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猫より役立て‼ユニオンブレイブ  作者: がおたん兄丸
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第14話:冒険者はとりあえずビールのノリでとりあえずダンジョンを探検する05



 ダンジョンポーションで怪我を治したアレンが無事戦線に復帰したので攻略を再開することにする。といっても二層目のすぐ初めの所にいたので再開と言うよりも開始に近い。


 目的地である二層目の地図の空白地帯までの道中では何度かのモンスターとの戦いもあったが、面子は一層目となんら変わらずゴブリンと緑芋虫(ブルーキャタピル)と時々突っ込んでくる突進猪(ラッシュボア)の三種類だけ。このダンジョンにはレアモンスターもいるらしいが、レアだけあって滅多に出会えない。クロノス達もここまでの道のりで姿を見ることすら叶わなかった。アレンとリリファが少し残念そうにしていた。

 ひたすら現れる敵をちぎっては斬りちぎっては突きちぎっては叩く…そんなことを繰り返して魔貨とときどき出てくるガラクタみたいなドロップアイテムの数々をなんでもくんへ収めていく。なんでもくんの中に収納できる量に限界はあるが、まだまだ余裕はあるので中を整理していらない物を捨てていく必要もなかった。

 それとアレンとリリファは先の戦いでこのダンジョンで出るモンスターの戦い方のクセのようなものを掴んだのか、今度はかすり傷ひとつ負わなかった。戦いの中でも成長をしているということだろう。ダンジョンは神が用意した人間を鍛えるための場所とされるだけある。


 そんなこんなで四人は三階層目へ続く道を横へ外れてしばらく獣道すらない草むらの中を歩いていく。行く手を塞ぐ邪魔な草はアレンが草刈り鎌で刈って進む予定だったが、途中でばててしまったので、クロノスがペーパーナイフ一本で道を切り開く。

 クロノスが紙くらいしか切れなさそうなちゃちなペーパーナイフを一振りするだけで、前の草が五メートルくらい先までちょんぎられ地にひれ伏す。これについては「紙の材料は植物だろ?このペーパーナイフは紙を切れるだろう?なら原材料の草木だって切れるだろう。」とクロノスがわけのわからないことを言っていたが誰も気にもとめていなかった。

 そうしているうちに遂に目的地の地図の未記載エリアの目前となっていた。


「お、もうすぐ着くぞ。」

「もう既に…へとへとなんだけど。」

「だらしない奴め。こうして先陣を代わってやっているのだからだいぶ楽だろうに。」

「足はそこまで疲れてないんだけどね…なんか気がずーんと落ち込む感じがして足取りが重いんだ。怪我を治してからダメージは一度も受けていないはずなんだけどね…」

「ああ、それは緑芋虫(ブルーキャタピル)を相手していたからだな。精神的疲労だろう。斬れば体液が飛ぶし突けば体液が飛ぶし叩けば体液が飛ぶ…何をやっても体液が飛ぶ相手だからな。俺もあれはできればヤダ。」


 気落ちの原因がそれであったことにアレンが納得し、その後ろを歩くリリファも頷く。どうやら彼女も緑芋虫(ブルーキャタピル)との戦いには思うところがあったらしい。


「倒せば服についた体液ごと消えるとはいえアレは辛いものがあるな。虫に対して拒否感がなくてもあれは精神にくる…セーヌは平気なのか?」

「私はあまり…もともと戦いもみなさんにお任せしておりましたので。一人だけ楽をして申し訳ないのでございますよ。」

「セーヌは後方支援だからそれでいいんだ。そうだ。二人とも気付けに酒でも飲めばいい。なんでもくんの中に入れてきていたはずだ。」

「おいらもリリファ姉ちゃんも未成年だよ。飲んだの知られたら母ちゃんに怒られちゃうよ。」


 元浮浪児のリリファは飲酒に抵抗がないがアレンには強い抵抗感があった。ミツユースは未成年の飲酒はけっこう厳しいらしく街全体で子供が飲酒をしないように木を使っているらしい。商人の街なので酒飲み癖がついて酔っ払った状態で人前で粗相をやらかせば信用に関わり商売に影響するためなんだとか。


「俺は強い酒が苦手だから無理に飲酒を勧めないミツユースのそういう風潮は好みだが…ここはダンジョンだぞ。法律も世間の目もあるか。生き残るためには常識なんて捨てろ。というわけで…」

「だめでございます。世の中には酔っ払うことで知覚が増して素面(しらふ)の時よりも強くなる冒険者もいると聞きますが、私も子供の飲酒は認められないのでございますよ‼喉が渇いたのならこちらをどうぞ。」


 クロノスがなんでもくんを管理するセーヌへ酒を所望してアレンへ飲ませようとしたが、セーヌは珍しく厳しめに拒否した。代わりにオレンジジュースを寄越してきたので三人はそれを飲んだ。


