第16話:冒険者はとりあえずビールのノリでとりあえずダンジョンを探検する07
四階層目に入ったクロノス達は、これまでと変わらずモンスターが現れたら戦って倒し、罠があったらリリファに解除させて先へ進む。そうしてもう一つの地図の空白エリアを目指すのだ。
五層目と六層目は次の階層までまっすぐ進むだけなので寄り道をするのはこの階層が最後だ。モンスターは強くなっているがアレンとリリファはこれまえの戦いで得た経験をきちんと活かして対応ができていたが、二人だけでは襲い来るモンスターの群れを対処しきれないのでクロノスとセーヌも加わり連携を活かした戦いをしていた。
「いやー、大きな怪我も無くなったし、おいら自身がついてきたぞ。次の敵はどこだ?そりゃ、そりゃっ‼」
「この短い攻略でだいぶものにしてきたな。これならよほど油断しない限りこのダンジョンはもう大丈夫だろう。」
「そうですね。この調子で精進なさってほしいのでございます。」
「…待て‼三人とも動くな。」
リリファはそう言って後ろの仲間の足を止め、自分は腹ばいになった状態で地面に体を擦り付けながら少しずつじわりじわりと進む。
「何かあったの?おいらは何も見えないけど…」
「ここにワイヤーが張ってある。なんて細さだ…あやうく見落とすところだったぞ。これ一本だけか…?よーし、離れていろよ。絶対に私より前に出るんじゃないぞ。」
自分以外の全員が背後にいることを確認したリリファは、絹糸程度の細さしかない半透明のワイヤーを指で少し引いて調べたあと、ナイフの先で引っ掻くように突っついてわざと切断した。
するとワイヤーのすぐ真横の木と木の間の茂みから巨大ななにかの塊が勢いよく飛び出してきた。本来であればそれはワイヤーを脚で切った奴の頭に当たるようにできていたのだろうが、あいにくリリファは地面に伏していて仲間も彼女の後ろだ。それはむなしく宙を突っ切って左右にぷらんぷらんと揺れてから、やがて勢いを無くし止まった。
静止したそれをよく見てみれば、銀光りする刃物だった。即死トラップとして代表的な振り込刃というやつだったのだろう。リリファがふいに刃の部分をなぞると、手袋に穴が開いていたのでかなりの鋭さだ。
「油を塗って光の反射で風景に溶け込ませてもいる。細かい芸当だ…これは無警戒で歩いているとワイヤーを切って飛び出す機構が稼働して首を刎ねる。初歩的なトラップだが当たれば命が吹き飛ぶな。危ない危ない。」
「げっ…そんな罠まで仕掛けられているって本当にここ低難易度ダンジョンなの?」
「…振り込刃か…やはり…」
「クロノス兄ちゃん?」
「…ああ、確かにこれは即死クラスのトラップだが、殺すのは初見のヤツだけ…初見殺しってヤツさ。一度タネが割れてしまえばただの遊具だな。こんなの難しいうちに入らない。現にリリファでも見つけ出して解除できたんだし。」
「なにが「でも」だ。これでも腕はそれなりに立つぞ私は。」
クロノスの発言が不服だとリリファが食って掛かったが、油断はできないのは事実だった。進むにつれ罠がだんだんと難しいものになってきているのだ。今の振り込刃の他にも落ちると無数の鉄の棘が待ち構える落とし穴や、物語でよくあるような一本道の坂の上から丸い大岩が転がって襲ってくるものもあった。ただしこのダンジョンは森の中のダンジョンなので一本道でも横の茂みに飛び込めば無傷で回避可能なのだが、それでも逃げそびれ岩に潰されればたちまちぺちゃんこだろう。恐ろしいものである。
リリファも先頭を歩き、センスサーチを発動させてひとつひとつ道中の罠を発見しては解除していく。ひとつだけ解除すると別の罠が作動してしまう二重罠があったが、リリファはそれも見抜いて後の方の罠を先に解除することで作動を封じていた。
