第23話:冒険者はとりあえずビールのノリでとりあえずダンジョンを探検する14
こけこっこ~‼
ミツユースの朝を告げる一番雄鶏。彼は今日も美味しいごはんとハーレムを守るため朝から元気に鳴き喚いている。しかし残念なことに一番雄鶏のお役目と恩恵はたったの一年限り。一年間鳴きに鳴き続け老いた雄鶏は最期には鶏肉にされ、どこかのご家庭の食卓におかずとして並び美味しく頂かれてしまう悲しき運命なのだ。
背負っている自身の運命を知った嘆きか、はたまたその運命の時までの一瞬の命の輝きを示すためか…雄鶏はより一層けたたましく鳴いた。
こけこっこ~‼
雄鶏の鳴き声で目覚めて家の扉を開けて出てきた人々は、朝日を浴びて一日の始まりを実感しつつ背伸びをして眠っている間に固まってしまった体をほぐして柔らかくする。そして朝食の準備のために家の中に戻っていく。通りのどこの家もそんな感じだった。
そんな人々を視界の端に捉え、猫亭のクランリーダーである冒険者クロノス・リューゼンは、大通りをてくてくと歩き猫亭を目指していた。
「ふぅ、結局朝帰りになってしまったじゃないか。徹夜明けの足取りは重い。」
そう言うがクロノスの足取りは軽く、まったくもってふらつきはない。夜更かしした者特有の目の充血やまわりのクマもなく、誰が見ても彼が徹夜明けには見えなかったことだろう。こうみえてクロノスは冒険者の中でもけっこうな実力者。外見に疲労の色を見せないのも実力の一つなのだ。
「ヴェラはクールな態度かつ、ぷんすかぷりぷりと怒っていたが…怒りたいのは俺の方だよ。本当ならダンジョンの調査の報告だけでよかったはずの話なのに、朝イチで支店長に報告とか…昼間になってからでいいだろ。朝イチに誰よりも早く支店にいる支店長も支店長だ。どんなに待ちわびたって貴方を迎えに来る王子様は現れませんよっと。しかもダンジョンで使った経費についてあいまいにされっぱなしなんですけどぉ?転移の魔法陣の巻物、影縫いに使ったけっこういいナイフ、そしてダンジョン核の破壊に使ったけっこういい剣…合わせていくらしたと思ってんだ。」
本来なら夜更けには猫亭へ帰れたはずのクロノスだったが、いろいろあってすっかり朝日が昇ってしまっていた。いまを夜中というには少しばかり明るすぎるだろう。そんなわけで思ったより帰りに時間がかかっているクロノスはぷんすかと怒りながら道を歩いていたわけだ。しまいにゃ経費代わりにヴェラザードのあの素晴らしい胸を揉ませてもらおうことで決着をつけてやると決意を固く結んだ始末。
「フフフ…そうと決まれば楽しみになってきたぞ。経費などもはや安い投資だ。あのたわわに実った男の浪漫を揉みしだくのもいつ以来になるのだろうか…ああいうのは一度に脱がしてしまわず、まずはブラウスと下着に守られた状態を両手でぐわぁっっと‼…鷲掴みにして‼ごわぁっっと‼した硬い布込みの感触から前菜として頂くものだと相場は決まって…っと、そんな風に文句を言っていたらとうとう帰ってきてしまった。いや、帰ってきたのだからいいのか。はい先送り‼ヴェラのおっぱいモミモミ大作戦先送り‼中止じゃないからそこんトコロよろしくぅ‼」
彼は夜中に出てから半日も経ってないのに街へ帰ってくるのがなんだかひどく懐かしく感じられた。ちなみにクロノスは肉体的な疲労は無かったが徹夜明けで精神の方が変なテンションになっていることはご留意願いたい。
街の人々は両腕を天に掲げガッツポーズするクロノスをなんだなんだと一瞬見たが、それが朝帰りの冒険者であることを知るとすぐに興味を無くしていた。徹夜から帰ってきて変なテンションになっている冒険者など珍しくもない。街の人々はそんなことよりも自分の朝の準備の時間が惜しいのだ。
そんなこんなでとうとう猫亭の前まで到着したクロノスは建物の前で立ち止まり考える。
さて、表から堂々と入ると一階の酒場で寝こけている冒険者たちを起こしてしまうかもしれない。この時間は個人差はあれどいい夢を見て、それが盛り上がり最高潮のクライマックスとなっている頃合いだろう。王道を行くのなら、やはり騎士となり魔物の王からお姫様を助け出すラブロマンスとか…そんな状況で起こされるのは機嫌が悪くなりその日一日がバッドなものになってしまう。特にキスシーンの直前とかなら起こされようものならば起こしたヤツに殺意を抱ことだろう。
