表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫より役立て‼ユニオンブレイブ  作者: がおたん兄丸
22/35

第20話:冒険者はとりあえずビールのノリでとりあえずダンジョンを探検する11



 ダンジョンの内部では、気候の変動や昼夜の入れ替わりが起こることはまずない。そういった変化があるようなダンジョンもあるにはあるがその数は少なく珍しい。このダンジョン洞窟茂りもまた、日中の晴れた気持ちいい森の中のような環境が変わらず存在することが特徴的なダンジョンだった。


 しかし洞窟の中にある空間の裂け目からダンジョンの中へ入った冒険者たちがまず目にしたのは、辺り一面真っ暗闇の森の中だった。空には真っ赤な三日月が昇っていて、それも真ん中くらいが横に裂け、なんだか口に見えてそれがケタケタと不気味に笑っているようだ。


「…すげぇな。」


 周囲を見渡して「破壊剣」の二つ名を持つ大男プレゾーは、不意にそう呟いた。最初は頭の中まで筋肉にまみれた男にしか思えなかったが、仮にも実力あるB級冒険者の一人。観察力はそれなりにあったようだ。目の色がダンジョンに入る前のものとは打って変わり、プロとして油断も隙もないのものになっているの。意識の切り替えは冒険者にとって大事な素質だ。横でそれを目にしていたクロノスは彼への評価を頭の中で書き換えた。


「やっぱりすげぇな。」

「さっきからうるさいな。いったい何がすごいってんだ「破壊剣」くん?」

「だってよぉ、洞窟茂りの中なんだよなここ?このダンジョンには仲間と何度か来たことあるが…俺が知っているのは天気のいいごく普通の森の中の光景だったはずだぜ。完全に別物になってるじゃねぇか。空は真っ暗だわ変な赤い月が出てるわで薄気味がわりぃったらありゃしねぇ。それに…」


 クロノスにそう答えていた「破壊剣」の男は周囲を見渡す。洞窟茂りは森の中のダンジョンだ。足元にはどこにでもあるような青々とした草木が生えていて…


 …いたはずなのだが、今はそれらはすべてが赤黒く染まっている。禍々しい血の色のような花もそこかしこに咲き乱れていた。それは空に昇る血の海のように真っ赤な月の明かりに照らされてそう見えているのではなく、草木が元々そんな色をしているのだ。向こうにある草の葉の形もなんだか真っ黒い手のようにも見え、それらが地上にびっしりと生えているのはなんだかぞわぞわとした気分になってくる。「破壊剣」の男が適当な草を足で蹴って散らしてみたが、散り揺らめく葉の舞い様すらも不気味だ。


「草花までもが禍々しいぜ。ごく普通の森の中だったダンジョンがこんなふうになっちまうなんてな。これが裏攻略のダンジョンかよ。裏攻略ってのになると他の所のダンジョンもこんなカンジなのか?」

「ん、どうだかな…裏攻略っての自体がそうそうあるものではないからなぁ。」

「もしかしてこの草とかも攻撃したら襲ってきたりしてな。へへっ、そらっ。」

「おい、ダンジョンのモンに下手に触るなよ。普通のダンジョン攻略でも基本中の基本だぜ。てめぇも場数踏んでB級までのし上がってきたんならそんくらい自覚しろよ。」


 「破壊剣」の男が足元の草葉を手当たり次第に蹴って遊んでいると、それを男の冒険者の一人が注意した。彼はさきの点呼で「札斬ふだきり」のキリックと呼ばれていた男だ。彼は小ぶりの片手剣を携えていて、その剣身には擦り切れた呪いの札が何枚も張り付けられている。おそらくその札で剣を強化しているのだろう。


「わかっているぜ「札斬(ふだき)り」の旦那。なに、ちょいと言ってみただけさ。確かに俺様はB級としてはなり立てだが、これまでに厳しい冒険者業界の修羅場くぐっちゃいねぇさ。だから油断はしてないぜ。なぁ、「焔蛇(えんだ)」の姉ちゃんもそう思うだろ?」

「アタイに話をふるなよ。アタイまでお前と同レベルだと思われるだろうが。ま、油断していないのかと聞かれたら当たり前だろうって答えておくけどね。」


 「破壊剣」の男も「焔蛇(えんだ)」の女も、このメンバーの中では実力は下の方だろう。しかしそれはあくまで()()()()での話。冒険者業界全体で見たらかなり優秀な冒険者だ。

 現に足元の草花を蹴っていじめる「破壊剣」は草の散る葉っぱや本体を目ざとく観察して様子をうかがっているし、「焔蛇(えんだ)」はあちこちを視線で追って怪しい物がないか確かめている。もしこれがいっぱしの低ランク冒険者であれば、ただ草木を蹴って遊び、雑談にふけるだけだっただろう。彼らと同レベルに扱うには、いくらなんでも失礼だ。


