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猫より役立て‼ユニオンブレイブ  作者: がおたん兄丸
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第27話:ナナミ・トクミヤは人を探して役に立つ04(ナナミは帰って報告をする)




 夕方の日が沈む街の通りを、ナナミとルハイは歩いていた。しかしその足取りは重かった。

 無理もないだろう。午後の時間いっぱいを日が暮れるまでの間、ずうっと埃っぽい資料室で資料探しに使っていたのだ。体力的にも精神的にも疲労はすさまじい。ましてや目的の人物の資料を見つけることができなかったとなればなおさらである。


 そう、けっきょく二人は出稼ぎ労働者の管理ギルドではドルハの情報を見つけることができなかった。もしかしたらあの資料室にはドルハの資料があったのかもしれないが、ミツユースの出稼ぎ労働者の何万人分もの散らかった膨大な資料の中から、たった一人分の資料をたった二人だけで見つけ出すのは不可能だったのだ。


「ごめんねルハイさん。すぐに見つかると思ったんだけど…私の見立てが甘かったわ。」

「ナナミさん…あれじゃあしょうがないだ。私もすぐに見つかるとは思ってはおらんかし、まだ日にちは充分にあるから大丈夫だよ。」

「ありがとう…お詫びってわけじゃないけどせめて宿まで送らせてもらうからね。」


 ナナミはルハイを宿へ送っていく途中だった。ルハイは宿の場所までの道のりを知っているから心配ないとナナミの申し出を断ろうとしたが、それでもナナミは強行して送ることにした。

 ミツユースは広い街なうえ、建物や道路の度重なる無計画な増築や改築を繰り返しているので、道は思っている以上に複雑で入り組んでいるのだ。ひとたび大通りから小道へ入ると土地勘のない者はあっという間に迷ってしまい元の場所に戻ることすら難しい。この街に来て早半年のナナミですら、住んでいる周辺以外で近道をしようとして道に迷ってしまったことは一度や二度ではすまない。そんな中でルハイ一人だけを歩かせるのはとても心配だったのだ。


 それに加えて…日が暮れて夜になれば、街の影に潜むよくない連中が表通りにも出てくる。強盗、人攫い、猟奇的殺人鬼、強姦魔…そんな悪者達の餌食になる危険性だってあるのだ。そういう人間に真っ先に食い物にされるのは他の誰でもない、街へ来たばかりで右も左もわからないお上りさんである。


 クエストの依頼人であるルハイの身には自分以上に何かあってはいけないのだ。そんなわけでナナミは責任をもってルハイを送っていった。

 …といっても道に迷うことも悪者に出くわすこともなくこれといったトラブルには一切巡り合わず、ルハイを宿屋まできっちり送り届けられた。宿ではルハイの叔父にも会い、彼からもドルハ捜しの件をよろしくと頭を下げて頼まれてしまった。彼も兄弟がどうなっているのか心配なのだろう。

 

 ルハイは明日からは商人である叔父の手伝いをすることになっているので、父親の捜索に付き合うことはできないと申し訳なさそうに伝えてきたが、ナナミはもとより依頼人を捜索の頭数に加えるつもりはない。自分や冒険者の仲間だけで問題ないと答えて、進展があった際の連絡用に宿以外での居場所をいくつか教えてもらってから宿を去り、自分も拠点へと帰っていった。



―――



 ルハイと別れひとりになってからはとぼとぼ歩いてナナミは、ようやく猫亭に戻ってくることができた。半年のうちにすっかり見慣れた我が家である。疲れからか昼間ぶりのその佇まいは随分と懐かしく感じられてしまう。

 辺りはすっかり夜になっていて、道の街灯と月明かりだけが街を照らしていた。黄昏(たそがれ)ていても何なのでさっさと中へ入っていく。


「ただいまー。」


 猫亭のホールはいつものように出入りの冒険者達で賑わっていた。冒険者はツケやら喧嘩騒ぎで街の酒場のあちこちを出禁にされまくっているので、猫亭の酒場を体の良い集会場として使っていて、夜になれば仕事終わりに一杯ひっかけにやってくるのだ。


