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猫より役立て‼ユニオンブレイブ  作者: がおたん兄丸
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第21話:冒険者はとりあえずビールのノリでとりあえずダンジョンを探検する12



「ギョゲゲッゲエエエエエエ‼」


 「破壊剣」の男の渾身の一撃を受けた不気味な敵はどこにあるのかもわからない口で叫び声をあげ、剣を受けた脳天(頭がどこかわからないがとりあえず頭らしき箇所)から真っ二つに分かれた。大剣は地面すれすれまで敵の身を切り裂き、皮一枚のところで止まり、ほぼ分断されてしまう。


「へっ、どうよ‼これが二つ名持ちの俺様の力‼そんじょそこらの怪力自慢とは比べ物にならない…」

「ギャム、ギャミミ…‼」

「なっ…‼」


 しかし「破壊剣」の鋭い一撃を受けて真っ二つになってもなお、不気味なそれは生きていた。頭から足元まで皮一枚に迫るまで割断されているというのに、とても平然とした態度で、内から姿を見せた赤黒い肉がぶよぶよとしているのはまるで今の攻撃をあざ笑っているかのようだ。


「くそっ、体がメチャクチャな形してるから急所を外したか?もう一度…‼おらっ、おらっ、おらぁっ‼」

「ゲゲゲ…‼」


 「破壊剣」の男は大剣を振りかぶり、その場で無抵抗の気味悪いモンスターを何度も斬り叩く。しかし何度切断してもそいつは大声をあげるだけで、動きを止めることはない。


「ありえねぇ…鋼鉄製の剣身に魔力のコーティングを施してある俺の両手剣だぞ…‼なんでくたばんねぇんだよ。ふざけんなよ、だれだと思っていやがる…俺は「破壊剣」の…‼」

「ポギャア、ムデロデロ…‼」


 もう一撃で倒す。頭に血がのぼった「破壊剣」の男が大剣を振りかぶろうとすると、相手はいい加減にしろと言わんばかりに全身から触手を飛ばして、「破壊剣」に襲い掛かる。彼は攻撃を止めて慌てて後ろへ退いた。


「クソがぁ…‼」

「邪魔だよ「破壊剣」のでくの坊‼テメェじゃダメなんだよ‼」

「なんだと!?女のクセに生意気だぞ「焔蛇(えんだ)」ぁ‼」

「いいから見てな。きっとコイツは物理攻撃が効き辛いんだ‼だからアタシの技で…」


 「破壊剣」の男を下げて今度は「焔蛇」の女が敵へ近づいていく。敵はターゲットを彼女へ変更して、すべての触手を次々と差し向けるが、「焔蛇」は軽い身のこなしで次々と避けていく。すぐに敵の元まで辿り着いて、そして通り抜けた。


炎旋斬(えんせんざん)」‼」


 もちろんただで通りすぎたわけではない。通行料代わりに炎を纏わせた蛇行剣(だこうけん)ですれ違いざまに敵を斬り裂りさいていたのだ。

 鮮やかな斬撃は謎の不気味なモンスターの腹部?らしき場所を貫き、傷口からは炎が噴き出す。そして小さな爆発が巻き起こって肉片をいくつも周囲へ飛び散らしていた。


「どうだい?ただの斬撃じゃなくて炎の魔術を乗せた属性攻撃なら…‼」

「ムギョゴギョギョオ…‼」

「なっ、これも効いてないだってぇ…!?腹を抉ったってのに…‼」


 しかしそれも不気味なモンスターにはまったく効いていないようだった。怯みこそすれ、決して倒れることはない。


 唖然とした二人の攻撃の手が止まると、そいつの切られた箇所の奥底からはどす黒いタールのような体液が染み出てきて傷口を塞ぎ、次の瞬間には「破壊剣」と「焔蛇(えんだ)」によって与えられた傷はすっかり消え、何事もなかったかのようになっていた。もっとも、元々がいびつで不規則な形をしているので、それを普通の状態と言っていいものかはかなり怪しいが。