「…ふん、「札斬(ふだき)り」の俺から言えば「破壊剣」も「焔蛇えんだ」もダンジョンの裏攻略初挑戦という時点で素人のガキと同じだ。俺たちゃ今晩に限っては一蓮托生…一人になにかあれば全員に影響を及ぼすんだぞ。そこんトコ忘れるなよ。」

「わかってらぁ。足は引っ張らねぇよ。ま、そこの「終止符打ち」のニセモンはどうだかわからねぇけどな‼」

「…」


 「破壊剣」の男がにやけながらクロノスへ話を振ってきて、彼の肩をバンバンと叩いたが、クロノスは無視した。この暑苦しい男には付き合いきれなかったからだ。


「ふん、ところで裏攻略に初めて参加するヤツは他にはいたか?説明をしておかなくちゃな。」

「アタイとそっちの「破壊剣」だけだとおもうさね。そういや何をさせられるかは中で経験者に聞けって言われてたな…アタイらは何をさせられるんだ?」

「なぁに、裏攻略と言っても別に難しいことはない。いつもやってるみたいに組んだメンバーでダンジョン攻略すりゃいいだけの話だ。ただ、ゴールの最深層部を目指す…それだけだ。」

「なんだい。途中で寄り道もしないのかい?それなら楽なモンだね。アタシもこの洞窟茂りは何度も攻略している。そこまで苦労するようなダンジョンじゃないってことも理解してるさ。」

「わかっているなら結構。それじゃさっさと向かうとするか。残念ながら終点へ一気に転移する魔法陣はなさそうだしな。」


 「札斬り」キリックがちらりと横目に見れば、そこの地面には淡く光る魔法陣が設置されていた。あれはクロノス達が昼間に探索した際に設置したものだ。


「魔法陣は帰還側だけかよ。ケチケチせずにこっちから終点へ行けるのを設置してくれればいいのにな。」

「ギルド側の予算の都合でしょう。ウヒヒ…」


 「黒煙ローブ」の男に薄気味悪く笑われた「札斬り」のキリックはため息をひとつつき、それから全員に号令をして、一斉に歩き出した。



―――



 歩けども歩けども周囲の光景が変わることはない。相変わらず空から降り注ぐ赤い月の赤い光に照らされた不気味な赤黒い草木がそこにあるだけだ。しかし異常な光景とはいえ、それらには全員とっくに慣れた。ダンジョンの中にはこのように異様な光景の場所も珍しくないからだ。さっさと適応しなくては頭の方がもたない。物事を受け入れる感受性もまた、冒険者にとって大切な才能のひとつなのだ。


 ダンジョンの探検中は緊張感を忘れないのは大切だが、適度に気を抜くのも大切だ。気分をリラックスさせるために会話はしていた。


「なーんかもう飽きてきたなぁ。景色も変わり映えしないしな。」

「ふん、「破壊剣」も「焔蛇えんだ」も、特に驚きもしなくなったな。」

「あたりまえだろう「札斬り」のおっさん‼そこまでガキじゃねぇよ。」

「慣れてしまえば普通のダンジョンと一緒じゃないかねぇ。B級になったんだ。アタイもこれくらいでビビってられないさ。」

「なら大丈夫か。この光景程度で臆していたらこの先…おっと、モンスターのお出ましだぞ。」

「へいへい…退屈しそうで俺もこまっていたところだ。全員構えろ‼」


 一番前で無言のまま索敵をしていた「無礼拳ぶれいけん」の冒険者に手で合図され、「破壊剣」が退屈そうに背中から巨大な剣を引き抜いて取り出す。彼の職業(クラス)は見た目の通り大剣士(ビッグソーディアン)だった。

 「焔蛇(えんだ)」の女も蛇行剣(だこうけん)(剣身が蛇のように曲がりうねった形状をしている剣)を取り出して、魔術で生み出した炎を纏わせていた。それが彼女の戦い方なのだろう。


「…そっちの木々の奥から飛び出してくるぞ。」

「わかったぜ「無礼拳」‼はっ、こんなチンケなダンジョンのモンスターなぞ、ゴブリンや突進猪(ラッシュボア)程度だろうが。新人だった頃ならともかく、いまや「破壊剣」の二つ名を持つまでになったプレゾー様の相手じゃねぇ‼すぐにこの両手剣で真っ二つに斬り裂いてやらぁ‼」

「おっと、一番槍はアタシだよ‼この「焔蛇」のスレーホの餌食になりたいのはどいつさね!?」


 得意げになりながら「破壊剣」と「焔蛇」は武器を構えた。二人とも他の面子に自分の実力を見せておきたいのだろう。どちらが一番首をとるかで静かに争っていた。

 二人は「無礼拳」の示した方を向く。月の光が当たらない真っ暗な場所からがさごそと物音が聞こえ、それが次第に大きくなっていく。その音の主は明らかにこちらに狙いを定めて出てくるつもりのようだ。