「…ふぅー。あっ、そういえばさ。クロノス兄ちゃんは緑芋虫(ブルーキャタピル)と戦っていても体液を飛ばさなかったじゃん。あれはどうやったの?」

「あれは打撃で体の内側にダメージを叩きこむんだ。内側に衝撃を収束させることで肉体が破裂して飛び散らさない。血も何も出ない闘士(ファイター)の基本的な技術のひとつだな。」


 緑芋虫(ブルーキャタピル)のような斬ったり突いたりして体液を飛ばすような嫌な敵でも対処する方法がきちんとあるらしい。しかもクロノスは靴の裏で蹴って倒していたが、あれはきっと上級クラスの技術だったのだろう。


「いいなぁそれ。おいらも闘士(ファイター)に転職しようかな。クロノス兄ちゃんみたいに靴の裏で蹴って倒すのは難しいかもしれないけど。」

「やめておけ。闘士(ファイター)の戦いは素手が基本だから肉体から鍛えないといけないぞ。人間は道具を使って格上の敵と戦えるようになったのだから素直に道具を使っておけ。それに緑芋虫(ブルーキャタピル)にも直接触れなければならない。体に毒はないがあのひんやりとしていてうねうねとした感触は…」

「げっ…そ、そうだね。やっぱ転職やめておこうかな…あはは。」

 

 アレンは多少の未練を残しつつも、どう考えても今の自分に身に着けられるスキルではないとあきらめた。

 


 これ以上緑芋虫(ブルーキャタピル)に出くわしませんようにと祈りながら歩いていたのが功を成したのか、以後芋虫どもと遭遇することはなく、四人は森の中からひらけた場所へ出た。やっと目的地に着いたのだろう。


「着いたぞ。あそこが例の場所だ。あそこまで行ってその先を探索して地図を埋めるだけの簡単なお仕事だ。」

「え…でもあそこ…」


 クロノス容易く言うが簡単には行けない。なぜなら彼が何気なく指をさすその先は…そこから先は地面がないのだ。崖になっていて今の場所と向こう側が見事に分断されている。左右に目をやってもその裂け目はどこまでも続いて果てしない。


「あれじゃあ進めないよ。崖の無い場所まで回り込めないかな。」

「森の中に入るから危険だ。それに崖の終わりがあるとも限らない。ダンジョンだから無限に裂け目が続いている可能性もある。」


 アレンが崖下を覗くが真っ暗で何も見えない。おそらくに相当な深さだろう。落ちたら助からない。同じように覗き込んでいたリリファがふと石を投げこんでみたが、石が暗闇に消えた後いつまでも音は返ってこなかった。


「下が見えない…どれだけの深さがあるんだろう…?」

「さあな。何十メートルもあるのかもしれないし、あるいは最初から底なんてなくて、いつまでも延々と落ち続けるのかもしれない。」

「ひっ、怖いこと言わないでよっ…‼」

「なんだビビってんのか?」

「びびび…ビビってないやい‼」

「冗談だ。…普通の森だから忘れがちだが、ここは神がつくった異空間だぜ。通常の常識で物を語れと言う方が難しい。」


 クロノスにそう言われ、アレンは生唾をごくりと飲んだ。

 ダンジョンは現実世界の常識が通用しないことがままある。クロノスが言ったようにこのダンジョンをつくった神様が崖の下を用意していない可能性だってなくはない。…実際どうなん?おーい、このダンジョン創ったのだれー?ああお前?…へー、百メートル位下に安全マットが敷いてある?じゃあ大丈夫だね。…落ちたら戻って来れないだろうから生きていても復帰する方法がないだろうって?じゃあダメだな。


「どうやって行ったものか…誰かいいアイデアはあるか?」

「そうだなぁ…ねぇ、例えばロープを二本用意してさ…一本を向こうの木か何かに引っかけて下へ垂らすんだ。それでこっちからももう一本のロープを使って崖の下まで降りた後に、あっちへ引っかけた方を昇って向こうへ移動するってのはどうかな?」


 アレンが思いついたアイデアを三人に話してみたが、クロノス達は難しい顔をしている。発案者のアレンもその方法があまり良くないことに薄々気づいていたが、リリファが説明するまで黙っていた。


「無理だろうな。持ってきたロープもそこまで長くないし、下がどこまで続いているかもわからない。あまりいい方法ではないだろうな。」

「だよね。でもなんとかしてこの崖の向こうまで行かなきゃ地図を埋められないよ。」

「今まで訪れた冒険者の方々はその(すべ)を思いつかなかったか、もしくはいろいろ試してダメだったので進もうとしなかったのでございますね。」

 

 ダンジョンの攻略は基本的に最深部まで進むことが最優先される。奥の方が宝の量も質も良くなるからである。このような途中の脇道は見つけてもよほどの理由がなければ次の機械に後回しにするだろう。ようするにここはそういう場所なのだ。いつまでも地図が空白になっている時点でそれは百も承知だ。


