表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫より役立て‼ユニオンブレイブ  作者: がおたん兄丸
27/35

第25話:ナナミ・トクミヤは人を探して役に立つ02(ナナミはクエストと依頼人を連れて戻ってくる)




 昼時も終わりになったミツユースの街。街の人間はしばしの休憩に惜しみつつもそれを切り上げて、それぞれ午後の仕事へと向かう。商人は自分の事務所や取引先の商会へ、子供たちは勉学を学ぶために学校へ、主婦たちは午前中にできなかった家事や晩御飯のお買い物、隠居した爺婆と近所の野良猫は天気がいいので日向ぼっこだろうか。人々はそうして三時の茶の時間までは再び精を出して働くのだ。

 

 しかし我らが主人公、冒険者クロノス・リューゼンはといえば…


「ぐてー…」


 変わらず猫亭のホールの自分の席でぐうたらしていた。重い腰を降ろす前に水道で歯を磨いた以外は午前中とまったく変わりない。…いやひとつ違う。たとえば机に突っ伏して溶ける様はまるで彼が軟体モンスターのスライムと化してしまったかのようだった。


「(だってナナミのつくったカレーっぽいスープがおいしくて三杯もお代わりしたら眠たくて動きたくなくなったのだ。なんもかんもカレーっぽいスープが美味しいのが悪い。そう、自分は被害者なのだ。だからこうして溶けてスライムのように溶けてしまいたくもなる…ぐてー。)」


 クランリーダーという立場はなにかと忙しいものだ。クランの団員達の活動をまとめた資料に目を通したり収支の帳簿に確認のスタンプを押したり、同盟関係にあるクランへ顔を出して交友をはかったりなどなど…やることはいくらでもあるだろう。

 しかし理由を決めつけてだらだらし続けているクロノスは、いっさい悪びれる様子もなかった。なぜなら自分は被害者だから。この世では被害者という人種が一番偉くそして尊く、何をしても許されるのだと断言してそれ以上の思考は窓を開けてそこから投げ捨てたのだ。

 

 彼はときに「冒険者業界で最も自由な冒険者」とも称される男である。彼の思い付きによって生じる行動を止められるのは一部冒険者ギルド幹部か同格のS級冒険者。そしてあともう一人、彼の専属担当職員であるヴェラザード嬢くらいのもの。彼女だったならばこの光景を見かねて適当に見繕ってきたクロノスにしかできないような理不尽なクエストの数々を寄越して、そのすらっと伸びた長く美しいおみ足で彼のケツを蹴り上げて拠点から追い出してくれることだろう。


 しかし、そんな大切な役割をもつヴェラザードはあいにくと本日は不在である。なぜなら冒険者の街チャルジレンへたまった報告書の提出へ旅立っていたのだ。彼女が帰ってくる数日間はクロノスの手綱を握る者はこの街にはただの一人もいなかった。


「あーあ、被害者である俺はなんと退屈で可哀そうなのだろう。退屈は人生における劇物だ。ときに退屈を最高の贅沢と評する詩人もいるが、誰が毒を好き好むものか。こんな退屈な昼下がりには、たとえば他の連中はどんなことをやっているのだろうか、それが気になってしょうがない。…ちらり。」


 クロノスが片目だけ瞼を開けて一階のホールを見渡した。そこに残っている冒険者達の姿はまばらでほんの数人しかいない。彼らも食事を終えて自分達の冒険者としての活動をやるべく街の外へ向かったり、後日の冒険に備えた道具や食料の買い出しなどの準備に出かけたのだろう。冒険者は常に金欠なので、どんなに嫌でもいずれはクエストをして金を稼がなくてはいけない。泳ぎ続けないと呼吸ができない魚のような連中なのである。


 今この場に残っているのはまとまった金が手に入りしばらく働かなくてもよくなった者か、そうでなければ数少ない計画的な休暇をとっている者だけだ。借金の返済で頭が回らずついぞやけを起こして飲んだくれている者も一人いた。彼らは変わらず一人で酒を飲んでいたり、本を読んでモンスターの知識を学んでいたり、ひとつのテーブルに集まってカードゲームを楽しんでいたりした。


