日もある。ギルドの担当者だって知識と経験を活かしてしっかりと相手との交渉に臨むが、残念ながらときどきいくつかの商品でしばしばそういう事態が起こってしまうのだ。


 冒険者にとって傷薬や防具などの道具は大切な命を守り、そして預けることになる大切な相棒だ。それがなければまともな冒険をすることなど決してできない。なので、商会と異なり冒険者の目線と利益を考えて動けるこのクラン亀とカルガモは、冒険者とギルドにとって心強い味方というわけだ。各地の在庫の量を上手いこと調整して品切れを起こさないようにして、年中同じ額で買えるようにしている。道具の材料から傘下のクランや商会に生産させて、緊急時にはそこから調達して賄っているというからその熱意に驚きを隠せない。


 そんなクランが流通都市であるミツユースで本部を構えているのは至極当然の流れといえるだろう。本部の構成団員数は百を超え、関係者の人数も規模もかなりデカい。団員数六名の猫亭と比べたら象とアリンコである。



「やぁいらっしゃい。ナナミさんが一人で来るのは珍しいね?」 


 ナナミが会っていたのは、亀とカルガモの本部で人事部長を務めている男、フレンネリック・アラウソであった。

 このフレンネリックは見た目はどこにでもいるような中年のおっさん商人だが、これでも立派な冒険者ライセンスの所持者であり、つまりは彼も冒険者だ。肝心の冒険にでることは近頃ではめっきりなくなってしまったらしいが、若いころは戦槌(バトルハンマー)を携えて仲間と各地でバリバリモンスターや悪人と(バト)っていたとかなんとか。現在の腹の出た彼の姿からはとても想像がつかない。


 本来ならばクランへの入団者や取引先の人間の人柄を見て評価する役目を担う彼だが、ふだん各地の支部の視察に行き本部を留守にすることの多いクランリーダーに代わって、本部での多くの権限を任されている。亀とカルガモ本部の実質的な最高権力者は彼と言ってもよいだろう。

 しかしフレンネリックからは権力者というべき厳かな雰囲気は欠片もなく、とても気さくな人物であり、それは彼の人柄の良さゆえか…

 とはいえ、その人柄の良さからは想像もつかないような観察眼の持ち主であり、初対面の相手であっても少しの会話と仕草で様々な情報を引き出すことができるその道のプロなのだ。ナナミも初対面では彼のペースに乗せられていろいろ話してしまい、ずいぶんいろんなことを知られてしまったものだ。

 たとえば好きな食べ物や使える魔術の種類、好みの異性のタイプ、朝の歯磨きにかける時間に至るまで…ナナミが異世界人であるという情報を除けば、彼以上にナナミのことに詳しい人間はもしかしたらいないのかもしれない。そんな情報を握っていても脅すようなこともしてこないのでとりあえずは安心だが、その辺の事情もありナナミは彼と直接会うのはちょっぴり苦手だったりする。


「ノンアポで突然押しかけてきてすみませんフレンネリックさん。」

「いやいや。僕もちょうど書類とのにらめっこに飽きて休憩でもしようとしていたところさ。僕にとっては人とのおしゃべりが一番の仕事であり安らぎなんだよ。だから来客も嬉しい限りだ。」


 ナナミは承諾なしの面会(ノンアポイントメント)でやってきた。しかしフレンネリックは嫌な顔一つせず時間をつくり、こうして会ってくれたのだ。


「それにナナミさんは我が亀とカルガモと同盟を結んだクランの一つである猫の手も借り亭の団員さんだからね。無碍にはできないよ。」

「同盟と言ってもそちらは殆どのクランと同盟を結んでいるじゃないですか。同盟の中にはもっと大手のクランもありますし、ウチのような零細クランに時間をつくっていただけるとはホントありがたい限りです。」

「いやホント気にしなくていいよ。本来こういうのが僕の畑なわけであって。こうして話を聞けばイヤな仕事を投げ出す正当な理由にもなるんだからありがたいのはこっちだよ。」

「はぁ…」


 彼はミツユースで活動をしている冒険者のパーティーやクランの同盟の窓口役でも務めている。その同盟関係にあるクランの団員であるナナミの相手をするのは至極当然と彼自身がそう言う。


