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猫より役立て‼ユニオンブレイブ  作者: がおたん兄丸
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第22話:冒険者はとりあえずビールのノリでとりあえずダンジョンを探検する13



 それからも彼らはおかしくなったダンジョンの中を奥へ奥へと進んでいった。歩を進めるごとに不気味なダンジョンモンスターがどんどん襲ってくる。相変わらずこのダンジョンに出現するゴブリンや突進猪(ラッシュボア)緑芋虫(ブルー・キャタピル)を混ぜ合わせたかのような気味の悪い容姿の数々は、遭遇するたびに誰かが眉をひそめた。

 特に芋虫のモンスターである緑芋虫(ブルー・キャタピル)の特徴を持つものには思わず吐き気を覚えそうになった。ゴブリンの体に芋虫の頭などという容姿に、攻撃すると緑色の体液を吹き飛ばす様は、虫嫌いでなくても夢に出てきそうなレベルである。


 しかしながら冒険者の中でもそれなりに高い実力をもつ者たちで構成された今回のパーティにとっては、いずれも苦労する相手ではなかった。最初に不覚をとっていた「破壊剣」や「焔蛇」も次の遭遇からがすぐに順応して、積極的に敵を屠っていった。それからは誰一人大きな怪我を負うこともない。かすり傷だってひとつもつくらなかった。


 地図の通りではあるがあちこちがどこかおかしい地形を歩きまわり、一同はまっすぐにダンジョンの最深部を目指す。先へ先へとまっすぐに目指していたということもあるが、高ランク冒険者の集まりゆえに敵との戦闘だけでなく、罠の類も簡単に発見して対処できる。攻略速度自体がものすごく速いのだ。意味不明で奇妙なモンスターとの戦闘も普通よりも対処に困難な罠も彼らにとってはもはや作業と化していた。このように戦闘面での対応力の早さも上位ランク冒険者の持つ実力のひとつなのだ。


 結果として、昼間にクロノス達のパーティーが攻略にかけてた四分の一にも満たない短い時間で最終階層までたどり着くことができたわけだ。


「…ほい、到着っと。」

「けっ、やってみりゃあっという間だったな。」

「そりゃそうでしょ。本来であれば我々のような高ランク冒険者がいまさら挑むような難易度のダンジョンではありませんからねここは。ウヒヒ…」


 七階層目の唯一のエリアであるダンジョン核のある小部屋は、周囲の草木の壁もどす黒く、血みたいなどろどろとした液体が足元を川のように流れている。地面の何処にも逃げ場はなく、ブーツではなくサンダルを履いていた者は液体が足に触れ気分が悪かった。冷たくてべとべとした泥と泥水の狭間のようなそれに、まるで本物の血のような感覚と血の臭いまで錯覚させられた。


「ちっ、水がサンダルの間に染みこんできやがった。水だよなコレ?なんかベタベタしてきもちわりぃ…」

「体に害はないから我慢しろ。」

「へいへい。それにしても結局最後まで来ちまったが、後はどうすりゃ終わりなんだ。…んん?そこの二人は何をしてやがる?」


 「破壊剣」の男は、クロノスとサクレナがパーティーから離れて何かを眺めていることに気付いた。


「…どう思うかしらクロノス?」

「どうもこうもないな。これはひどい。」


 クロノスとサクレナが見つめていた先にあったのは、ダンジョンの本体ともいえるダンジョン核がある台座だ。しかしその上に浮いているダンジョン核の様子もまたなんだかおかしかった。

 クロノスが昼間にアレンと見ていた時よりも回転も光の点滅する速度も異常に早いのだ。表面の文字もひっきりなしにどんどん書き換わっていく。ある個所では文字が消える前に新しい文字が浮き出て、それらが干渉しあったのかぱちんと火花を飛ばして小さな爆発を起こしていたりもした。


「あら?」

「おっと、」


 弾けた火花が話し合うクロノスとサクレナの頭上に降り注いできたので、二人は少し後ろに跳ねてでそれをよける。火花が地面の血のような液体に触れると液体が一瞬光り輝き、直後にそこから灰色の金属のような物体が弾けるように湧き出してきた。物体はごつごつとした棘が無数に生えていて、触ってみると並の金属よりも硬く、その場にいたら二人はその物体に串刺しにされていただろう。