「飛ぶにしたってこんなに幅があるんじゃ思いっきり助走してジャンプしても届きそうにないよね。向こうまで五メートルくらいはあるかな…失敗して落ちた時のことを考えたらそれはやりたくないよね。」


 単純に跳躍の力で向こう岸まで飛んでいくという案は危険すぎると誰も賛成しなかった。無茶と無謀は違うのだからその結論で正解だろう。


「じゃあどうするんだ。お手上げじゃないか。」

「まぁまぁ。こういう場合は絶対に行けないようになっていることは実は少ないのさ。ダンジョンは神が人間を試す場所だからな。たいていどこかに先へ進めるようにするための仕掛けが隠されているものなんだ。そうでなかったとしても何か工夫を凝らして安全にわたるべきだ。」


 ダンジョンの中では謎解きの仕掛けがあることがある。仕掛けを動かすための隠されたスイッチを探し出したり、パズルを解いたりすることで先へ進むことができるようになる。正式な道ではご褒美は先への道だがこういう横道の場合のご褒美はお宝が用意されていることもある。


「うん…そうだ‼そこらの木を切り倒して向こう岸までかけて橋にするってのはどうだ!?」

「なるほど。力任せのごり押しに思えるが冒険者にとっては正攻法だろうな。試してみる価値はあるだろう。」

「それならおいらに任せて‼見ててよ…‼」

 

 アレンはなんでもくんの中から武器のパーツを取り出してかちゃかちゃと今の剣のパーツをとつけかえ出した。アレンの武器「大嵐一号」は先端の部品が取り外し可能な特別製で、鎌、槌、槍、細剣といった具合に用途に応じて戦い方を変えられる。

 一分も経たずに組み換えを終えたアレンは完成品のそれをばばーんと天へと掲げて見せる。それは斧だった。ただし戦いを目的とした斧ではなく、木の伐採に使う丈夫なやつだ。これで一気に木を切り倒してしまおうということなのだろう。

 次にアレンは近くの木の中からまっすぐで長さのある木を探す。そしてこれだと思ったものを見つけ、さっそく斧を振って木を切りつけ始めた。子供にしてはペースが速い。手慣れたものだ。


「手際がよいですねアレンさん。」

「うん、家ではパン焼き釜に使う用の薪をいつもつくらされてるからね。それに冒険者になって鍛えられているからこんな木の一本くらい…ちょちょいのちょいさ‼」

「(…あれ?あの木ってたしか…)」  

「どうしたクロノス?」

「いや…あの木…」

「えいやっ、そいやっ、とぉ‼…倒れるよ‼みんな離れて‼」


 張り切ったアレンによって木はあっという間に切り倒してしまう。木はアレン達がいたのとは反対方向にゆっくりと倒れて大きな音を立てた。


「さぁ後はこれをみんなで運んで…ってあれ!?木が…‼」


 倒れた木の方を見たアレンは思わず二度見をした。なんと切ったばかりの木が突然透明になって消えてしまったのだ。突然の出来事に開いた口がふさがらない。


「木がなくなっちゃった‼なんで!?」

「やっぱりそうだったか…足元をよく見ろ。」


 驚くアレンにクロノスがそう言って彼に足元を確認させると、そこには一枚の泥水色のコインが置かれていた。


「これ…魔貨だよね?ってことは…」

「ここらにある木はな…「お化け樹(ドロンジュ)」っていう木の姿をしたモンスターなんだぜ。人が近づいても決して喋らず決して動かず、木のふりをし続ける変なモンスターさ。だからこいつらを切って橋にすることはできない。切ったらその瞬間死んで消えるわけだからな。」

「そうなの…?な、ならお化けの木じゃない別の木を…あれはダメ…これもダメ…それも…ダメ?」


 アレンが次に切る木を求めて辺りを見渡すが、どこもかしこも同じ種類の木ばかりだ。おそらく全部がクロノスの言うお化け樹(ドロンジュ)なのだろう。これでは予定していた木の橋をかけることができないではないか。アレンは急いで木を切った徒労もあってかなりがっかりしていた。


「はっはっは。木を橋にして渡るのはダンジョンを創った神様的にはよろしくない答えらしい。ズルには対策済みというわけか。」

「そんなぁ…でも他の場所から木を切って持ってくるには遠すぎるよ。運んでいる途中でモンスターに襲われでもしたらたまらないし。」

「やはり向こうへ行くための仕掛けがどこかに隠されているパターンだろうな。ここは君の出番だろう…リリファ。」

「よしきた。私に任せておけ。迷い人へその先の道を示し閃きを与えたまえ…センスサーチ。」


 リリファが呪文を唱えると彼女の翠色の目が光る。盗賊(シーフ)が使える魔術のセンスサーチを発動させたのだ。彼女は黙って周辺の木々や地面の土をじっくりと観察し始めた。