 昼飯どきと同様に食事の提供はしてないが、酒だけは別だ。バーカウンターの棚には大陸各地で生産されている酒のボトルの数々が所狭しと並べられている。子供でも知っているありふれたメジャーな酒から知る人ぞ知る超ローカルな珍酒まで、それはもうさまざまな種類が揃っていた。ここまで見事な品ぞろえは金さえ出せばなんでも手に入るミツユースの街の酒場や酒屋といえどそうそうやれたものではない。

 これらの酒の数々は猫亭の主であるクロノスが、かつての大陸を巡る大冒険をしていた頃にクエストの報酬代わりや物々交換でその土地土地(とちどち)で入手したものだそう。酒は基本腐らないうえにどこの土地にでもあるので金の代わりに使えるのだそうだ。ただ、クロノスは酒をあまり飲まないし一人旅をしている間は荷物になってしまうので、これまでは各地のギルド支店に預けておいたそうなのだが…クロノスがクランをつくりミツユースに拠点を持ったことを聞きつけた支店の人々が「倉庫の邪魔だからいい加減に引き取れや‼」と、国際運送便を使い(代金はクロノス持ちの着払い。地味に嫌がらせである)次々と猫亭へ送って来たのだ。


 猫亭が正式に活動を始めて半年たった現在でも、週に一度はどこかの地方から酒のたっぷり入った木箱がダース箱単位で送りつけられてくる。そのまま倉庫にぶちこみ続けてもいずれは溢れてしまうので、出入りしている冒険者達に格安でふるまって消費することにしていた。

 猫亭は倉庫が片付きウィン。冒険者達は各地の珍しい酒が安く飲めてウィン。お互いにとってウィンウィンなのである。そのせいか酒目当ての出入りの冒険者が日を追うごとにだんだんと増えてきているような気もするが…クランの宣伝だと思えばそれも良い方向にとらえるべきだろう。少なくともクロノスはそう思っているし団員達もそう諦めていた。


「そんでソイツが尻に剣を向けたときに転んで剣の先がグサッと…」

「ギャハハハ‼くだらねー‼」

「…お、ナナミちゃんッス。おかえり。」

「はいただいまー。いつも通りの騒がしさですねっと…」


 仕事終わりの冒険者達はご機嫌に猫亭に訪れ、酒を片手にどこからか入手した怪しいつまみをついばみながら冒険者仲間と色んな話で盛り上がる。それがここ最近のミツユースの冒険者の一日の終わりの姿なのであった。


「よーし、次は…これだ‼…ぶっふううううう‼にっが‼なんだこれ苦すぎる!?」

「あ、ゼーンが吐いた。やっぱコレだめだな。見た目がおぞましいもんな。グロイもんほど美味いっていうけど、さすがに茶色と紫色に点滅する木の実はヤバかったか。覚えとこ。」

「じゃあ次いこ次。罰ゲームはこの魚を喰うこと。」

「…脚はえてるじゃないか。しかも紫色だぜ?どこで獲ってきた魚なんだ…」

「んふふー。ひみつ♪さーてカード配るぜー‼ゼーンはまだやるか?」

「おろろろろ…やる。この屈辱を全員に味合わせてやるぜ。…ただし、次からは火を通してくれ。生はいくらなんでも不味い。」

「(みんなよくやるわよね…)」


 カードゲームでビリになった奴が得体の知れない食材を食すというルールで遊んでいる一団の横を通りすぎ、ナナミは一番いいテーブルの前まで辿り着いた。ここは猫亭の団員専用のテーブルで、他の冒険者は使っても構わないが使用後に綺麗にしておかないとぶちのめされて壁の前衛芸術的なオブジェにされてしまう。そのため掃除を嫌がり基本的には常に空いている。