 詳しくはわからないがフレンネリックは今やっている仕事が面白くないらしい。ナナミの話よりも自分が話をすることを優先して繰り広げている。ナナミとしてはさっさと用件を伝えてさっさと済ませたいが無理をして会ってもらっている身だ。とりあえずはご機嫌をとって話を聞くことにする。それに出された高級なお茶とおいそれと口にできない高級な砂糖たっぷりの甘い焼き菓子に手を出したかった。フレンネリックにも「ささ、」と勧められたので彼が話している間は美味しく頂くことにする。


「(…うまー‼なにこれメッチャ甘っ‼サクサクのとろふわだ~‼口の中でとろける~‼こんなの私の収入じゃ買えないよ~‼ん~‼)」

「ウチのクランリーダーは年間のほとんど各地の支部の視察や現地での情報収集に費やしているからね。「情報を征す者が商売を征するのだ」ってのはわかるけど、ここには二月三月(ふたつきみつき)に一度戻って来ればいいほうでそれでもニ、三日するとまたフラッとどこかへ行ってしまうんだよね。ちゃんとそういう部署があるんだからそういうのは彼らにまかせてもらいたいんだけどね。リーダー不在ってのは示しがつかないよ。僕の仕事量も増えちゃうし…知ってる?クランリーダーが押さなきゃいけないハンコは僕が預かっているんだよ?常にいるそっちのクランリーダーが羨ましいね。」

「ウチの()()()()()もわりとふらっとどこかへ行って二、三日帰ってこないことも多いですけどねぇ。」

「いやいや、それでも肝心な時にいてくれるのは下の者にとってはありがたいさ。大事な商談や地方からやってきた大物との面会まで僕にまかせっきりなんてのはいくらんなでも酷くないかい?そういえばリーダーのことはクロノス君にもまだ会わせていなかったなぁ。クランの同盟を結んだのだし一度顔合わせはしておきたいよねうん…」

「きゅう‼」

「だよねぇ?よしよし、君たちは偉いねぇ…」

「(出た‼猫とかペットが特になにもしていないのに、とにかく偉い偉いって言っちゃう人‼)」


 フレンネリックはもふもふのウサギモンスターであるザコウサギを腕に抱え説明していなかったが彼の執務室の中は他にもペットのザコウサギでいっぱいであり、周囲にもふわふわのザコウサギだらけ。ちょっとしたハーレム状態だ。彼に抱かれるザコウサギも暴れることなくリラックスして体を預けている。ぜんぶフレンネリックのペットでいろいろあって可愛がっているのだ。本来であれば人間を襲うモンスターを街の中で飼うのは特別な許可が必要だが、ザコウサギ程度ならば面倒見れるならあっさり許可は下りるらしい。


「ザコウサギってのは可愛いもんじゃないか。ああ、反抗期に入る前の娘たちを思い出すよ。最近なんて「パパと一緒にお風呂はいるのやー‼」とか、「靴下は一緒に洗わないで‼」とか、そりゃもうひどい嫌われっぷりで…世のお父さんは皆こんな試練を経て我が子の成長を見守っているのかぁ?」

「ソウデスネー。うまうま…」


 おっさん(フレンネリック)の話は一度始まると長いものだ。もとより彼はおしゃべり好き。ナナミは高級なお茶とこれまた高級な焼き菓子を味わいながら、適当なところで相槌を打つ。


 とはいえ、彼の座るソファの隣で無言でたたずむ秘書っぽいお姉さんの視線が鋭くて怖い。フレンネリックは気にするなと言ってくれているが、あちらさんは「仕事の邪魔じゃボケェ」と言いたげな視線でナナミを刺し貫いてくる。おまけに「ウォッホン‼」とか大きな声であからさまにせき込んでいる。せめて隣に座れよとナナミは焼き菓子を頬張りつつもそう思った。


 しかしフレンネリックでないとダメなのだ。彼の部下にも知り合いはいるが、街でのことはこのフレンネリックが最も詳しいはず。秘書のお姉さんの視線が怖いし、ナナミはさっさと用件をすますことにしてお茶と茶菓子を平らげてから声をかけた。 


