第26話:ナナミ・トクミヤは人を探して役に立つ03(ナナミは管理組合で情報を探し求める)
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クエスト名:父親を捜してください
依頼者:ペイル小国ホードリ村のルハイ・シャペン
実行地:ポーラスティア王国ミツユースの街
受注条件:特になし
難易度:D
達成条件:捜し人の発見
特筆事項:期間の限定あり
この街に出稼ぎで来ていた実の父親のドルハ・シャペンの行方を捜しています。ミツユースの街の事情に詳しい冒険者は歓迎します。詳細は依頼者が直接お話します。
※捜索クエストのルールに則り、捜索対象が期日までに見つからなくても毎日の日雇いの報酬が発生します。それとクエスト受注者の冒険者は、途中で捜索人員を増やしても構いません。追加人員は依頼者との相談の上で決めてください。
※このクエストは期間が決まっている限定クエストです。依頼者がこの街にいられる期間が限られているので、クエストの募集開始から一週間がクエストの期限となります。クエストを受注した時点で一週間ではないので、受ける予定の方は注意してください。
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父親を捜して欲しいとクエストを出したルハイ。そんな彼女の依頼を受けることに決めたナナミは、ルハイを連れて大通りにある冒険者ギルドの支店へ向かい、彼女のクエストを正式に受けることを届け出た。依頼者であるルハイが隣にいたので手続きと説明はスムーズにいった。
支店を離れているうちに他にルハイのクエストを受けた冒険者がいることも考えたが、そういった存在は皆無で受けたのはナナミ一人だけだった。逆に人手不足を心配したがもしも後から人手が必要になっても追加のかたちで冒険者を増やせるから安心だ。
必要な時になったら他の団員や暇な冒険者にでも声をかけて協力してもらおう…ナナミは頭の中でそういう感じで予定を立てて、次なる目的地までの道のりをルハイと共に歩いていた。
「もうじき目的地に着くよ。」
「ああ。ところでナナミさんは冒険者なのに普通の人みたいな恰好をしてるんだな?普段からその恰好なんか?」
「本当に突然ですね。まぁこの格好なら気にもなりますか。でもほら、靴はちゃんとした丈夫な旅用のヤツだよ。」
白のワンピースに麦わら帽子はナナミの冒険者としての正装だ。冒険者にしては珍しい恰好ではあるが、動きやすいのと街の中でもあまり人目を引かない普段着感をナナミは気に入っているらしい。左腕には武器に使っている短杖をはめこむホルダーがあり、そこにはさっき武器屋で点検を終えて返却されたばかりの魔術の短杖が収まっているので、そこだけ日常とかけ離れているといえるが、それ以外はどう見ても街の一般人の小娘だ。冒険者としてはどうも違和感のある印象を覚てしまう。
「靴はよさそうだけども…そんな恰好で森や山の中さ歩いて、モンスターと戦えるんだかね?それに虫とか寄ってこないだか?」
「服には虫よけの薬を塗ってるから大丈夫。それに見た目以上に丈夫なつくりだし、モンスターから一発二発もらっても平気だったり。てゆうか変なカッコと言ったら冒険者って誰も彼もけっこうツッコミどころあるけどね。」
「そういえば冒険者は軽装な人間がおおいだ。防具とかも皮鎧くらいしか身に着けないだ。」
「確かに軽装な人多いですよねぇ。きっと動きやすさ重視なんだろうね。野山で鉄鎧なんて着込んで歩き回るなんてムリだし…」
動きやすさ重視という理由は確かにある。しかしそれ以上の現実的な理由をナナミは知っている。多くの冒険者は年中金がないし、金が必要な時は装備を質に入れて金を工面するので、立派な装備で冒険者家業をスタートしても、維持費やら歩きづらいやらでいつしかどんどん軽装になってしまうのだ。