「たっだいまー‼」

「…む、ナナミか。おかえり。」

「ナナミさん‼おかえりなさいませですわ‼」


 テーブルにはナナミの仲間のクランの団員達揃っていて、帰ってきたナナミを出迎えてくれた。


 盗賊の少女リリファ、大剣士の女会計イゾルデ、治癒士のシスターセーヌ、戦士の少年アレン…ナナミとクロノスを含めればたった六人の団員達、それがこの猫の手も借り亭のすべての戦力だ。これは十数人の団員が普通の規模とされるクランとしてはかなりの少人数である。つーかなんでクランの形とってるの?ってくらい。

 しかし少ないながらも彼女達はクランリーダーであるクロノスが認めた、いずれも優秀な冒険者たちなのだ。例え実力を示す冒険者ランクはありふれた並のものであっても、それでは計り知れない何かをもっている。


 彼女達もそれぞれあちこちで有意義な一日を送っていたのだろう。衣服にわずかな汚れが見えたがそれは敵との戦いの痕跡かクエストであちこちを歩き回ってきた努力の証か。それを恥じることもなくテーブルの上の料理を好きに味わいつつも、わいわいと今日の進展を語っていた。


「お食事は先にいただいておりましたわ。」

「帰りが遅かったので心配していたのでございますよ。」

「ああゴメンね。遅くなっちゃった。ふぅ…」

「あら?どうやらとてもお疲れのご様子…何かございましたの?」

「聞いてよイゾルデさん。実はね…まって。それなに?」


 椅子に腰かけたナナミが自分の愚痴を聞いてもらうおうとしたが、それよりもまずテーブルの上の中央にある、テーブルのほぼ半分を占領していたとても大きな皿に乗った料理が気になって、それを先に尋ねた。

 それは何かの動物の肉をまるまる焼いたもののようで、できてから時間が経っているだろうにこんがりとしたいい匂いが漂ってくる。絨毯がわりに青野菜の葉を敷いた上に寝転び、足を開きまるでぐうたら寝ているかのように置かれたその動物の肉は全身が茶色の毛むくじゃらな皮に包まれていて、口元からは白く尖がった大きな牙が生えている。一番の特徴は大きくて柔らかそうなピンク色のつぶれた鼻だろうか?ナナミはそれがどんな動物であるかは容易に予想できた。


「イノシシ…だよね?てゆうか皮つきっぱなし。」

「中までこんがり焼けているので大丈夫ですわ‼」

「ああそうですか。そもそもどこにあったのこんなお肉。自由市…でもさすがにイノシシ丸々は売ってないよね。」

「帰ってきたらクロノスさんが裏庭で焼いておりましたの。」

「なんだか急にイノシシの肉を濃い味付けで食べたくなってしまってな…ちょいと午後に森まで行ってとってきた。本当は普通のでよかったんだが、運悪く主っぽい個体に出くわしてしまってな。そいつを回収してきたわけだ。」

「わ、なんかいきなり湧いてきた。」

「人を虫のような扱いをしやがってくれる。」


 そこへクロノスがやってきた。彼は厨房にナイフをとりに行っていたようで、手には大きな肉切り包丁を持っている。


「そんなちょっとした買い物に行くノリでイノシシって捕まえてこれるものなの?」

「まぁな。おっと、心配しなくても血抜きと解体は街の外でやってきたぞ。街中だと血と臓物の処理に困るし臭いもすごいから近所迷惑になる。愛すべき隣人とのトラブルは避けるさ。解体は森の中でやってたもんだから横取りを目論んだオオカミやらモンスターの群れやらといくらか争いになったが、みごと肉塊と化してやったさ。…もしかしてそっちの肉の方がよかったか。」

「いやこれでいいわ。豚肉みたいなもんだと思えば…がぶり。」


 ナナミは猪の骨付き肉に勇ましく齧りつく。淑女(レディ)にしては少々威勢がいいが、冒険者なんてこのくらいの食いつきっぷりでないとやっていけない。それにこういう骨付き肉は遠慮なくかぶりつくのが彼女の中での常識だ。