「あのー、そろそろ本件をですね…」

「…おっと、話が長くなっちゃったね。ごめんごめん。それで僕に何か用があったんだっけ?」

「あっ、はい。これをお願いします‼」

「うん?出稼ぎ労働者の経歴資料かい?どれどれ…」


 ナナミが寄越した資料をフレンネリックが野暮ったい眼鏡をかけて読みだした。彼が読む間に事情も話しておいた。フレンネリックは資料を読みながらでも他者の話を耳に入れ考えることができる。大手クランの幹部格なだけあってやはりとても優秀な人物だ。


「なるほど。この資料のドルハって人を捜しているんだね?そういや人捜しのクエストを誰かが受けてあちこち声をかけて捜していると聞いたね。あれはナナミさんのことだったんだね。ふんふん…あーこれはねぇ…」

「なにか良くないところでもありましたか?」

「先に僕のところに来て正解だったね。ここに書いてあるどこに行ったとしても、まず無駄足だったろうからね。」

 

 大した内容もなく資料をあっさりと読み終えたフレンネリックはそれをナナミへ返して、続けて教えてくれた。


「まず最初に「アウリジョ」商会だけれど、不正な帳簿をつけたとかで経営者が逮捕されて経営が傾いて潰れたよ。幹部や家族と遠くの故郷へ帰ったからこれから話を聞きに行くのはちょっと難しいだろう。こっちの「コイショウ」建設の現場は…大きな事故が起きて監督不届きで出稼ぎ労働者は全員解雇されている。出稼ぎ労働者仲間にドルハ氏のことを知っているか尋ねようとしても、ばらばらの場所へ行った彼らを捜すところから始めないとだね。「マカウェーノ実業団」はここ最近は長期の出稼ぎ労働者を雇っていないしなぁ。たぶんこの人も日雇いか何かだから覚えている人はいないと思うよ。資料でも雇われていた期間がずいぶん短いようだ。このアパート「ハタラッケ荘」もたしか老朽化で取り壊しになって入居者は全員どっかへ行ったはずだっけな。」

「そんなぁ…」


 ナナミの期待通りでフレンネリックは資料にある商会やアパートについてのあれこれをぜんぶ知っていた。街の中の状況を把握しているのは商人にとって必要なスキルらしいがやはり感服してしまう。

 しかしその口から出るそこらの現在の事情はどれもこれもよくはない。どうやらドルハ氏は仕事や人にあまり恵まれていなかったらしく、いろいろな理由で仕事や住む場所をコロコロ変えていたようだ。


「あとは…こっちもあっちも労働者の足取りを追うのは難しそうだなぁ。細かく調査を入れればできなくはないけども、時間もお金も必要だね。」

「お金はとりあえず考えるとして、調査をやってもらうとなるとどれくらいかかります?」

「そうだね…一か月は欲しいかな。」

「それじゃ困るんです‼クエストの期日に間に合わない。どうしよう…あと三日くらいしかないのに…」

「そうだね。たとえ大急ぎで調査してもここからドルハ氏の居所につなげなきゃだからね。結局は同じことだよね。」

 

 脚の上に乗せたザコウサギを撫でながらフレンネリックはそう言った。


「けれども直接足を運ぶ手間は省けたじゃないか。ぜんぶの相手が無駄だったなら一個も当たらずに済んわけだ。」

「それはまぁ…そう考えるべきなのかな?」

「しかしナナミさんも人捜しとは奇特なクエストをしているね。この街でそういったクエストは人気がないことは聞いていないのかい?」

「はいまぁ、途中で教えられましたけど…でもやらなきゃって思いまして。これは個人的なエゴみたいなものですけど。」

「ふぅん?まぁどんなクエストであっても決めるのはそれを受ける冒険者本人だからね。僕は応援しているよ。もちろん…君のところのクランリーダー君もね?」

「え…?」


 フレンネリックがザコウサギの一匹に口笛で合図をした。何か芸を仕込んでいたようだ。そのザコウサギは「キュウ‼」と元気よく返事をすると仲間を何匹か連れ立って、部屋の橋にあるクロゼットの前まで辿り着くと、縦に積み重なって一番上のザコウサギがクロゼットのノブを回して扉を開いた。