「飲んで打って談笑して…みんな楽しそうだなー。それに比べて俺はなんと退屈なのか。なんで昼下がりってこんなに何もやる気がしないんだか…むしろヤル気むんむんな他の連中の頭がおかしかったり…他の子猫ちゃんも今日はいないし、あー退屈退屈。」

「ただいまー。」

「お、退屈を吹き飛ばしてくれそうな子猫ちゃんが一匹帰ってきた。お帰りナナミ。なにかいいクエストはあったか?」


 昼食の後に出かけていたナナミが戻ってきた。クロノスは溶けていた体を起こし彼女を出迎える。


 ナナミは武器に使っている短杖を武器屋に点検に出していたのを受け取りに行き、そのついでにギルドの支店でクエストを探しに行っていたはずだ。戻ってきたということは何かいいクエストがあったのだろうか。今いる猫亭の団員はナナミのほかはクロノス一人だけだ。猫亭のクラン方針は他の団員に手を貸してやりたいことを手伝うことなので、彼女が何かいいクエストを見繕ってきたのならそれを手伝わなければならない。だらだらタイムもいよいよ終わりかとクロノスは未練を残しつつも、覚悟を決めて立ち上がろうとしたが、それをナナミが手で制した。

 

「どうしたんだ?クエストをやるんだろう?特別にこの俺が手伝ってやろうじゃないか。」

「そう、それなんだけどさ…ああどうぞ入ってきてください。」


 ナナミが申し訳なさそうに扉の横へ動く。すると一人の女性が入ってきたのだ。


「えっと、お邪魔しますだ。」

「おや、君は…」


 クロノスはその顔に見覚えがあった。無理もないだろう。その人物は昼時にやってきたペイル地方の訛り言葉で喋っていたお方だったからだ。あの強い訛りと余所行きの格好は今でも記憶に新しい。ついさっきのことなので忘れていたらそれはそれで問題だが。


「昼時ぶりだなお嬢さん。何か忘れものでも?」

「いんや、そうではないだよ。この人が私の話を聞いてくれるっちゅうて、ここさ案内されてきただ。」

「あれ?さっき来てたお客さんってルハイさんのことだったの?」

「ああ、それよりもふぅん…ルハイ嬢というのか。」

「そうなの。話を聞いて欲しいから出かけるつもりだったならちょっと待ってね。ルハイさん、こっちのクロノスさんがウチのボスだから。さっきの依頼の話をもう一度聞かせてくれる?」

「わかっただ。それじゃあ…」


 女性は、ナナミに案内されて奥のテーブル席へと向かった。複数人で客の話を聞くには入り口のデスクでは手狭だしお客様へ失礼だからだ。クロノスも椅子から立ち上がりそちらへと向かった。


――――


 ルハイと呼ばれた女性を席に着かせてから、ナナミがお客様用に買っておいたオレンジジュースをふるまった。ジュースに使われているオレンジは近隣の農家で朝とれたものを使った新鮮なもので、そこにナナミが魔術でつくった氷を入れた贅沢仕様。

 もてなしは気に入っていただけたようで、ルハイ嬢は一杯をさっさと飲んで(したた)かに二杯目(おかわり)を頂いてから、クロノスとナナミに話を語って聞かせてくれた。



 既に聞き及んでいたが、彼女の名は「ルハイ」。ミツユースから遠く離れた片田舎の小国「ペイル」から船に乗って街までやって来たそうだ。

 ルハイは小国ペイルの、これまた片田舎の辺鄙な村の出身だそうだ。村の名前も一緒に教えてもらったが希望とか夢とかそんな感じの意味のごくありふれたどこにでもありそうな普通の名前の村だったのでクロノスは刹那で忘れた。

 