「…うーんおいしい‼ちょっと臭いけどこれはこれでワイルドな味わいがあるね。とりあえずワニやカメやカエルの肉よりはおいしい。スパイスと塩の加減が絶妙ね‼」


 猪の肉は独特の臭みがある。それを覚悟しつつナナミが肉を舌で味わったが、不思議とそのようは臭みはなかった。内臓の処理がうまいのと臭みを消すための下処理が丁寧なのだろうか。しかしそれは家畜の豚に匹敵する味の良さだ。


「だろうだろう。大皿に乗ったイノシシ丸々一頭…じつに冒険者らしい食事の光景。芸術的だろう。」

「マンガ肉的な表現だろうけどさ。せめて皮の毛は削ぎ落すか焼いて消すかしてよ。食べづらいじゃないの。」

「マンガ肉…?これはつるっぱげにすると体表はピンク色をしているんだ。それだと家畜のブタさんと似ていてなんかイノシシのワイルドさが欠けてしまうだろうが。これがいいんだよこれが…ザ・冒険者の食卓って感じがするだろう?では俺もいただくとするか…」


 クロノスも猪の肉へ手を伸ばして自分の分をとる。彼の場合は皮のついている表面の部分の肉が好みなようだ。ナイフで体表の毛を綺麗に削ぎ落して小皿に盛ってから、ナイフとフォークで優雅に食していた。しかもご丁寧に胸元には上等な紙ナプキンを巻いている。おい冒険者のワイルドさはどこへ消えた。


「さて、肉で腹を満たしたところで報告でもしてもらおうか。…ナナミくんは本日の成果はいかがなものだったのかな?」


 クロノスがナナミへそう尋ねてきたが、その顔はいじわるなものだった。口角をつり上げナナミの答えをいやらしく待ち構えている。こいつはおそらくナナミの午後がどういったものだったのか、おおかた予想がついているのだろう。それを知っているうえであえて尋ねるようないじわるをしているのだ。


「…(かんば)しくございせんでしたー。ぷすー。」

「だろうな。やはり一人で人身捜索はムリがあったな。」

「人身捜索?ナナミ姉ちゃんはいったい今日は何をしてきたのさ?」

「アレン君も聞いてくれる?実はさ…」


 ナナミは食事をしながら、団員たちへ今日の話をした。行方不明の人捜しのクエストを受けたこと、出稼ぎ労働者の管理組合へ行ってきたこと、そこで目ぼしい情報が見つけられなかったこと…とにかく今日あったクエストに関すること全部だ。


「あーうん…そりゃ災難だったね。あそこはね…」

「何か知っているの?」

「出稼ぎ労働者の管理ギルドの質が悪いのは街の住人の間じゃ有名なんだよね。管理ギルドがやってくれるのなんて出稼ぎ労働者が劣悪な職場で働かないようにするだけで、管理なんて杜撰(ずさん)なモンさ。あんまりいい土地に建ってなかったでしょ?それがその証拠。ウチのパン屋にも出稼ぎ労働者として街に来ている常連のお客は何人もいるけど、労働管理ギルドのサービスの悪さにはいつもグチを言っているよ。でもあそこを仲介しないと出稼ぎ労働者は仕事に就けないし大変だよね。」

「アレンの言う通りだ。あそこは浮浪者への就労支援もしているようだが、対応が悪くて働く気になった浮浪者も仕事が見つからず帰ってくる。あそこは無能な役人の肥溜めなのさ。」


 アレンに被せるようにしてリリファがソーセージを突っつきながらギルドへの悪態をついていた。あれは猪の腸でつくったものだろうか?ナナミはちょっと興味があったので卓上の料理の中から同じものを探して皿によそっていた。 


「子供にもボロクソなのね…まぁあそこの職員の態度は辛口評価したくもなるわ。」

「でもナナミ姉ちゃんもちょっと考えなしすぎるよ。そもそもがミツユースで人探しなんて無茶な話だよ。この街にはどんだけ人がいると思ってるのさ。人の往来も激しいし、入ってくる人もいれば出て行く人もいる。アパートの住人なんて三か月あれば一人残らず入れ替わるのも珍しくないんだ。そんな事情を抱えた街の中で特定の一人だけを捜そうってのはムリムリ。」