「…ふぎゃん‼」

「…クロノスさん?」


 開かれたクロゼットの中から飛び出してきたのは…紛れもなくクロノスだった。


「クロノスさん…?」

「…」

「おーい、クロノスさん?」

「…ワタシハ、チンモクノセキゾウデス。ケシテ、ケッシテくろのすりゅーぜんナルジンブツデハゴザイマセン。」

「…そうですか。人違いでした。しまっとこ。」

「わ~まってまって‼冗談‼冗談だって‼やめて、しまっちゃわないで‼うわ、仮にも成人男性である俺を持ち上げるなんてっ、君意外と力持ち~‼…やめてとめておとめ鍵かけないでっ…‼そう、そうですっクロノスですっ‼」


 時間ももったいないのでナナミが無視してクロゼットにしまって戻そうとしたら、石の石像は目覚めて動き出したのだ。半分しまわれていたそいつはとうとう正体を白状するとクロゼットから勢いよく飛び出してきた。


「…まさかマジで見つけるとはな。」

「そりゃやるって決めたもん。やりますよ私は。ところでなんでこんなところに隠れていたの?」

「さぁね。」

 

 クロノスが気取って曖昧に返事を返すと、にやにやとしたフレンネリックが説明してくれた。


「いやね、隠して悪かったけど実は…クロノス君は何日か前からちょくちょく来てドルハって人について尋ねてきたんだよ。何か知らないか、捜す方法は何かないかってね。だからナナミさんの事情は知っていたのさ。」

「え…!?」

「さっきもお茶をしながら話していた途中だったんだけど、ナナミさんが僕を訪ねてやってきたと聞いて慌ててクロゼットに隠れていたんだよね。しかしクロゼットに隠れん坊とはいい大人がすることかな?」

「「…」」


 クロノスとナナミの二人は顔を見合わせて目をぱちくりさせている。フレンネリックはザコウサギを撫でながらくすくすと意地悪に笑っている。


「…ふっ、」

「え、なに。クロノスさん実は真面目に捜してくれていたの?」

「断じて違う。君の心が折れる瞬間の瞬間を目前で味わいたくてな。」

「…ふーん。てっきり私にクエストを止めさせるために先回りしてきたのかと思った。」

「そこまでしてどうして止める必要がある?団員がやりたいことに協力するのがこのクラン猫の手も借り亭、略して猫亭だぜ。クランリーダーたる俺がいの一番に協力しないでどうする。」

「ずっとカードで遊んでいた癖に。」

「だって頼ってくれなかったもーん。俺何にも頼まれてないもーん。せっかくいつでも動けるように待機していたのになー?」

「うっ…意地張ってた私のせいか…‼」

「…なんてな。しょうがない。我が猫亭の子猫ちゃんのヘルプがなにより最優先だからな。ドルハ氏の足取りを追うんだろう?なに、正攻法で探さずとも裏道を通って近道をすることはできる。同じ猫亭の団員としてヒントくらいはやろうじゃないか。」


 クロノスは続けて言う。


「依頼者のお嬢さんにまた会いに行ってこい。そんで彼女がドルハ氏とのやり取りに使っていた手紙を借りてくるんだ。ひとつくらいは持ってきているだろう。」

「でも手紙には住所とかはなかったんでしょ?」

「いいから借りてこい。文面を読むだけが手紙の使い方じゃない。」

「おやおや、S級冒険者が人捜しのクエストをやってくれるなんてね。よかったじゃないかナナミさん。きっとものの数分で終わるはずだよ。」

「そんなわけないじゃないですか。多くの冒険者やその知り合いに声をかけているんですよ?たった一人で数分で捜索が終わるわけがない。もしそうなったら鼻からスパゲッティ食べて見せますよ。」

「言いやがったな…それならば実行させて…いや待て。君なら鼻からスパゲッティくらいやってくれそうだな。あんまり意味ない罰ゲームだぞそれ。」

「さすがにそこまではできませんっ‼」


 言いあう二人をフレンネリックはザコウサギを撫でながらくすくすと笑い、その隣で秘書の女性はため息をついて「早く帰ってくれないかなーこの二人」と思っていた。




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