「おいどうした!?」

「うひっ!?なんじゃこりゃ‼」

「ああ大丈夫。棘はそっちに飛んでないか?刺さってないのなら問題ない。…やはりもう限界だな。まともにダンジョン内の物を作成することもできなくなってしまっている。ここに来るまでに現れたモンスターもいずれもひどい有様だった。昼間の頃からその予兆はあったんだ。レアモンスターのゴブリンライダーが複数同時に現れたり、罠の種類や難易度もどこかおかしかったりした。」

「あら、あなた昼間にもこのダンジョンに潜っていたの?」

「聞いていなかったのか?ここの事前調査をしたのは俺だぞ。俺っていうか俺のクラン。」

「なんだ?調査ってなんの話だ?」


 クロノスとサクレナの話に「破壊剣」の男が話に食いついてきた。


「けっきょく裏攻略ってのがどういうもんなのかも俺はまだ知らないぜ。なぁ、俺達はこのダンジョンで一体何をさせられているんだ?ただおかしな敵を倒してダンジョンを歩き回るのだけってわけじゃないんだろう?秘密にされっぱなしも面白くないから教えてくれよ。ちゃんと口外できない内容なら黙っておくからさ。」


 彼の態度は最初の時よりもかなり柔らかくなっている。攻略の中で他の冒険者の実力を認めたということだろうか。それは足元の真っ赤な液体を指で触って調べていた「焔蛇」も同様だった。


「ずいぶん素直になったじゃないか。最初からそれなら…まあいいか。あのな、俺達に課せられた今回の攻略の真の目的はだな…このおかしくなってしまったダンジョンの核を破壊…すなわち、ダンジョンを破壊することなのさ。」

「なっ…壊すだって!?ダンジョン核を!?そんなことしたら…‼」


 クロノスに本当の理由を聞かされ「破壊剣」の男は驚いた。横目に聞いていた「焔蛇」の女も同じだったようで地面から飛び出た銀色のとげとげを突っつく手を止めていた。


「ダンジョン核を冒険者が破壊するのはタブーのはずだろう‼核がなくなりゃ当然ダンジョンも消滅して二度と入れなくなるからなな。やったのが知られたら同業者たちから袋叩きだ‼」

「それは真っ当に機能している、冒険者たちに試練と恵を与えてくれるありがたい核に限った話だ。今回は冒険者ギルドからの許可もある。見ての通り、このダンジョンの核は暴走してしまって正しく機能していない。こんなもの放っておけるかよ。」


 結論付けるまでもなく、このダンジョン「洞窟茂り」のダンジョン核は暴走していた。 

 ダンジョンは絶対安全…だと言われているが、それは実は正しくない。ダンジョンの核はごくごくまれに暴走することがある。それの原因がなんであるかはよくわかっていないが、とにかく一度でも暴走した核はダンジョンのモンスターや罠、地形その他などを生成する機能にまで異常をきたしてしまい、結果なにもかもがおかしくなってしまう。今回の例がまさしくその状態だ。


 クロノスが昼間にこのダンジョンへ訪れていたのは、このダンジョンの核が本当に暴走しているのかを確認するためだったのだ。いくらヒマだからって仮にも冒険者の最高ランクでS級の持ち主であるクロノスをこんな大した難易度のダンジョンの地図埋めへ追いやるはずがない。少なくともヴェラザードはそんなギルドの損になるような真似をするはずがない。

 クロノスは過去に何十、何百ものダンジョンの攻略をしてきた実績を持っている。ダンジョン核にしたって詳しい構造や刻まれた文字を読むことができずとも、過去に攻略したダンジョン核と見比べることで異常かどうかは一目見ればわかる。道中の異変を見ていればなおさらだ。

 しかし高ランク冒険者のクロノスがひとりで調べれば怪しむ者は出てくるだろう。なので、クロノスは同じクランの低ランク冒険者のお守りの名目で、昼間にダンジョンの調査をしていたというわけなのだ。ああ、ちゃんとそっちの方も真面目にやったつもりだぞ。少なくとも本人は。