「ギョギョギョギョ‼」


 肉体の再生を終えた不気味な敵は、ゆっくり、しかし確実に立ち尽くす「破壊剣」へと歩を進める「焔蛇(えんだ)」よりも彼の方が近い場所へいたからか、そちらの方が弱いからと判断したのか。はたまた別の理由か…もしかしたら理由なんてないのかもしれない。とにかく不気味な敵は「破壊剣」の男へと距離を詰めていく。


「デウムデムポギョポギョ…‼」

「くっ…‼」


 不気味な敵から「破壊剣」が距離をとろうと思った時にはもう遅かった。そいつはまた触手を伸ばしてきたのだ。しかも今度は、より早く、より鋭く。最初よりも早い行動に「破壊剣」の男は間に合わず、腕を触手に捕らえられてしまった。


「くそっ、俺の腕に触手を…‼ぐああああ‼」


 「破壊剣」の男は灼熱の痛みに襲われた。それはまるで熱々に熱した鉄板を肌に押し付けられているかのような熱さだった。

 触手が触れている肌からは白い煙が昇る…おそらく触手から染み出るどす黒い粘液によって彼の肌が溶かされているのだ。彼は慌てて捕まっていないもう片方の腕でかきむしるように触手を引き放そうとするが、しっかりと巻き付いた触手はまったく動く気配がない。それどころかそちらの指にも粘液がくっつき

捕まっている方と同様に灼熱の激痛が襲ってくる。


「とれねぇ…アチチチ‼やめろ‼あっつ…‼」

「やれやれ、仕方ありませんねぇ…ファイアボール‼」


 触手に苦しむ「破壊剣」に、不気味な敵はゆっくりと近づいていく。しかしそこに「黒煙ローブ」…魔術師の男が飛び出して、気味の悪いモンスターへ魔術で生み出した炎の玉を食らわせた。

 気味の悪いモンスターはその衝撃で後ろへ吹っ飛きとぶ。「破壊剣」に繋がっていた触手は少し伸びて持ち主の後を追おうとするが限界が来て千切れてしまった。


「ありゃ、「破壊剣」さんの腕に触手が残ってしまいましたね。ウヒヒ…」

「…俺がやる。「シェーヴ・ナイフ」‼」


 次に「札斬り」の男が「破壊剣」元へ駆け付け、ナイフを使って彼の腕に巻き付く触手を削ぐように斬り落としていく。腕は切らないように慎重に、それでいて素早い対応だ。そんなわけで「破壊剣」の腕に巻き付いていた触手は、粘液を残してあっという間に排除された。そんな彼に「札斬り」は回復のポーションを投げてよこした。


「…ふん。触手に触れられたトコは水で洗ってポーションをぶっかけておきな。」

「た、助かったぜ…「黒煙ローブ」‼それに「札斬り」の旦那も‼」

「今回は()()()がいてよかったですねぇ…ウヒヒ。」

「ああ、まったくだ…しかしアレはいったいなんなんだ?斬っても斬っても再生しやがるしダメージになりやしないぜ。」

「ウヒヒ…力任せにやってもアレは倒せませんよ。そう、「焔蛇」のお嬢さん。炎魔術の攻撃という着眼点は良かった。確かにあれに炎は効きます。…がアナタは当て所が悪い。いま私が火球をぶつけたところ…そこが弱点です。そこへ攻撃してください。確実な一撃をお願いしますよ。でないとあれは倒せません。ヒヒ…」

「お、おう!!やってみる。」


 「黒煙ローブ」にアドバイスを受けた「焔蛇(えんだ)」の女は、立ち上がろうとしていた気味の悪いモンスターが起き上がる前に素早く接近して、「黒煙ローブ」が火炎球を当てた場所の火傷痕を狙い、炎を纏わせた蛇行剣(だこうけん)で再び強く斬った。