ここは自分の家なので勝手に居座り寝込んでいる彼らにそんな配慮をしてやる必要はないのだが、それでも小さな気まぐれを起こした優しい、やさああぁぁぁぁしい(※ここ重要)クロノスは、足元に気を配りつつ静かに裏口へ回った。通りは既に街の住人で騒がしくなり始めているので音を立てないのは完全な自己満足だ。
裏庭の池では朝から、カメの甲羅を背中に乗せたカモの見た目をした珍獣カメガモが、があがあと鳴いて小ガモを指導している。いや、よく聞けばそれは人の言葉であった。カメガモは人の言葉を操る珍獣なのだ。
動物の朝は早いものだとクロノスは彼女たちの会話を耳にする。
「いいですか我が子らよ。カメガモたるもの愚かで愚鈍で愚衆な人間に我らの威光を教えてやらねばなりません。その高らかな声の音色によって人間に畏怖の念を抱かせるのです。」
「ぴよぴよ。」
「そうですよ我が子ら。惨めで陰湿で阿呆な人間共は我らが鳴けばそれに恐れおののき、その感動から我らに神の肉を献上するのです。」
「ぴよぴよ。」
「(なーにが神の肉だ。ようするにパンくずのことじゃないか。)」
我が子たちに説法をする親カメガモは立派なことを言っているようで人間からパンくずを集ろうというその辺のハトやカラスと何ら変わりない普通の思考をしていた。いつもああやって冒険者や裏庭に忍び込んで遊ぶ近所の子供に餌をねだっているのだ。
あれでも元はとある土地を納めていた高位の生物だったらしいが、クロノスはそういった神秘的なオーラをあのカモ公にまったく感じていない。あのカメガモがユニコーンやペガサスと同類である幻獣種の生き物であることに未だ半信半疑であったのだ。
があががぴよぴよと鳴くカメガモ親子を横目に、クロノスは裏庭をまっすぐに突っ切る。
さて、裏庭ではいつも朝一番に起きては愛用の大剣「宝剣パーフェクト・ローズ」を振りまわして朝稽古に勤しむ団員のイゾルデ嬢の姿があるはずだが、彼女はまだいなかった。さすがにまだ早すぎるのだろう。もしかしたらもう目覚めて朝の身支度を整え始めているのかもしれないが、あいにく彼女の部屋は猫亭の二階の大通りに面した側なので、裏庭のここからでは確認できなかった。
そんな風に思いながら裏口の扉の前まで来たクロノスがノブに手をかけようとしたところで、ノブが勝手に回って扉が開き、中から影がひとつ出てきた。噂をすれば影…イゾルデが起きてきたのかもしれない。
しかしそれはイゾルデのものにしては随分と小柄だった。正体は…
「ありゃ?クロノス兄ちゃん?」
「おう、クロノス兄ちゃんサマだぞ。」
正体はアレンだった。彼は手にノートを一冊と荷物でぱんぱんに膨れたバッグを持っている。おそらく中身は昨日のダンジョン攻略の汗と泥で汚れた衣服だろう。
「出かけるのか?けれどずいぶんと早いな。まだ学校の時間ではないだろう?」
「その前にウチに戻って朝の店の手伝いをしないとだからね。焼く準備は母ちゃん一人で終わらせているだろうけど、この後すぐに朝の客が買いに来るからさ。そっちまでは母ちゃんだけじゃ回らないもん。」
アレンの実家は商店街にあるパン屋だ。そこでは彼の母親ベリンダが一人で店を切り盛りしており、アレンは街の学校に通いつつ冒険者の活動もしながらそちらの方の手伝いもしている。こう見えて超大忙しの少年だったのだ。
「パン屋の手伝いに学生家業に冒険者稼業…君は朝から大変だな。」
「それを選んだのはおいらだからね。やるだけやるさ。それよりクロノス兄ちゃんこそこんな朝早くにどこに行ってたの?」
「ん、まぁな…ちょいと夜の街にな。」
「もしかして朝帰り~!?これだから大人の男ってダメだね。」
アレンに尋ねられたクロノスはふいに嘘をつくが、やれやれと呆れられてしまった。とはいえまさかアレンとともに挑んだダンジョンがその日の夜に百倍は難易度が高くなっていて、それを攻略してダンジョンをぶっ壊すクエストをやってきました‼な~んて口が裂けても言うことではないだろう。