「ダンジョンの核の暴走…そんなことがあるのかよ。俺達は今までダンジョンをよく知らないまま使っていたってわけか。」

「別に知らずに使っていても構わないさ。さっきも言ったがこんなの超がつくほどの滅多にないレアケースなんだから。」


 クロノスが言うようにダンジョンの暴走という現象は、ごくごくごーくのまれのまれにしかおこらないこと。世界に何百か所もあるダンジョンの、それこそほんの一握りでしかない。そんな滅多にないことのためにダンジョン全部の危険性を示して封鎖、もしくはすべてのダンジョン核の破壊をしてしまうのは、経済的に不都合…言ってしまえばもったいないのだ。そのため暴走の件は多くの冒険者にも秘密で、暴走した時の処理も秘密を守れる高ランク冒険者少数名であたる。ときには真実を隠匿することも人の世では大切なのだ。知らない幸せもある。


「ったく、守護者のいないダンジョンでよかったぜ。もしいたらどんな暴走した守護者モンスターがつくられていたことか。以前そういうダンジョンの処理をしたときはそれはえらい…わっと!?」


 ダンジョン核から雷撃が発生して、それがクロノスの足元へ飛んできた。クロノスは寸でのところで回避したが、その場所は真っ黒こげになっていた。 


「駄目だこりゃ。暴走したダンジョンは核の記述を書き換えれば直せるらしい…んだが、神々が生み出した遺産のことなど俺達が知るはずもなく…ダンジョン核の破壊一択しか解決の道はない。というわけで後はこれを破壊して、ダンジョンが崩壊する前に外へ帰ればクエストは終わりになるわけだが…そういやそっちの目的は終わっているのか?」

「もちろん。ここのも回収済みよ。」

「ウヒヒ…こりゃあ研究もはかどりますねぇ。」


 サクレナが微笑み「黒煙ローブ」の男が薄気味悪く笑う。彼女達は目が血走っている普通ではないなんでもくんを手にしていた。それはこういった暴走したダンジョンで出現する珍しい素材を集めるための専用のものだった。

 暴走したダンジョンでは生成されるモンスターや地形、動植物が本来とは違うおかしなものになる。ほとんどは使い物にならないが、中には現実世界やまともなダンジョンのどこでだって見つけられない貴重な素材にもなる。これらは今後のダンジョンの研究を進めるためにも活かされて、ギルドが冒険者をサポートする更なる役にも立つはずだ。

 まぁそんなわけで暴走したダンジョンでは核を破壊するための侵入のついでに、そういった希少な資料は集められるだけ集めてしまおうということで、こういうメンバーの中には必ず回収のための専門の冒険者が混ぜられる。今回は「黒煙ローブ」の魔術師の男とサクレナがその枠だったわけだ。彼女達は道中もいろいろなものを集めていた。


「よし、回収班の仕事は終わっているのだからこれ以上待つ必要はない。さっさと壊そうぜ。転移の魔法陣も…無事なようだな。まぁ無事じゃなかったら予定が変更されるから困るけども。」

「そうだな。帰り道も確保できているのならさっさとやるか。」

「でも核の破壊ってどうやるんだい?」

「どうするってそりゃあ…」

「俺にやらせてくれよ‼」


 ダンジョン核の破壊をどうするかというところで、「破壊剣」の男が前に出てきた。手にはここまで使ってきた大きな両手剣を持っている。最初は戸惑っていたがそれからは不気味なモンスターに一歩もひるまずに倒し続けていた頼もしい男だ。最終的な撃破数はこの男が一番多かったかもしれない。


「ダンジョンの核を破壊すると祝福の宝珠(スキルのオーブ)を割った時みたいにスキルが手に入るって聞くぜ‼核の破壊なんてしたら同業者から顰蹙(ひんしゅく)を買いそうだから今まで手が出なかったが…壊していいってんなら願ったりかなったりってヤツだ‼」「

「スキルだの才能だの祝福だのに憧れるのは冒険者のランクが上がっても変わらないか…ま、やりたければやってみればいい。」

「そうですねぇ…ウヒヒ。」

「んだな。やってみろや「破壊剣」。」

「お、いいのか?てっきりもっと揉めると思っていたけどな。じゃあ遠慮なく…‼」


 クロノスはやる気満々の「破壊剣」の男へダンジョン核の破壊という大役を譲ってやることにした。他の冒険者も同様に彼へ役目を譲り前を退く。

 ただし、彼らは皆「破壊剣」の男のやる気を買って役目を譲ったわけではなかった。その理由は今にわかる。 面倒だからか、はたまた男へわからせるためなのかはわからない。


「壊したらどんなスキルが手に入るのか…「筋力増加」のスキルとかが欲しいぜ。そうすりゃ俺の自慢の筋肉にもっと磨きがかかるってもんだ‼」


 同業者の先輩たちの真意を察することのないまま、役目を与えられた「破壊剣」は大剣を手にして意気揚々と核の前に出た。他の冒険者たちは邪魔にならないように少し距離を置く。