「プギュモオオオ‼」

「(…今度は効いてるっ‼)」


 先ほどは何度斬りつけてもうんともすんとも反応しなかった敵だが、「黒煙ローブ」のアドバイスの通りの場所を狙って斬りつけると、そいつはわかりやすく反応を示した。相変わらず鳴き声を上げただけのようだが、その音色があからさまに違う。「焔蛇(えんだ)」の女はそれを見逃さなかった。


「もう一度…喰らいなっ‼」

「…‼」


 そして同じ場所に蛇行剣(だこうけん)の切っ先を突き刺す。それが致命的となったのか謎の肉塊モンスターは声にならない声をあげたあとに、その場に倒れてすぐに消えてなくなった。後にはどす黒い魔貨が残されていた。


「な、なんだ…倒せば普通のモンスターと同じじゃねぇか。脅かしやがって…‼倒しちまえばただのダンジョンモンスターだ。魔貨だってきちんと落とす。うへ、変な色の魔貨だぜ…黒いオーラまで放っているように見えて不気味だぜ。ギルドで買い取ってくれるんだろうな…?」

「何言ってんだい。倒したのはアタイだよ。魔貨もアタイのもんさね。…でもまぁ、そいつを拾うのはなんか遠慮しておきたいね…」

「いらねぇのか?なら俺が拾っちまうぜ。」


 不気味なモンスターが残した魔貨は拾うのを躊躇したくなる禍々しさを秘めている。「焔蛇(えんだ)」の女が様子をうかがっていると、しびれを切らしたのか「破壊剣」の男が代わりに足元に転がった魔貨を拾おうとした。


「ウヒヒ…あ。それまだ拾っては…‼」

「ん?なんだ…?」


「破壊剣」が魔貨を拾う直前でそれに気づいた「黒煙ローブ」が彼を止めようとしたが一歩遅かったようだ。魔貨は既に彼の手の内に収まっていたのだ。


 しゅるしゅるしゅるしゅる‼


 するとどうだろうか。掴まれた真っ黒い魔貨からどす黒い触手がいくつも生えてきて、拾った「破壊剣」の腕に纏わりつきだしたのだ。

 「早く捨ててっ‼」と「黒煙ローブ」が慌てて叫んだし「破壊剣」の男はそれよりも早く反射的に投げ捨てようとしたが、そのときには魔貨から伸びた触手は彼の腕をすっかり包んでしまった。


「ぐあっ!?また触手かよ…なんだこれ…クソ、とれねぇ‼コイツ、全身に…‼」


 「破壊剣」の男は剣を振って触手を斬ろうとするが、両手でやっと持てる大剣を片手で操作するのは不可能に近かった。さらに触手はぶにょぶにょとした弾力を持っていてうまく切れない。

 しかも剣を持っていた方の手も触手に巻つかれてはじめ剣を地面に落としてしまう。そうしているうちに手から腕。腕から肩。肩から上半身。そうして頭と下半身…あっという間に「破壊剣」の男は全身を触手に包みこまれてしまったのだ。

 

「やば…ファイアボール‼」


 「黒煙ローブ」が魔術の炎で黒い塊となった「破壊剣」の男を攻撃する。もちろん表面にある触手のみを狙ったつもりだ。炎で触手はみるみる燃えて消えていく。

 やがてそこにはばたりと横倒しになっていた「破壊剣」の男だけが残された。しかし彼はぴくりとも動かない。

 

「えっ、死んだのかい?まさか…ね。」


 「焔蛇(えんだ)」の女が近づいて恐る恐る口元を確認すると息もしていなかった。


「ウヒヒッ、脈もないぜ。呪い殺されたなこれは。…やべぇ。死んだ人間にダンジョンポーションは効かないよ。」

「…どうやら俺の出番のようだ。どけ、俺が蘇生する。」


 今まで戦いに介入しなかったメンバーである「無礼拳」の男が割って入ってきた。「札斬り」へちらりと目くばせすると、彼はわかっていたかのように札を一枚取り出すと、呪文を唱えてからそれを「破壊剣」の男の胴体へ張り付けた。