 ルハイがミツユースへ訪れたのはギルドにとある依頼を出すためで、その依頼とは人探し…文字通りとある人物を探し出してほしいというものだった。

 探している人物の名は「ドルハ」といい、ルハイの実の父親なのだそうだ。どうして他国にいるルハイがわざわざミツユースまで父親を捜しに来たのか…それにはとうぜん理由があった。


 なんでも彼女の故郷である小国ペイルは数年ほど前に、蝗害(こうがい)(※大量発生したバッタに作物を食い荒らされてしまう災害のこと)によるとてもひどい飢饉に襲われて、ひどく困窮してしまったのだそうだ。その被害は国全体におよび、ルハイの村周辺も例外ではなかった。

 村は餓死者こそ出なかったものの、村人は食べるものがなくて辛い思いをすることになる。村の若い男達は村の食い扶持を減らしつつ、食べ物やそれを得るためのお金を稼ぐために村を出て外国まで出稼ぎに行くことになり、ルハイの父親ドルハもまた、妻とまだ子供のルハイを残してミツユースまで出稼ぎに出向いた。


 その後、小国ペイルの蝗害(こうがい)は収まりをみせて、食料問題も近隣の国家や商人からの手厚い支援で無事解決に至る。ルハイの村もなんとか持ち直して、出て行った男達の殆どを呼び戻せるようになった。とうぜん男達はすぐに故郷へ戻ってきたのだが、しかしルハイの父親ドルハだけは戻ってこなかったのだ。


 おそらく遠い地で復興したペイルの事情を知ることもなくあくせくと働いているのだろう。そう思いルハイと母親が出稼ぎの必要はもうないから村に戻って来いと手紙を出したが、「村が大丈夫なのは知っているがもう少し稼いでから帰る」…と、そう返事が返って来たのだ。

 ルハイと母親は最初の内はドルハの手紙を信じて素直に帰りを待っていたが、その後も手紙がやって来るだけで本体のドルハ氏が帰ってくる気配がない。いい加減に帰ってこいと手紙を書いて送ってもまだ、もう少し、と帰還を渋る返事がくるだけだ。


 そのやり取りが何年も続き、それが二年ほど前になってついに手紙すら絶えてしまったのだそう。父親が何か事件に巻き込まれたのかもしれないと、ルハイは行商をしている叔父が商談のためにミツユースへ行くと聞き、これをチャンスと考えて、叔父の仕事の手伝いという名目で村を出てミツユースまで父親捜しにやってきた。父親に会い直接村へ戻るように言えば、さすがに連れ戻せると思ったのだろう。


 しかしここで問題がひとつ発生した。ルハイは父親ドルハがミツユースのどこに住んでいて、どんな仕事をしているかをまったく知らなかったのだ。手紙では近況を書いてきてはいたが、そこにはそういう情報を示すものは何ひとつなかったし、手紙の送り元住所は郵便局の場所を示していただけだった。出稼ぎ労働者は適当なタコ部屋や安い宿をころころ転住するので、手紙の住所が出した郵便局と同じなのはよくあることだそうだ。


 とりあえず街に着けばなんらかのアテがあるだろうとルハイは考えていたが、しかし今朝がた街に着いた彼女は現実に直面する。街は彼女が思っていた以上にずっと広かったのだ。住んでいる人間からしたら忘れがちだが、ミツユースはここらで一番の大都市である。片田舎の小国から出てきたルハイの想像の外をいっていたとしても不思議ではないだろう。

 街を闇雲に探したところで土地勘もないルハイには、とても広いこの街でとてもじゃないが父親を見つけられないことを悟る。人に聞いて尋ねてもドルハのような地方からの出稼ぎ労働者はミツユースでは珍しくなく年間に何万人という単位で存在するのでこれも不可能。叔父の仕事の手伝いもしないといけないし、ついに金さえ出せばどんな依頼でも受けてくれる便利な何でも屋である冒険者を頼ることにしたのだとか。


 ここまでが、ルハイ嬢の話してくれたことの顛末(てんまつ)であった。



「…ふぅ、一杯いただくだよ。」


 長い話を終えて喉がすっかり乾いてしまったルハイは、オレンジジュースの二杯目も飲み干してひと息ついた。語っている間も彼女は相変わらずのペイル訛りの大陸後だったが、クロノスとナナミはなんとか内容を聞き取ることができていた。もしかしたらルハイなりに聞き取れるように工夫してくれたのかも。