「少し上にあるけど、この高さなら俺の剣は十分届くぜ。へへっ、喰らいな俺の必殺技…全力全開のとっておき「爆砕剣(ばくさいけん)」をよぉっ‼」


 ここへ来るまでにとっておいた残りの力のありったけを解放して、「破壊剣」の男が力一杯に両手剣をふるった。それはダンジョン核の中央にクリティカルヒット。核と剣の間から火花が散り、かなりの衝撃波が空間に伝わった。


 これまでの中でもとびきりの一撃だ。この技に「破壊剣」の二つ名の意味を見出した。

 

 だが…


「なっ…壊れねぇ!?ああっ、しかも俺の剣にひびが…‼」


 「破壊剣」の男が自分に出せる全開の一撃…それでもダンジョン核には傷一つつかなかった。それどころかご自慢の大剣の剣身に目に見えるほどに大きなひびが入ってしまう。自慢の一撃がまったく通用しないどころか武器を損傷させてしまった「破壊剣」の男はひどく落胆していた。


「チクショウがぁ…‼」

「馬鹿ね。そんな簡単に壊せたら苦労はしないわ。それに核には修復機能が常に働いているからいいカンジに当てても一撃で破壊できなかったらすぐに元に戻るからね。なんのためにこんなに実力者を集めたと思ってるのよ。」

「…この場所まで辿り着くためだろう?暴走して難易度がおかしくなったダンジョンの一番奥まで来るにはあのモンスター共を相手にする必要がある。あいつらは上級ランクの冒険者でないとあっという間に全滅する強さだった。」

「それもあるけど…一番の理由は、このダンジョンの核を破壊するためよ。ダンジョン核ってめちゃくちゃ硬いから、その辺の低ランク冒険者の技や魔術を当ててもどうこうできる代物じゃあないわ。自分で試してみてよぉくわかったでしょう?」

「くっ…‼」


 まるで幼子を諭すように、けれど馬鹿にした感じの声色でサクレナは「破壊剣」の男に言い聞かせる。男も馬鹿にされていることはわかっており反論のひとつでもしてやりたかったが、話を聞かず突っぱしった結果がこのザマだ。ヒビの入った愛剣を見つめて何も言い返せなかった。


「そのようすだと予備の武器もなさそうだし、あなたは休んでいていいわ。残りの全員で攻撃しましょ。上位ランクの冒険者でも力を合わせて同時攻撃しないとダンジョン核は壊せないわよ。みんな構えなさい‼」


 サクレナがそう叫ぶと、待機していた全員が武器を構えて攻撃を仕掛ける準備に入る。それを確認したサクレナは自分の腰のホルダーに携えていた魔杖を取り出してかまえた。

 彼女が呪文を唱えると周囲の足元が輝き魔法陣が現れる。円陣の内にいた冒険者は、力が満ちるのを感じた。


「力がみなぎる…お前、付与術士(エンチャンター)だったのか?魔術で戦っていたからてっきり魔術師(ソーサラー)かと…」

「そうよ。私は運び屋だから脚と体力のブーストをするのにね。魔術師(ソーサラー)だとブーストする魔術は使えないからダメなのよね。さぁ、全員準備は良いかしら?残りの体力や魔力なんか気にせずに自慢の一撃を間髪入れずにぶつけていきなさい。そうすれば核は修復機能を上回るダメージを受けて最後には壊れるから。」

「おうよ‼」

「よしきた‼」


 サクレナはポケットから(まじな)いの札を取り出して自分の魔杖に貼り、付与魔術の効力を更に高める。そうすることで加護を受けていた冒険者達もさらにパワーアップした。


「くそ、俺だってできる…‼「札斬り」の旦那‼札を貸してくれ‼」

「仕方ねぇ…そら使いなっ。」


 そうしている間に「破壊剣」の男は、両手剣のひびが入った場所へ「札斬り」のキリックからもらった修復の機能のある札を張り付けて補強して、もう一度使えるように応急の措置をしていた。仲間外れにされたことがよほど悔しかったようだ。