 すると、札が勝手に燃え出して「破壊剣」の男がぼんやりと光り輝く。札が燃え尽きるころにはその光も消えてなくなっていた。これは呪いの札を使った「解呪(アンチディスペル)」の魔術だ。光が消えたということは呪いも消えたという証だ。

 しかし、呪いが消えてもなお、「破壊剣」の男は目を覚まさず、寝息のひとつもたてる様子はない。


「やっぱこれだけじゃあだめだ。次は…誰かそいつを起こして支えておけ。」

「あ、ああ…‼…クソ、アタイ一人じゃこのデカブツを支えらんないよ‼」

「手伝いましょう…ウヒヒ。うわ、重い…‼」 


 言われた通りに「焔蛇」の女と「黒煙ローブ」の男が「破壊剣」を起こして後ろから支える。女の「焔蛇」と細身の「黒煙ローブ」では二人掛かりでも、大柄かつ意識の無い「破壊剣」を支えるのには苦労しているようだったが、それでもなんとか安定させることができた。

 そこに「しっかし固定しておけよ‼」と「無礼拳」が忠告してから、彼は地面を蹴って遠心力が乗った渾身の回し蹴りを「破壊剣」の胸元に目掛けて叩きこんだ‼


活心打(かっしんだ)‼」

「くっ…‼」「ウヒヒ…‼」 


 「破壊剣」の胸に蹴りがぶつかった衝撃で彼を支える「焔蛇」と「黒煙ローブ」はかなり後ろへのけ反ったが、倒れることなくなんとか最後まで支えられた。


「…ぐはっ‼」


 直後に「破壊剣」が息を吹き返した。衝撃が強かったのか吐息には血が混じっていたが、そこまで痛そうにはしていなかった。もしかしたら呼吸が止まったときに肺に溜まっていたよくない血だったのかもしれない。それを計算ずくの「無礼拳」の攻撃だったのかも。


「ぜぇ…はぁ…‼俺、意識を失っていたのか…い、いった何が…!?」

「ウヒヒ、あなた、いま一瞬死んでいたんですよ「破壊剣」。魔貨に宿っていた「呪殺の呪い」によってね…もしもこの「無礼拳」が蘇生技である「活心打(かっしんだ)」を使ってくれなければ、ここであなたの冒険は終わっていましたよ…ウヒヒ。」

「なんだとぉ…‼あ、あれはいったいなんなんだ!?」

「なにって、いま「黒煙ローブ」が言った通り単なる呪いだよ。「即死の呪い」さ。」


 「札斬り」はあっさりと答えたが、その答えに「破壊剣」は驚きを隠せなかった。


 ダンジョンで手に入れた装備品や装飾品には、まれに呪いが付与されていて、うっかり身に着けたら呪われたなんてことはよくある話だ。しかしダンジョンモンスターが落とした魔貨にまで呪いがついているなんて話は聞いたことがない。それも「即死の呪い」といえばその名の通り、呪われた瞬間に即死するとても恐ろしい、数ある呪いの中でも屈指の危険度を誇る呪いだ。


「たしかにこのダンジョンでも呪いの装備品が出たっつう話はいくらでもある。でもせいぜい「体臭が臭くなる」とか「腹が減りやすい」とか、工夫次第で解呪しなくてもどうにかなるレベルだ。即死の呪いなんて高難易度ダンジョンのお宝でもそうそうついてない呪いが出るなんて聞いたことがないぞ‼そもそも…‼」

「なんで魔貨が呪いを持っているかだろう?確かに、この呪いは本来魔貨にくっついていていいもんじゃない。ダンジョンの罠や宝の装備品についていた呪いが、間違って魔貨にくっついていたんだろうが。」