「だ、だから管理組合の方に行ったんだけど…」

「資料は見つからなかったんでしょ?どんなに管理が杜撰だとしてもなんだかんだ出稼ぎ労働者に一番詳しいのはあそこだよ。そこで捜してダメだったんならどこへ行ってもダメだね。」

「えっと…アレン君は見つからないと思う?」

「百パーセント見つからないと思うねおいらは。仮に見つけるのだとしてもクエスト依頼者とナナミ姉ちゃんの二人だけじゃいくらなんでも人手不足だよ。もっと人を集めないと。ヒマそうな冒険者の兄ちゃん姉ちゃんには声をかけたのかい?」

「うん、でもね…人数を増やすとその分お金がかかるでしょ。人探しのクエストは日雇いの賃金も払わないとだから、そうなると捜索に使える期間が短くなっちゃうのよ。最初はもっとイケると思ったんだけど意外と馬鹿にならない賃金が発生するのよ。仮に十人増やしたら捜索日数は半分以下の三日が限界。それ以上となると時間の方が足らなくなっちゃうの…」


 人手を増やせばその分出費がかさむのは当たり前だし、一人頭の報酬の額が少なくなってしまうのだ。ナナミは多少報酬が減っても特に不満はないが、他に受ける人間にとっては報酬が減るのはよろしくない。捜索のやる気にもかかわる。

 クエスト依頼者のルハイも報酬の金を用意してきたとはいえ、そこまでの大金をもっているわけではなかった。片田舎の娘に用意できる報酬などたかが知れている。


「おいら冒険者の人たちに聞いたことあるよ。この街で人捜しのクエストが出ても誰もやらないんだって。さっきも言ったように広くて人も多いからまず見つからないし、報酬も人数を雇っているうちに一人頭がどんどん少なくなるからやる気がなくなるんだって。やるとしても適当にやって時間を潰して日当目当てだよ。」

「そっかぁ…まあそうだよね。」


 しかしそれを聞いてもナナミは怒る気にはならない。それは当たり前のことだからだ。冒険者だって食って生活していくためにクエストをやっているわけで…大した報酬にならない失敗前提のクエストだからって手を抜かないでしっかりやれと、ナナミは上から命令できる立場ではないし、そんなこと言う気だってない。冒険者は誰からの命令も受けない自由の身。自由者(フリークス)なんて呼ばれていた時代もあったくらいだ。


「追加で人を雇っても期待できないわ。やっぱり私一人で探す。他の人の手を頼らずともなんとかしてみせる。今日は時間がなくなっちゃったけど、明日また改めて管理組合に行って資料室でドルハさんの情報を探してみるから大丈夫よ。朝から行けばもっと時間がとれるだろうしきっと…あ。」


 ナナミがそう言いつつフォークを持つ手を伸ばしたら、横から別の誰かのフォークが伸びてきてナナミがとろうとしていたソーセージがかっさらわれてしまった。

 ソーセージを奪ったのはクロノスだった。彼はソーセージを齧り半分くらいに減らしてから残りを一気飲みにする。そして口元をもぐもぐとさせて空にしてから喋ってきた。


「…うん、半日やって君はとっとと理解しただろう。なぜ人探しのクエストを冒険者の誰もがやらないのかということを。単純に、どうやったって見つからないんだよ。この大陸で一度足取りを消してしまった人間を再び見つけ出すことは困難なんだ。不可能と断定してもいい。俺は物事をゼロか百で言い切るのは嫌いだがな。」