「技は何を使ったらいい!?」

「お任せするわ。威力を重視するか属性効果を重視するかお好みでどうぞ。そんくらい場数を踏んだ上位ランカーならできるでしょう!?そこまで面倒見る気はないわ。」


 質問してきた誰かに乱暴に答えを返してサクレナは付与魔術を使うのに集中する。そしてその効力が最頂点に達したことを察すると「いまよっ‼」と大声で全員へ術技を放つように命じたのだ。


「…いけっ‼」

「今度こそ…おらっ、爆砕剣‼」

「氷柱よ権限せよ…フリーズニードル‼」

「行くぜっ…翔竜破‼」

「ウヒヒ…轟炎の聖霊よ…マスターブレイズ‼」


 岩も割る剣の打撃、鋭くとがった氷柱の叩きこみ、地面を削る程の勢いの衝撃波、轟炎の旋風。サクレナの付与魔術によって普段よりも強化された高ランク冒険者の術技が次々とダンジョン核を襲う。


「いいぞっ、ひびが入った‼」

「続けていくぜ…‼」

「任せなっ‼」


 残りの攻撃が後に続き、ダンジョン核へぶつけられていく。最初に放った何人かはさらに追加で攻撃を放っていた。

 強大な与えられ、ダンジョン核が赤く光っている。そしてついにはひびが入り始めた。核は点滅して修復を試みていたが、回復は間に合わない状態だ。ここへとどめの一撃を入れればあとはお終いだろう。


「俺たちゃ今の一撃でしばらく動けない…あとは…‼」

「よし、ここまでは予定通りね。あとはあなたよ。」

「わかっている。」


 トリを任されたのはずっと待機していたクロノスだ。彼は持ってきていた珍しく新品のそこそこ質のいい剣を鞘から抜いて、ゆっくりと力を籠めた。


「さぁ、今回はちょっと奮発していいのを買ってきたんだぜ。それじゃあ今夜の相棒くん…最高の輝きを見せてくれ。」


 目を見開き、ダンジョン核まで走っていき、軽く跳躍をして、光を放つダンジョン核の間近に迫る。そして軽く剣を振るって当てた。


「――――‼」


 ダンジョン核が今までで一番強く光り輝く、その瞬間にクロノスの剣は刃から柄に至るまで木っ端微塵にはじけ飛んで失われた。


「駄目か…!?」

「いや、終わったよ。」


 誰かが呟いた不意の一言にクロノスがそう返す。次の瞬間にダンジョン核が光に包まれた。


「…(ドラゴン)…?」


 誰かがそう言った。その言葉の通り、光の中にまるでドラゴンの頭が現れ、それがダンジョン核を喰ったように見えたのだ。

 だがそれも一瞬。光と共に衝撃波が生まれて、その勢いに冒険者達は後ろの壁まで吹き飛ばされた。



―――



「う…‼」

「やったか…?」


 何分経っただろうか。しばらくして光がようやく収まると、そこにダンジョン核の姿はなくなっていた。辺りにはキラキラと光る結晶のようなものが散らばっている。どうやら作戦は成功してダンジョン核の破壊をすることができたようだ。


「…壊れた‼」

「よしっ、それならすぐに脱出するんだ‼」


 ダンジョンが揺れだした。空間もどことなく歪んでいる。核を失ったことでダンジョンそのものが崩壊していくのだ。


「急げ‼崩壊に巻き込まれたら一緒に消滅してしまうぞ‼」

「早くあそこにある帰還の魔法陣へ飛び込むんだ‼あれなら入り口までひとっとびだ‼」


 クロノスが指をさした先にあったのは、昼間の攻略でクロノス達が設置しておいた帰還の魔法陣だ。これもダンジョン核を破壊後にダンジョンが消滅するよりも前にさっさと現実へ帰るために用意しておいたのだ。一方通行の安物だったのも使い捨てをするためだった。


 全員が一目散に魔法陣を目指し、そこへたどり着いた者から次々と魔法陣へ入り姿を消していく。一層目へ瞬間転移しているのだろう。


「全員入ったか?」

「ええ。あなたと私で最後。おさきにっ‼」


 クロノスにそう答えたサクレナも魔法陣に乗ってさっさと姿を消した。最後に残ったクロノスもすぐに魔法陣にとび乗る。そのすぐ後で、魔法陣のある床以外が崩れ、現れた奈落の底へと消えていった。