「怖くなってきたか?でもここまで来たからには最後まで帰すわけにはいかないな。ここはダンジョンのちょうど中央くらいだから、戻ったらまた来るのにかなりの距離を歩くことになる。」
「わかっているよ‼というかこれまで来た道にまだ罠が残っているかもしれないから、おいら一人じゃ戻れないよ‼どんなモンスターが来てもおいらが倒してやる‼」
「おお勇ましいことで。しかしこの階層はモンスターの数は少ないな。周囲にも群れが一ついるだけでその他の気配が全然ない。」
そう言ってクロノスが顔を上げて鼻をひくひくとさせていた。アレンもクロノスの真似をして顔を上げて鼻をひくつかせてみたが、空気のにおいに変わりはない。もしやそれはただのふりで、実は索敵の魔術でも使ってるのかもと思ったが、クロノスからはその気配も感じられない。いったいどうやってモンスターを探っているのやら…相変わらずわけのわからない人だとアレンは退屈そうに鼻を下げた。
「きっとこの階層は罠を主力とていているのでしょうね。モンスターをみだりに出現させれば彼らがその罠に引っかかってしまうから。この先に誰も行かなかったのは罠の凶悪さが主因だと思うのでございますよ。苦労して罠を切り抜けた先になにもなかったら冒険者としてはとてもつまらないでしょう。」
「セーヌ姉ちゃんもそう思うよね。。いくら行ったことのない場所だからって命のリスクを考えたらこの罠を潜り抜けてまでは普通行かないよ。それと…」
「待て‼また何かある‼」
リリファが声を張り上げたのでアレンは黙る。また罠を見つけたようだ。リリファがかがんで罠の仕掛けを調べて解き始めたその隙を見計らってアレンは発言を再開した。
「そういや誰とも会わないよね…おいら達の他に挑戦している冒険者っていないのかな?」
「そうだな。ここは街から近い場所にあるダンジョンだが、どうも人気がないようだな。このダンジョンが発見されたのは今から約七年くらい前の話。当時は新しいダンジョンだから挑戦する冒険者もひっきりなしだっただろうが、長年の探索であらかた探し終えた今では閑古鳥ががぁと鳴くわけか。ここだけじゃない。多くのダンジョンは冒険者が挑戦するのは最初の内だけで、発見されてから時代とともに少しずつ人気がなくなっていくものさ。入る度に宝は補充してもらえるのに不思議なものだよな。もしかしたら罠やモンスターがわかりきっている安全性よりも、危険だとしても何があるのかわからないという未知への期待が、冒険者をダンジョンへと引き込むのかもしれない。」
「確かに…なにがあるのかわからないとワクワクドキドキするけど、「中はこうなっていますここに宝箱が置いてあります中身はこんなもんです偶にアタリがあるかもしれません」…な~んて教えられたらつまらないかも。」
「だろ?だから踏破もされてすっかり調べ尽くされたダンジョンは新人の格好の練習場所として扱われる。魔術や技の練習に使うんだ。戦う相手はモンスターがいくらでも湧いてくるし、戦闘でどんなに怪我を負っても生きてさえいればダンジョンポーションを使って元通りだ。これは現実世界にない利点だろう。ま、同業者に出くわすなんてことはできればないほうがいいんだ。」
これは何度か語ったような気もするが、ダンジョン内で別の冒険者のパーティーと遭遇するというのは、冒険者にとってあまり好まれることではない。ほとんどの場合は初対面であってもダンジョン情報の提供や必要としている物資の物々交換などを行い助け合える友好的な関係で終われるのだが、中には人の目がないのをいいことに物資やダンジョンで手にした宝を奪おうと襲ってくる連中もいるのだ。そういう奴らは冒険者の中でも蔑まれている。