「そんなもんなんかぁ。」
「そんなもんですねぇ。」
しかしそんな冒険者業界の表には明かせぬ部分をルハイには伝えずにナナミは愛想笑いをして誤魔化すのだ。そんなことドストレートに伝えたら冒険者に依頼を出してよいのだろうかと疑問に思う依頼者が続出するからだ。冒険者の装備格好に関しては完全に個人の問題なので、あえて言う必要もないのだ。
それにしても二人はさっき出会ったばかりだと言うのに、まるで長い付き合いの友人のような距離感だ。これはナナミの持つ誰にでも親しく接せるフレンドリーさが為せる技であろう。紛れもなく彼女の長所だ。もはや武器ともいえるそれを、ほんの少しばかりヤスリで削ってコミュ障のクランリーダーへわけ与えてやってほしいものだ。マジであいつ知り合い以外になると途端に口数が減るんだからやんなっちゃうよもー。
「そう言えばナナミさん。お…私たちはこれからどこさ行くつもりだ?」
「ふっふっふ…実はルハイさんのお父さんを探すアテがあるんですよねー。あ、ところでルハイさんは今日の予定は大丈夫だった?叔父さんの手伝いってのにはいかなくてもよかったの?」
「大丈夫だよ。叔父さんの仕事の手伝いは明日からだし、今日の午後は街を観光でもするつもりだっただ。今日のうちからさっそくクエストにとりかかってもらえるなら願ったり叶ったりちゅうもんだよ。」
いま向かっている目的地にはナナミ一人で行くつもりだったが、ルハイも午後はフリーだったので着いてきていた。彼女は依頼者なのだから人捜しをする必要はなさそうだが、捜索の対象は実の父親でもあるので、きっと自分でも捜したいのだろう。ここは依頼者の意思を尊重するべきだろう。
「そんなことしているうちに…はい到着です。ここはミツユースへ働きにやってきた出稼ぎ労働者の管理ギルドだね。」
ナナミがルハイを伴ってやってきたのは、出稼ぎ労働者の管理を行っているギルドの建物だった。ここはミツユースに稼ぎに来た出稼ぎ労働者へ、街やその周辺で募集されている仕事を紹介することを仕事にしていて、ミツユースで働いている出稼ぎ労働者は一人の例外もなくここで管理されている。…ナナミはこの場所を知らなかったが、冒険者ギルドでクエストを受注したときに受付の女性職員に教えてもらっていたのだ。
ミツユースの街では昔は事業者ごとに勝手に労働者を雇っていたらしいが、雇用主と労働者の間で賃金や労働内容でひと悶着あったり、逆に小規模な事業者が大手に労働者をかっさらわれてしまい人手が足りなくなったりといったトラブルが絶えなかったそうだ。
正当な理由もなく一方的に仕事を切られ食い詰めた労働者が街の一角にスラム街をつくり犯罪率の増加につながってしまったりもしたので、外から稼ぎに来た人間の状況の把握と正しく仕事へ就かせることができていないのは街の評判に影響するからと、見かねた役人が予算を組んでここを創設したそうだ。当時の役人偉いぞ。
今では街の事業者が出稼ぎ労働者を雇いたい時は、必ずここを通じて出稼ぎの労働者向けの仕事を募集して労働者を集めることになっているし、出稼ぎ労働者も街に来たらまずここを紹介され、自分の情報を登録してから仕事を探すことになっている。それ以外の雇い方はすべてモグリだと言うのだから徹底している。
海から船で来ても陸の大門をくぐって来ても出稼ぎ労働者なら最初にここへ行くよう案内を受けるので、ルハイの父親ドルハもこの街に来てすぐにここを利用しているはずだ。仕事や住んでいる場所を変えても届け出を出すという決まりだから足取りもばっちり残っているだろう。それを調べればドルハ氏が現在どこで何をしているのかがこの広い街でもわかるはずだ…と、ナナミは自信満々だった。