 魔法陣が輝き、クロノスの姿が透けていく。景色が真っ白になる直前でクロノスは振り返った。そこにあったのは破壊されて粉々になって地面に散らばるダンジョン核の結晶だ。


「…お役目ご苦労さん。長らくのあいだ、冒険者にスリルとロマンを与えてくれてありがとうな。」


 そう呟いてクロノスの姿が消える。直後に部屋はまばゆい光に包まれた――――



――――

 

 転移の魔法陣を使ってダンジョンの入り口近くまで戻ってきた冒険者たちは、そのままわき目も降らずに空間の裂け目まで走り込む。戻ってきたとはいえまだダンジョンの中なので、このままだとダンジョンの消滅に巻き込まれてしまうのだ。

 

 空間の裂け目から現実世界に戻ってきた冒険者はお互いがいるかを思い出したように確認したが、特に誰も欠けていなかった。

 そうしてダンジョンから全員が空間の裂け目を見守っていると、裂け目はぐにゃりと曲がり、周囲の空間を巻き込んでいく。最後に一瞬光り、その眩しさで全員が目を隠す。


 光が消えた後で目を見開くと、空間の裂け目はすっかりなくなっていた。それを目にしたことで冒険者達はようやくダンジョンが消滅したことを受け入れたのだ。


「おかえりなさいませ。」


 洞窟の外に出るとずっと待機していたヴェラザードが声をかけて全員をねぎらってきた。相変わらず淡々とした口調で、本当にねぎらっているのかもどうかも怪しいものだ。


「ご苦労様でした。これにて裏クエスト「ダンジョン洞窟茂りの消滅」は完了です。ダンジョン内で回収した品をなんでもくんごとこちらの職員へ渡してください。…ちなみにがめてもどこへも売れませんよ。いろいろと問題のある品でもありますのでいつまでも持っていないことをおすすめします。」

「そんなことしないわよ。運び屋の名が廃るわ。」

「言われたとおり処分の方法もわかりませんものねぇ…ウヒヒ。」


 ヴェラザードと「黒煙ローブ」の男がヴェラザードと一緒にいた女性職員へ血走った眼をした変ななんでもくんを渡す。素直な対応で品を提出を渋る者はいなかった。こんな手元に置いておいてどうなるかわかったものではない武器なものは誰もいらないのだろう。


「おい姉ちゃん。このダンジョンは人がそこそこ来るところだったはずだ。このままだと朝にでも誰か来てダンジョンが消滅したことが知られてしまうぞ。それはどうするつもりなんだ?」

「はい、「破壊剣」のプレゾー様。洞窟茂りは調査のため侵入禁止ということにしておいて、ほとぼりが冷めたころに消滅したという発表をしておきます。おそらく、スキル欲しさに誰かがダンジョン核を破壊したから消滅したということにでもなるでしょう。」


 ダンジョンが消滅するのは珍しいことではない。ダンジョン核を破壊することで強力なスキルが得られるという噂は業界で絶えない。そのスキル欲しさに同業者からたとえ顰蹙(ひんしゅく)を買うことになろうと核を破壊する者も少数ながらいるからだ。それに昼間の攻略中にクロノスがアレンへ説明したように地元の住人が発見されて間もないうちに侵入してそこまで丈夫でない核を破壊するケースもある。だから今回の発表も最初は冒険者の間で騒がれるだろうが、すぐに掻き消えて語られなくなるだろう。「洞窟茂り?ああ、そんなダンジョンも昔あったな。そんなことより聞いてくれよ…」みたいな具合で人々の記憶に残りつつも希薄な存在になる。


「そうなのか…そういやダンジョン核を破壊したけど、けっきょく何かスキルは得られたんだろうか?体には何も変化がなさそうだけど…」

「まぁスキル云々はあくまでウワサですからね。本当かどうかは誰にもわかりません。…あとのことについてですが、報酬の支払いは各自事前に申請された通りの方法で後日お支払いさせていただきます。細かい報告も…明日でいいでしょう。もう遅いですしね。ああ、それと今日あったことのすべてはどうかご内密に。他言無用でお願いします。」