 クロノスがそう言ってナナミにフォークの先を向けてきた。たいへんお行儀が悪い。


「ま、まだわからないでしょ‼期間はまだ一週間あるもん。管理組合の資料室も明日また探すし…‼」

「…そうかい。なんていうか…君はどうもこの辺りの勘違いというか…感性が我々大陸人とはずいぶん違いというべきだろうか…人とはぐれてもすぐに見つけ出せるだろう、どうせまたすぐ会えるだろうという謎の安心感を持っている気がしてならないな。その自信の根拠はいったいどこにあるんだ?」

「それは…」


 ナナミはそう尋ねられてふと考えてしまう。

 

「(そういえばなんでだろう?…ああ、私のいた世界では人とはぐれてもスマホとかですぐに連絡を取り合えたんだ。今日伝え忘れたことがあれば後で、それこそ明日でもいいやってなるんだ…でもこの世界にそんなに便利なものはない。せいぜいが拠点の宿屋に書置きを残したりやギルドの寄り合い帖に書いておいたり…でもそれを意図的にしていないと人の足取りはすぐに消えてしまう。それに…この世界には人間の脅威はまだまだ多い。街の外に出ればモンスターとか盗賊だっているんだ。)」


 今日別れた人間が明日死んでいるかもしれない。明日会う約束をしていた人間がどこか遠くへ逃げてしまうかもしれない。この厳しい大陸では、次、というものがいつあるのか…そんな保証はどこにもないのだ。ナナミはゆっくりと考えてそれを改めて痛感した。


「今回は街一つの捜索範囲だから楽な方だろう。内容によっては国を跨ぐものもあるし。というか人探しのクエストってのはな、だいたいが危ない野山に入ってそのまま帰ってこない村人の、食い散らかされて目も当てられない()()()()()を捜したり、街から街へ移動中にいなくなった商人が、()()()()()()()()()を調べたり…まぁなんだ、死人であることが前提なケースが多い。あとは生きているヤツはせいぜい国際的に指名手配されている人間の捜索をするものなんだ。ただこっちもよほど名のある犯罪者でないと積極的には捜さない。どこかの街で犯罪をやらかした奴をとっ捕まえて一応にと照会してみたら、たまたま尋ね人だった的なことの方が多いくらいだ。探すのと見つかるのが逆なわけだな。君一人でこの広いミツユースの街で一人の人間をロクな手がかりもなしに探すのは、麦わらの山から一本の針を見つけ出すのに等しい。…もしかしたらルハイ嬢も最初っから期待なんてしていないのかも。」


 ナナミが考えている間にクロノスは自分の食事を終えたらしい。いつの間にか食後の茶のセット一式を用意していて、茶を一杯飲んでから続きを話した。


「面倒くさい。どうせ見つからない。…確かにそういう理由もあるだろう。でもな?冒険者たちが人捜しのクエストをやりたがらない一番の理由はな…クエストの失敗を依頼者に報告することがイヤだからなのさ。荒くれ者が多いが冒険者だって血の通った人間だ。そんな人間が家族や友人を捜して頼ってくる依頼者になんて言葉をかけたらいいか迷うのは当然だ。そして依頼者も見つからなかったことを聞かされるとつい感情的になってしまう。たとえ冒険者が善意で、それこそ本当に全力をもって探したのだとしてもそれが相手に伝わるだろうか?いいや伝わらない。失敗の報告を耳にして感情的になった依頼者は「お前たちの探し方がいい加減なんだ‼期待したのが馬鹿だった‼」…と罵りいたぶってくださる。そしてギルドにもクレームが来るからギルドはクエストを受けた冒険者の評価査定を下げざるを得ない。冒険者にとってもギルドにとってもまずい案件さ。後味が悪く評価も下げられ心の中は曇天の曇り空…そんなもの誰がやりたがるってんだ。」

「…」

「わかったのなら明日ギルドに行ってクエストのキャンセルをしてこい。このクエストはムリそうなので失敗にしてくださいってな。ギルド側も理解してくれるさ。もしも依頼者のルハイ嬢に会ってクエストをやめるのを伝えるのが気まずいのなら職員に仲介をしてもらって…」

「…やだ。」


 クロノスがぜんぶ言い切る前に、ナナミは否定の言葉を出した。




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