「…っ‼きたかっ‼さぁ、俺様の剣の餌食になりたいのはどんな奴だ!?」


 そしていよいよ暗がりから何かが冒険者達の目の前に飛び出してきた‼それと同時に、「破壊剣」と「焔蛇」はそのモンスターの正体はじめて気づことになったわけだが…


「…」


 そのモンスターはこのダンジョンでよく見かけるゴブリンやウルフ。緑芋虫(ブルーキャタピル)突進猪(ラッシュボア)。そしてレアモンスターのゴブリンライダー。そのいずれでもなかった。もしくは…()()()()()()()()()()


「グロロギャビビブモッモ…」


 全部だ。目の前の存在は、それらのモンスターの特徴を()()持ったモンスターだった。 それは、頭や胴体のような普通の生き物が大体持っているような、大まかな肉体の形をどこにも見つけ出せない。全体の体のパーツの配置はなんだかおかしく、ぶよぶよとした芋虫の丸い塊に、ウルフの頭部からは槍を持ったゴブリンの腕が生え、腹からは猪の口が裂けたかのように飛び出て不揃いな牙が並んでいる。まるでいくつものモンスターを無理やりにバラバラにして、それらを適当にひとつにまとめてくっつけてしまったかのようだ。口(?)のような穴から漏れ出る鳴き声まで、なんだか全部のモンスターの鳴き声が混ざったように聞こえる。いや、それは声なんてもんじゃない。

 たった一体のモンスターのはずなのに、何匹も、何十匹ものモンスターがその場に重なっているように思える。この場の全員がおぞましいという素直な感想を心の中で漏らした。


「な、なんだありゃあ…!?ゴブリン?イノシシ?全部くっつけたみたいな…‼おげぇ…き、気味がわりぃぜ…‼こんな気持ち悪いモンスターは初めて見た…‼」

「なんだいあのモンスターは!?あんなの見たことないよ‼」


 おぞましいそれを目にして、最初に口から言葉を漏らしたのは、裏攻略の初参加者である「焔蛇(えんだ)」の女と「破壊剣」の男の二人だ。得体の知れない相手からいっときも目を離せないでいる。手にした得物を握る力も抜けて思わず武器を落としそうにもなっていた。

 そんな二人に後ろから、杖を構えていた「黒煙ローブ」の男がにやにやとした表情で話しかけてきた。


「だから裏攻略なんですって「焔蛇」と「破壊剣」のお二人さん。ああいうのと戦いながら進むのが裏攻略なんですよ。ウヒヒ…」

「で、でもあれは…‼」

「見た目が多少ブサイクですが、あれも立派にダンジョンモンスターですよ。ウヒヒ…」

「あれがダンジョンモンスター…?だがそれなら倒せるってことだ。気味が悪いしさっさと倒してやる‼」

「待ちな。アタイもやってやる‼」


 ダンジョンモンスターならばやることは変わりない。そう思い先手必勝だと「破壊剣」の男が大剣を振りかぶって奇妙なモンスターへ走って近づいていく。大柄なうえに重い大剣を持っているにしては見事な身のこなし。それに負けるものかと後には「焔蛇」の女も続く。


「ギャプヘブゴブライデデベェ…‼」


 「破壊剣」の男が接近したことで敵意ありと感知した不気味なモンスターは、その場でうずくまり体をもぞもぞとさせた。すると体表がぼこぼこと膨らんでいき、あちこちから、半透明の触手が飛び出してきた。


「オビャバボトベ‼」


 そして真っ黒なタールのような体液で濡れたそれを、「破壊剣」と「焔蛇」へと向けて飛ばしてきた‼


「なっ、触手の攻撃だと…!?だが舐めるんじゃないぜ‼そんくらい…おらよっと…‼」


 しかしまっすぐに襲ってくるそれらを、「破壊剣」と「焔蛇」は軽い身のこなしですべて避けてみせる。軽装備の「焔蛇」はともかく、大柄な体格の「破壊剣」の身のこなしは図体に見合わず見事である。その辺りは場数を踏んだ鍛えた冒険者ということだろう。彼らはすぐさま体勢を整え、敵への接近を再開する。


「その程度で俺様をどうにかできると思うなっ‼」


 そうしてあっという間に「破壊剣」の男が敵の目の前まで到着した。たどり着くと同時に大剣を目いっぱいに頭上に振りかぶり、不気味なモンスター目掛けて両手剣を振り落とした‼


「そらっ黙りなっ、「破壊剣(バスタースラッシュ)」‼」


 重い両手剣の力を込めた早く、重く、鋭い高威力の一撃。男の二つ名と同じその技は彼の得意技らしい。並のモンスターならこれで真っ二つどころかはじけて粉みじんだ。見た目が気持ち悪いとはいえこいつも同じことだろう。今までも多くのモンスターを真っ二つにしてきた一撃…「破壊剣」の男自身、それが相手に直撃したことで勝利を確信した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