「大人でも一人で夜の街は出歩かない方がいいよ。ミツユースの街はいつも警備兵が巡回しているから治安がいい方だけど、それでも危ない場所や危ない人だっているんだ。そういうのは警備兵の目が届きづらい夜中に一人でフラフラしているヤツを狙うのさ。兄ちゃんもこの街に住みついてしばらく経つけど、おいらや街の人間からからしたらまだまだ新参者のミツユニスト初心者なんだからさ。分別はもってよね。」
「なんだよミツユニストって。密輸のプロみたいな名前だな。」
「ミツユースに住んでいる奴が自分達のことを気取ってそう言うのさ。こう見えて大都市だからねこの街は。…そういえばミツユースの街の名前の由来は街がまだ小さくて商業都市なんて言われる以前は、港から禁制品をこっそり密輸していたところからきているらしいよ。学校で先生が授業の小話に教えてくれた。」
「密輸するからミツユース…名前の由来ってそうだったのかよ。まぁそれはそれとして、夜の街の歩き方については胸に刻んでおく。不要な夜の出歩きはなるべく控えるさ。」
「そうしてね…っと、もう行かなきゃ‼早くしないと母ちゃんにどやされる‼それじゃあ…あ、いけね‼」
その場を走り去ろうとしたアレンが思い出したように振り返り、持っていたノートを投げてよこした。
「なんだこれ…ああ、活動報告書。君に渡していたんだった。」
「学校の休み時間にでも書こうと思ったけど、兄ちゃんに預かってもらっておいたほうが確実だよね。まだ書いてる途中だけど、続きはまた午後に顔を出したら書くよ。」
「もう書いていたのか。真面目なやつ。どれ…」
クロノスはノートを開いて最新のページにあるアレンの書き込みを確認した。内容は昨日のダンジョン攻略についてだったがそこは半分も書かれていないのでまだ読まない。見たかったのは題名だけだ。アレンがどんな題名をつけたのかだけ見ておこうと思ったのだ。報告書は個人によって個性が出るがその中でも題名は一番その性質が出るのでクロノスは読むのをひそかに楽しみにしている。
「なになに…「冒険者はとりあえずビールのノリでとりあえずダンジョンを探検する」…?」
「冒険者といったら領域の冒険かダンジョンの攻略じゃない?おいらは冒険者っていっつもとりあえずダンジョンに行っているイメージがあったから、タイトルつけるならこんなかなって。…ダメだった?」
「…いや。それが君のとりつくろわない言葉であるのなら否定する理由はどこにもない。他の子猫ちゃんたちがつけたタイトルは揃いも揃ってこのザマだしな。「今日はアップ―ルの実でつくったパイがおいしかったです。」、「魚屋の魚の質が悪かった。あそこには二度と行かん」、「食事の前には神に祈りの言葉は神聖教会の信者でなくてもするべきなのでございますよ。」、「今日は朝から調子がいいから剣の素振りを百回増やしますの‼明日は二百回増やしますわ‼」…うん、実にどんぐりの背比べ。」
クロノスがページを巻き戻すと、そこには自由気まま…固定概念にとらわれない個性が出たタイトルが次々と出てくる。だがふざけているのはタイトルだけで報告の内容はそれなりに真面目だった。むしろときどきあるクロノス自身のものが一番不真面目だった。
「うーん、朝日が気持ちいですわー‼」
建物の反対側。表の大通りの方で窓が勢いよくバッタンと開かれる音とイゾルデの大きな声が響く。下の階からは誰かが「うるせぇ…二日酔いの頭に響く…」とか呟くのが聞こえた。
「さてと、イゾルデ嬢も起きたことだし…今日という一日が始まる前に、俺も朝が来るまで少し寝ておこう。…まだセーフ。朝早すぎてまだ朝にはカウントされないからセーフ。」
改めて別れを告げて去っていくアレンを見送ってから、クロノスはあくびをひとつして建物へ入っていく。目指すは二階にある自室のベッドのうえ。
冒険は帰るまでが冒険だ。ということはこの時点で冒険はやっとこさ終わりというわけ。
クロノスは新しい冒険に備え、しばし英気を養うのであった。
「冒険者はとりあえずビールのノリでとりあえずダンジョンを探検する」おわり