しかし被害にあっても人の目のないダンジョンでのこと。それを証明するのは難しい。そういった連中にひどい目にあわされてとぼとぼと街へ帰ってみれば、そいつが何食わぬ顔で酒場にいて「よぉ兄弟どうした?なに、ダンジョン攻略に失敗した?ガハハ、そりゃついてないな‼俺はこんなに稼いだぜ‼今日は俺の傲りだから飲みな‼」と、奪った宝で得た金で奢ってきたりする面の皮の厚い屑もいたりするのだ。中にはそれを新人冒険者への洗礼だと正当化して積極的に行う者もいるというから驚きだ。
世間の、社会の目がないと人は簡単に理性の枷が緩む。そして自分でもあり得ないくらいに暴力的になってしまうことだってあるのだ。もともと冒険者は荒くれ者だったり、荒くれ者の世界でもまれて同じように荒くれ者になったヤツも多いので、冒険者ギルドという規律を守らせる存在が無ければ圧倒いまに荒れてしまう。
たとえ共闘してモンスターを倒しても取り分の分け前でもめ合いになる。食料などが尽きて進むのも帰るのもできなくなった相手に、足元を見たぼったくり価格で食料を融通する。そして交渉が決裂すると武力を見せつけ力づくで奪おうとする。そんな手合いをクロノスはこれまでの冒険者人生で何度も見てきた。自分はそこまで外道なことをやったことはないが、それでもダンジョン内で出会い困っている相手に足元を見た交渉を持ち掛けることはあった。
「清く正しく勇ましい冒険者は理想だが…現実は辛く厳しく残酷だ。君たちは奪う側になってほしくないし、そういった手合いに襲われても返り討ちにできるくらい強くなってほしいものだ。」
「わかっているよ。そうなるために今はダンジョンで鍛えているんでしょ。」
「…そうだな。」
クロノスの悟ったような発言に、アレンが元気よく答える。明るく未来ある冒険者の卵にクロノスは勇気づけられた。
「じゃあ頼もしいアレンくんには…さっそくアレをお願いするとしよう。」
「アレ…?って、ええっ!?」
クロノスが指をさす前方には、何頭ものウルフがいた。アレンには正確には数えきれなかったがざっと見ただけで三十匹はいる。
「「「グルルル…‼」」」
「ちゃっちゃっとやってくれよ。」
「でででも、あああの数は…ささささすがに…‼」
「声を振えてるぞー?まさか武者震いか?ますます頼もしいじゃないか。そら、ごーごー。はりきっていこうじゃないか冒険者のエッグくん?」
「いや、ちょっとまって…いくらなんでも…‼」
「おいアレン。私は罠の探知で忙しいからモンスターは任せたぞ。無防備だから守ってくれ。」
「ええっ!?」
「「「ワオーーーン‼」」」
狼狽えるアレンに本家の狼…ウルフが雄たけびをあげて殺到した。
けっきょくの話、当たり前だがアレン一人では捌けずにクロノスとセーヌが大半を倒していた。リリファは襲ってくるモンスターとの戦いには参加せずに移動中の罠の発見と解除に専念することにした。
辿り着いた四層目の未探索エリアだったが、二層目よりも大したことはなかった。ただ単に多きな切り株の上に宝箱が置いてあるだけ。おそらく即死トラップが多いのでさっさと通り過ぎて誰もよらなかったことが原因だろう。
ただし開けようとする前にリリファが調べると、宝箱の内側に罠が仕掛けられていた。勢いよく開けると毒矢が開けた奴の顔面に飛んでくるというもので、リリファが横から開けると矢が飛んできて、奥の木に刺さっていた。
中身は古い時代のとある国の通貨のコインだった。ギルドで換金可能なのでお宝であることには違いないが混ぜ物が多く金属の質が悪いので、買取価格は安いだろう。こんなお宝だったらそりゃあ即死トラップを潜り抜けてわざわざ来ない。クロノスたちは地図に「宝箱が一個だけ。箱の中に罠が仕掛けられている可能性があるので注意して開けること。即死トラップを潜り抜けてまで来る必要はない。参考までに自分達は古い時代のコインだった」と素直に感想そのままに書いておいた。