「おらの地元でも冒険者は何でもやってくれるだよ。普段はロクに働かねぇ飲んだくれも多いけど、いざという時には頼りになる。畑の作物の収穫時期とか忙しい時とか村にモンスターが現れた時には大活躍だ。もちろん報酬さ払う必要はあるだども。」

「なるほどね。確かに人探しは冒険者のクエストのうちだな。なら後はギルドの支店で依頼を出してそれを受けた冒険者に父親を捜してもらうだけ…その間に君は叔父上の仕事の手伝いなり、ミツユースの観光なりしてゆっくり過ごせばいいだろうさ。よかったよかった。」

「そうもいかなかったんだよクロノスさん。ギルドの支店で依頼を出しても誰もルハイさんのクエストを受けてくれなかったんだって。」


 ナナミもまた自分のオレンジジュースを飲み終え、ピッチャーからお代わりを自分とルハイの空っぽになったコップにそれぞれ注いで、魔術で生み出した氷を放り込む。そしてジュースを三分の一ほど飲んでからテーブルの真ん中に置いた菓子皿からビスケットを二、三枚とって食べていた。

 クロノスはナナミとルハイがおいしそうに食べるビスケットを眺めるだけだ。甘い菓子にはクロノスはあまり手をつけないのだ。


 ルハイは先ほど支店まで赴き職員に依頼の説明と報酬金額の提示をしたところ、職員に難しい顔をされてしまった。理由はわからなかったがとりあえず依頼の書類をつくって受注者募集のクエストボードに張り出してもらい、依頼を受ける冒険者を待ってみたが、誰も受けてはくれなかったそうだ。


 冒険者とて様々な事情を抱えている人間である。クエストボードにクエストが張り出されてもすぐに受けてもらえるとは限らない。だがあれだけの人がいて誰もルハイのクエストには誰も少しの興味も示さなかったのだ。 

 やがて依頼を探す冒険者も殆どいない時間になってしまいルハイが困り果てていたところに、短杖の受け取りを済まして遅れてクエストを探しに来たナナミが彼女と出くわし、いまに至るというわけ。


「なして誰も受けてくれんかったのか…これがサッパリわからんのよう。おら、クエストの相場はそこまで詳しくないだども、報酬の金額はそこまで悪くしたつもりはなかったよ?調査期間中の日当も人数に応じて出すし…職員さんも金額については問題ないって言ってくれただ。」

「それは…いや、まずは話をまとめようか。ナナミ、俺のコップにもおかわりをいれてくれたまえ。氷もたっぷりでな。」

「はいはーい。細氷よ現出せよ…「アイス」‼」


 ナナミが魔術の詠唱をすると、クロノスの空のコップの中に小ぶりな氷がいくつも出現した。ナナミの唱えた「アイス」の魔術によるものである。本来であれば戦いの最中に氷の塊を現出させて敵にぶつける目的で使われる魔術であるが、魔力量を調整することで口に含めるくらいに小さな氷を出せるので、ナナミはジュースやデザートに使う用の氷づくりにもっぱら使用していた。


 ナナミが氷を出した後にオレンジジュースがコップから溢れる寸前まで注がせて、クロノスはそれを一口だけ美味しく頂いてから、顎の下で手を組みルハイを見つめ発言した。


「依頼の内容は、貴方の父親が街のどこで何をしているか探して欲しいと…そういうことでいいんだな?村へ連れ戻すのを拒まれたら縄でしょっ引いて連れ帰るのを手伝えとかでなく。」