「それはもちろんだ。俺らだって世話になっている冒険者ギルドに仇なすようなマネはしたくないからな。「破壊剣」と「焔蛇」も今日のことは胸にしまって墓場まで持っていけよ。」

「わーってるよ。守秘義務は守ってやるぜ。」

「アタイも他言はしないよ。」


 「札斬り」の男が忠告すると「破壊剣」も「焔蛇」も素直に頷いていた。彼らは今日の経験を自分だけの胸に秘め、より実力のある冒険者へと育っていくことだろう。他の冒険者達は皆そう思い、彼らのこれからに期待した。


「それではクエストはこれにて終了です。後は各自ご自由にお帰りください。」

「ご自由にって…森の中に置き去りかい?こちとら疲れてるんだから帰りくらい馬車とかで送ってくれてもいいのにねぇ。」

「申し訳ございません。秘密のクエストなものですから、関わる人間も少数で当たらないといけないのです。とても馬車と御者を用意する余裕は…」

「わかってるわかってる。たんに言ってみただけだよ。安心しなって。帰りの体力くらい残してあるさね。」

「あーあ、それじゃチャルジレンまでひとっ走りすっか~‼」

 

 帰りの方向は皆一緒だ。最初にクロノスが見立てた通り、彼らは冒険者の街チャルジレンからの出向だったらしい。


「それではヴェラザード先輩。失礼いたします。」

「またねクロノス。縁があればまた組みましょう。」


 その中にはサクレナとヴェラザードとともにいた女性職員もいた。彼女達もクロノスとヴェラザードへそれぞれ挨拶して冒険者たちの後を追っていなくなった。

 


 あとに残されたのはチャルジレンではなくミツユースの方から来ていた二人。クロノスとヴェラザードだけだ。


「うし、俺らも帰るか。」

「そうですね。」


 こちらも別れて帰る理由もないので、二人で並んで森の中を歩く。木の根っこやぬかるんだ土が足を邪魔するが、二人は平然と歩いていく。どういうからくりか靴も泥でまったく汚れることはない。


 あっさり森を抜けたあとは街まで繋がる街道を黙々と歩いていく。ここまで来るとモンスターも獣の危険もないので、会話をする余裕ができる。先に口を開いたのはヴェラザードの方だった。


「それにしても思ったよりも早く終わってよかったですよ。どうにか帰って朝まで眠る時間を確保できそうです。」

「朝の出勤時間を律義に守らなくても、少しくらい寝坊すればいいじゃないか。夜勤をしたんだからそのくらいは許されるだろう?」

「寝ぼすけでぐーたらな冒険者と一緒にしないでください。貴方たちがいい加減でわからんちーなぶん、私たち冒険者ギルドの職員がしっかりしないとなのです。一分一秒の遅刻も許されません。」

「相変わらず厳しい職場環境でらっしゃる。…しかしさっきのダンジョンのことだったんだが、暴走の確認をする前だったとはいえ、どうせ消滅させる予定のダンジョンの地図の空白の情報を書いて埋める必要があったのか?」


 クロノスが昼間にアレン達とあのダンジョンに挑戦した時には、地図の情報がない場所を探検して埋めていた。しかしダンジョンが消滅してしまった以上、あの地図はもう何の役にも立たないだろう。ダンジョンの調査そのものが後の裏攻略を隠すためのフェイクだったとはいえ、労力が勿体なかったような気がするクロノスだった。


「消滅してしまえば二度と埋められないじゃないですか。ギルドはそういう空白は嫌いなんですよ。こういうダンジョンがあった…それが何年先、何十年先までギルドの資料として残るんですよ。そこに真っ白な部分があったら面白くないでしょう?」

「そんなもんかね。」

「そんなもんです。もう終わったことなので割り切ってください。」

「まぁ俺らは報酬さえもらえれば情報の行方などどうでもいいさ。…出るんだよな報酬?」

「…ああ早く帰らないと。日が昇って一番雄鶏が鳴き出してしまいますよ。」

「出るんだよな報酬。」

「…」

「おいなんか言えよヴェラ‼」 


 今度こそ本当の本当にダンジョン攻略を終えたクロノスはヴェラザードとミツユースへ帰っていく。夜の大地を照らすお月様はまだまだ空の真上にあった。




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