「間違って…!?んだよ意味わかんねぇ‼ありえねぇ…そんなことあるわけが…‼」

「それがありえるからこその裏攻略なんだが…あーやれやれ。これだから素人は…」


 「破壊剣」が振り向くとそこにはクロノスがいた。彼は首を振りながら肩をすくめ、あからさまに呆れた態度を示していた。


「なんだとぉ…‼そういうテメェはどこに行ってやがったんだ?まさかビビって後ろで隠れていたとかじゃねぇだろうな?」

「いちいち面倒に突っかかってくるな君は。別にそういうことにしておいてくれて構わないが…」


 先の戦闘にも解呪の立ち合いにもいなかったクロノスはどこへ行っていたのやら。「破壊剣」の男は苛立ちを覚え文句のひとつでも言おうとしたが、すぐに開いた口を閉じてしまった。


「ひ、ひぃっ!?」

「どうした?俺に文句があるんじゃなかったのかい?」

「だだだだだって…うううう、うしろっ‼」


 なぜなら、クロノスの背後には先ほど「破壊剣」たちが戦っていた不気味な敵と同じようなやつらが、何匹も、何十匹もそこにいたからだ。

 そこだけではない。よくよく周囲を見回してみれば自分の後ろにも「焔蛇(えんだ)」の女の後ろにも、「黒煙ローブ」や「札斬り」。そして「無礼拳」の背後にも、やはり同じ連中がいたのだ。「破壊剣」は驚き後ずさる。


 一匹だけでも苦労したのに…そんな奴らにすっかり囲まれて逃げ道すら失ってしまっている。一度心臓を止められている「破壊剣」は身震いしていた。それは高ランク冒険者になってから久しく忘れていた生と死の狭間の「恐怖」の感情だったことを思い出した。

 

 それは他の冒険者たちも同じだったようで、それなりに余裕だった裏攻略の経験者達の顔色にも、焦りの色が少し見えた。


「チッ、いつの間にか囲まれてやがったか‼」

「一匹一匹が即死クラス…それがこんなにたくさん…‼」

「く、くそう…‼」

「ウヒヒ…この数は流石にやべーですね…‼」

「…上等だ。とにかく突破するぞ‼全員協力しろ‼」

「あ、あれ?ちょっと待ちな‼敵の様子がおかしいよ…!?」


 慌てていた冒険者達だったが「焔蛇(えんだ)」の女が気づいた。気持ち悪いモンスターたちはこちらを睨んでくるだけでその場を一歩も動こうとしないのだ。触手を飛ばしてくる様子もない彼女に言われ他の者達もすぐに気づいた。


「どういうことだ…なぜ攻撃してこない?」

「おい、敵さんの足元を見てみろよ。なんか刺さってるぞ。」

「なんだありゃ?アレは…ナイフか?」

 

 よく見れば、モンスターたちの赤い月明かりによってできた真っ赤な影…それを映す地面に、小さなナイフが刺さっていた。ナイフはそれぞれ何十匹ものモンスターの影を一本一本貫いている。モンスターが動けないこととの関連性は見いだせないが明らかにあれの仕業だろう。少なくとも、冒険者として場数を踏んできた彼らはそれが答えだと即座に感じ取った。


「なんだこのナイフ?これが奴らを足止めしているのか?」

「これは…「影縫い」だな。ナイフ自体に特殊な機能があるわけじゃない。これは対象の影を射抜くことで足止めをする技だ。扱えるのは腕利きの暗殺者(アサシン)でもそうはいないぞ。」

「しかもこれだけの量をいっぺんにとなると…いったい誰がやったんだ?」


 影縫いは暗殺者(アサシン)の中でも一部の熟練者にしか扱えない高度な技だ。さらに言えば、気味の悪いモンスターは未だに拘束されたまま…ここまで長時間拘束をし続けられるような影縫いは一握りの暗殺者(アサシン)しかいない。これだけの技術があるならそれを売りに二つ名がつくことだろう。しかし彼らはそんな技術を持つ者の話を聞いたことがない。