「んだ。村へ連れ戻すのはおら、私で説得するだ。あんたらは父ちゃんがどこにいるか探してくれるだけでええよ。」

「そうか…ここまで連れてきたんだ。ナナミはこのクエストを受けるつもりなんだろう?」

「まぁね。ルハイさん困ってそうだったし、人探しのクエストはやったことないけどこういうクエストも受けておけばいい経験になるかなと思ってね。それに…ああいや、ギルドの指定した難易度もDランクで私と同じだったんだ。あとは人手が必要になるかもしれないから一応クロノスさんに聞いてもらった方がいいかなーと思って連れてきた。」

「…正しい判断だったな。」


 ナナミから話を聞いたクロノスは難しい顔をしていた。それは決してオレンジジュースが思ったよりも甘くて、甘い物がそこまで好きでないクロノスにとってはよろしくなかったからではない。


「最初に言っておく。なに、他の冒険者と同じだ。俺はこのクエストをあんまりおすすめしないぜ。依頼人を拠点にあげたうえでそのお嬢さんの目の前でで言うのも心苦しいんだが…受けない方がいい。」

「え?どうして?」

 

 クロノスは依頼を受けることを好ましく思っていないようだ。しかしナナミにはその理由がさっぱりわからない。難易度の問題だろうか?いや、難易度は先に言った通りナナミの冒険者ランクD級と同じ難易度Dランク。それならば普通の難易度だ。ならば報酬の問題か?ナナミはクロノスにクエスト報酬の金額を伝えてはいなかったが、ルハイが話で相場相応と言っていたはず。ならばそれもノー。


 だとすれば…考えても答えがわからないでいたナナミは、ついにクロノスに思いのままのことを伝えた。

 

「だって人探しでしょ?ただの。確かにミツユースは広いし人もたくさんいるけど、この街のどこかにいるのなら頑張れば見つけられるよ。たしか街のどこかに出稼ぎ労働者用に仕事を斡旋したり労働者の管理をしているギルドもあったはずだし…ルハイさんは一週間は街にいるそうだし、それだけあれば十分じゃない?私一人でキツかったら誰かに応援を頼むつもりだしね。」


 ナナミはルハイの依頼を受けたそうにしていた。冒険者として依頼を達成すれば冒険者ランクを上げることができるというのも当然あるだろうが、お人よしな彼女は困っているルハイを見捨てられないのかもしれない。連れてきて話まで聞いた手前、今更ギルドに返してきなさいと言うのもかわいそうな話だ。クロノスは折れてやることにした。


「…わかった。ならやればいい。クエストを受ける受けないは団員個人が決めること。俺にそれを止める権利はクランリーダーとしてあるにはあるが、今回はそれを行使するつもりはない。」

「よかった‼それじゃあもう一度支店に行ってクエストを正式に受けて来るね‼そしたらルハイさんを連れていきたいとこがあるの。実はアテがあるんですよナナミさんには…‼」


 言うは早しでナナミはコップのジュースを飲み干してクッキーを何枚か拝借して包みに(くる)んでポケットにいれると、ルハイを連れ立って外へ出る準備をする。


「いこっルハイさん‼」 

「ダメだったら早めにギブアップしろよ。」

「そんなことしないよっ‼」

「あ…それじゃあお世話になりますだ。」


 ルハイがクロノスにお辞儀してから、ナナミの後を追って出て行った。



 ナナミとルハイが去った後で出て行った扉をひとり見つめ、残されたクロノスはコップの中の残っていたジュースをぐいと飲みほしてから、静かに考えていた。それはもちろん先のクエストについてだ。


「(…人探しのクエストね。ナナミはなぜ誰もこのクエストを受けなかったのか理解できなかったようだが、一度やってみればその理由がわかるだろう。とりあえずは頑張るといい。心の中で応援だけさせてもらう。)」


 クロノスは紅い瞳をぎらぎらと光らせて、皿に残っていた欠けたクッキーをかじる。それはクロノス好みの甘さ控えめの塩味が強めのクッキーだった。


「…そぉらフルカードだ‼」

「うぎゃああああ‼また負けたああああ‼」

「ふざけんな‼イカサマだ‼」  

「ちがいますぅー‼イカサマじゃありません-‼」


 ホールの奥ではカードで大負けした冒険者の絶叫が響いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