「ここで父ちゃんの足取りを調べるんだな。しかしなんだか周りがおっかないような気がするだ。」
「そうだね…私もここへ来たのは初めてだなぁ。冒険者ギルド以外のギルドに用なんてないしね。」
建物の立地はお世辞にもあまりいい場所とは言えなかった。周囲の建物の都合か常に日陰に埋もれてそれが薄暗さの原因となっているし、そもそもここはスラム街にかなり近い場所だ。下手すれば昼間でも物盗りや人攫いにあってしまいそうだ。
「(こちとら冒険者だから、ちょっとやそっとの荒くれ者なんか相手にならないけど…今はルハイさんがいるからなぁ。何かあったとき依頼人を守りながら戦うのは厳しいかも。)」
周囲にいた人間もなんだか目がぎらついていてナナミとルハイをまるで吟味しているかのよう。本当はただ職を探しに訪れただけの出稼ぎ労働者で、職を求めるあまり目が血走っているだけかもしれないが、場所が場所だけに悪い方に考えてしまう。
とにかくさっさと建物に入ってしまえば安全だとナナミはルハイの手を引き、ギルドの建物の中へ入っていった。
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建物の内部は小奇麗で明るく外のような暗さはなかった。そこまでの広さではないが、今の時間は人がまばらなので手狭には感じられない。
ホールには昨日今日街に着いたばかりのような格好の男や、何度目かの求職なのか手慣れた様子でカウンター職員と話し込んでいる男などがいたが、みな目的はこの街での仕事を探すことなのだろう。新たに表れたナナミとルハイには興味も示さず、自分の仕事探しに集中していた。
ホール内に設置されている木造りの展示パネルには街の各所にある事業所から出された求職の紙が所狭しと貼りつけられていて、その前に人が集まってそれを眺めている。
この場にいる男と女の割合は男6に女4といったところか。意外と女も多い。これは女も出稼ぎ労働者として街へ来ることが多いからだ。一昔前は故郷で嫁にも行けず家で食わせる飯もない女は、娼婦か冒険者か奴隷になるかの三択という有様だったそうだが、大陸全土で奴隷売買が禁止となり、女でもある程度職業を選べるようになっていた。
娼婦と奴隷と肩を並べる冒険者という職が普通の人間にとってどんな扱いなんだよというツッコミはナナミは心の中にとどめておいた。冒険者の扱いも良くない時代もあったようだが現在では冒険者ギルドによる徹底した管理とイメージアップ戦略により冒険者の立場もよいものとなっているのだ。だからナナミのような年若い少女でも堂々と冒険者を名乗ることができる。
ナナミとルハイは受付にいたやる気のなさそうな女性職員(普通の態度なのかもしれないが、普段優しく接してくれる冒険者ギルドの職員と比べるとやや温度差が感じられた)へ事情を話すと、出稼ぎ労働者の資料がまとめておいてある資料室への入室を許可してくれた。大切な資料の保管されている場所へ入ることにあっさりと許可が出たことに二人は少し驚いたが、聞けば行方不明となった出稼ぎ労働者の足取りを追うために家族や知人友人、もしくは借金取りやナナミのような捜索の依頼を受けた冒険者が尋ねて来るということはちょくちょくあるらしい。いちいちそちらへの対応をしていると本来のお客である出稼ぎ労働者へあたる人手が足りなくなるそうで、資料室へお通しして該当者を勝手に探して調べてくれという方針だそうだ。
いい加減なあつかいな気もするが、好きに調べてくれというのなら好都合だ。これならば案外すぐにドルハの居所は見つかりそうだと、ナナミとルハイは期待して資料室へ向かった。
資料室は建物の一番奥にあった。大して広くもない建物なうえ通路も一本道だったので目的地には迷うことなくすぐに着いた。
「さーてまずはここでドルハさんの資料を探してっと…って、なにこれえええええ!?」