「もしかして…お前がやったのか「終止符打ち」?」

「俺がやらなかったのならだれがやるんだ?サクレナか?」

「私は影縫いなんて使えないわよ。私はあいつらの影のところまで()()()だけね。」


 クロノスの隣にはいつの間にかサクレナがいた。彼女の手には地面に刺さっているナイフと同じものが三本ほどあり、彼女は「はいこれ。余りね。」と言ってそれをクロノスへ渡していた。


「あの数を…だと…!?じゃあまさかお前は本当に…‼」

「君たちがたかだか一匹とじゃれ合っている間に俺はしっかり働いているんだよ。ま、さすがにこいつらに爪楊枝は使っていられないけどな。」


 クロノスがサクレナに手渡されたナイフの柄を見つめた。そこには四角い緑色の小ぶりな石がはめ込まれており、おそらくにそれは特殊な効果を武器に付与するもので、ナイフ自体かなりの高性能な品だったのだろう。とうぜんそれなりに値は張るはずだ。


「それじゃ後はよろしく。足止めはしたぞ。それなりに費用をかけて。まさか後処理まで俺一人にやらせる気か?」

「だ、だけどあいつの触手には呪殺の力が…」

「それは魔貨の方だろう?」

「クロノス。「破壊剣」クンは初心者よ。少しお手本を見せてあげてもいいんじゃない。でないとそれこそイジワルというものよ?」


 サクレナに発破をかけられてクロノスはやれやれとため息をひとつ。そして彼女に言われるがままに返還されたナイフを持って不気味な敵の一匹に近づいた。


「はいちゅーもく。この謎の敵…とりあえず仮称として「ナゾ―くん」とする。こいつは今、俺の影縫いによってまったく動けない状態だ。触手も出せないので安心して欲しい。そりゃあ何日も放っておいたら拘束は外れるだろうが…」

「早くやんなさいよ。」

「せっかちだなサクレナさんは。…そら。」


 クロノスがナイフをナゾ―くんの目の前で一振りした。すると、ナゾ―くんは真横に真っ二つになって消滅してしまった。クロノスが一撃で倒したのだろう。その証拠に足元には真っ黒な魔貨が転がっていた。

 それをクロノスは躊躇なく拾い上げる。「破壊剣」の男がいつ飛び出て来るかもわからない触手にひやひやしていたが、ついぞ触手は伸びてこなかった。


「なんだと…?おい、どうやって呪殺を…‼」

「あ?そんなもん俺に効くかっての。」

「…ああ、「呪殺死防止」のスキルのある装備をつけているのか。」

「そんなもん誰が持ってるもんか「札斬り」。あのな、こういう連中にはコツがあるんだ。そらよっと。」


 クロノスはさらに別のナゾ―くんを靴の裏で蹴る。そいつは肉体を一瞬縮こませたかと思ったら、次の間際には破裂して木っぱ微塵に飛び散った。目の前のクロノスには体液の一滴もかからない。当たる間際に死亡と判定されて消滅したからだ。

 また残された黒い魔貨をクロノスは足で蹴りあげてキャッチした。今度もなにも起こらない。


「まただ…こいつなにやったんだ…!?」

「知りたいか?心配しなくてもちゃんと教えるさ。お互い初対面も多くてやりづらいだろうが、ここはきちんと協力するべきだろうしな。なぁに、全員それなりの実績(キャリア)があるんだ。やれるだろ?いや、やってみせてくれよ。でないと賜った高ランクの称号と二つ名がお笑いだぜ。」

「く…」

「わかったか?わかりゃいい。さ、まずはこいつら倒そうか。でないと道の邪魔になって進むのも戻るのもできやしない。」


 クロノスに促され、冒険者たちは武器を手に取り抵抗できないという意味で無抵抗な謎の敵へ向かっていった。




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