さっそくと意気込み、扉を開けて資料室に入った二人は中を見て二人は驚いた。なぜなら部屋の中がぐっちゃぐちゃのしっちゃかめっちゃに散らかっていて、それはもう酷い荒れようだったからだ。
テーブルの上や床などそこらかしこに労働者の個人情報が書かれた資料が出しっぱなしで乱雑に散らばっている。棚にしまってある資料も前に見た人間が適当にしまったのかいくつも中途半端に飛び出していた。
ひどい状態だ…ナナミは改めて素直な評価をだした。
「(うーん、まるで泥棒が入ったあとみたい。でもこれたぶん私たちみたいに人を探しにきた人たちの仕業だよね。冒険者ギルドの資料室だったらここまで汚くならないのに…まぁ片付けなかったら職員さんにボコボコにされちゃうからなんだけどね。)」
よくあることだ。目的の人物の資料の捜索に熱が入り、違った資料は適当な片付け方になってしまう。そうしているうちに資料が見つかればこの場をそのままにしておいて、探し人をさっさと探しに行ってしまう。次に訪れた人々も「これだけ散らかってるならいいや。自分もこうしておこう。きっと職員が後で片付けるのだろう。」という風に放置していく。空間というのは散らかっていると余計散らかりやすくなるものなのだ。それが繰り返され最終的に出来上がるのがこのありさまというわけ。
後に二人が知ったことだったが、元々このギルドはあまり予算が割かれていないらしく人員も最低限で、出稼ぎ労働者の資料は軽んじられロクに整理もされていなかった。利用する側も管理する側も、誰も片付けていなかったわけだ。
「失礼しまーす‼これ置いていきまーす‼」
「え、ちょっと…」
そうしている今この瞬間にも若い男性の職員がやってきて新しい資料の束をテーブルの空いている場所に適当にどかんどかんと置いてさっさと立ち去っていった。ナナミが声をかける間もなかった。どうやら本当に片付けは人任せにしているようだ。
「はぁ。とりあえず…探してみよっか。」
「んだな。なにもしないわけにもいかないだ。」
「ええと…資料は労働者の出身地域ごとに並んでいるのね。ならまずはペイル国はどこに…えーと…ペ、ペ、ペ…P、P、P…んん!?これは…「ハイル王国」の分じゃない‼しかも何十枚も…なんでPの棚にHの国が入っているのよ。間違えたとしても隣のGかIじゃない?なんでこんなところに…」
「ナナミさん。こっちの棚がいっぱいでこれ以上入らないだ。きっと入らないから近くの空いていたPの棚に押し込んだんじゃなか?」
GからIにかけての棚は資料がぎゅうぎゅう詰めにされていて半分はみ出している状態だ。ルハイの言う通りこれ以上は紙一枚も入りそうにない。よく見てみれば他の棚も似たようなものだった。だからいつまでも机の上に置きっぱなしにされているのだろう。
それだけではない。入ってすぐにある机の上には「新規分」と張り紙をされてひとまとめにされた資料の束がいくつも置かれていた。ナナミが紐を解いて確認すると、それらはやはり未整理で出身地も名前の順もてんでばらばらだ。
「この様子だとペイル小国の場所にそこの労働者の分が全部あるのかも怪しいわね…他の棚に雑に突っ込まれてそう。でも総当たりするしか手はないか…‼」
それでもあたっていけばもしかしたら…とナナミとルハイは熱心に探したが、万人単位である出稼ぎ労働者の資料だ。闇雲に探しても見つかったとしてもそれは宝くじに当たるよりも低い確率だろう。案の定いくら探してもそれらしいものは見当たらない。とりあえずペイル地方のPの項目と、その両隣のOとQの棚を全部ひとつずつ確かめてみたが、ドルハの名前は一度も出てこない。
閉館時間一杯まで探したが結局彼女の父親の資料は見つからず、最後には職員に建物から二人まとめて無理やり追い出されてしまった。