「…」

「何度か使っているのを見たことがあるけどこれってどういう魔術なの?」

「センスサーチは隠された罠や仕掛けを見つけることができるのでございます。しかしあくまで見つけることしかできません。解除の仕方や機構は使用者の技術と知識と勘次第といったところでしょうか。」

「えっそうなんだ。おいらてっきり罠の解除のやり方までわかるんだと思ってたよ。」

「…そんな都合のいい魔術あるか。それだけ便利だったら冒険者全員盗賊(シーフ)になるべきだ。…っと、見つけたぞ。」


 センスサーチによる探索を終了したリリファが指示したのは、崖の向こうにある草むらだった。


「向こう岸の草むら…あの中に何か隠されているな。おそらくは仕掛けを動かすスイッチ。それをどうにかすれば向こうへ渡れるはずだ。」

「崖を渡る仕掛けを作動させるために崖の向こうへ行けってこと?無茶苦茶だなぁ。その方法がわからないから困っているってのに。」

「やっぱり誰か一人はとにかく行ってこないとダメなんだろ。そしてそいつが仕掛けを動かすと残りの仲間があちらへ行くことができる何かが出てくるってところか。ふーむ…」


 クロノスは黙って顎に手を当て考えだした。他の三人もクロノスを見守りながら自分達も同様に黙ってそれぞれの思考の海を泳ぐ。


「(向こう岸にはモンスターの気配はないな…おそらく宝のある部屋があるだけなんだろう。なら誰か行ってもモンスターと一人で戦うことにはならないか。それなら…)」


 三分ほど思考の海を泳いでいると、結論が出たのかクロノスがそこから戻ってきて口を開いた。


「よし、俺がアレンを向こうに投げてやろう。そんで仕掛けを解いてこい。」

「え…」

「はいじゃあ実行しまーす。」

「ええぇぇぇ!?」


 言うは行動とほぼ同時だった。クロノスはアレンが理解をするよりも早く彼の背後へ回り、腰のあたりをがっと掴んでその場をぐるぐる回転して勢いをつける。


「はいそーれっと…‼」


 そして崖の向こうめがけてアレンをぶん投げた‼


「わっ、わあああああ‼」


 崖から崖までの距離は十メートルはゆうにある。しかし規格外の力でクロノスに投げられ、これまた規格外の勢いで飛ぶアレンは余裕で崖の向こうまで飛んでいく。最後にアレンは咄嗟に受け身をとって地面を何べんも転がった。


「うーん、我がことながらなんと美しくシンプルかつベストな正攻法だろうか。」

「いきなり何すんのさー‼落ちるところだったじゃないかー‼」

「向こう側まで辿り着けたのだからいいじゃないかー‼」


 向こう岸からアレンが非難の嵐を浴びせてくるがクロノスはまったく反省していない。それどころか最短で手っ取り早く向こう岸まで行けたのだからよかったじゃないかと胸を張る始末。


「やったとしてもおいらよりも軽くて仕掛けに詳しいリリファ姉ちゃんでよかったじゃないかー‼」

「女の子にそんな危ないことさせれないだろー‼」

「諦めろアレンー‼もう終わったことだしコイツはこういうヤツだー‼」

「申し訳ござませんアレンさんー‼私がもっと早く気づけていたら止められたのに…‼」

「まったく…もういいよ‼でもお宝を見つけてもおいらのものだからねー‼」


 諦めてアレンは背中を向けてリリファが仕掛けがあると言っていた草むらに入り、何かないか手を突っ込んでがさごそと探す。草むらに潜む毒蛇などのモンスターがいないか心配もしたが、リリファに怪しい存在はないと教えられていたし厚手の手袋を着けていたので大胆にいくことにした。冒険者は恐れていられないのだ。仮に何かいたとしてもいきなり崖の向こうへぶん投げられるよりはマシだろう。

 しばらく手を草むらの中に突っ込んでがさごそしていたアレンは、手に何かが引っかかるのを感じた。

それはレバーだった。レバーと言っても鶏の肝臓ではない。機械を操作するための把手(とって)の方だ。


「引けばいいのかな?よっと…」

 

 アレンは迷わずにレバーを握って力を籠める。しかしレバーはさほど重くなくすんなりと引けた。

 空間全体にがこんという大きな音が一回鳴り響き、地面が揺れてががが‼とけたたましい音が続いた。がががと鳴り続けるのを待っているとやがて崖の下から岩の塊がせりあがってくる。それが足場であることに四人が気付いたのは、岩の塊が完全にあがり切った後だった。


「石の橋か…ばっちり固定されている。乗っても大丈夫だろう。」


 クロノスが石の橋を足で強めに蹴って、それが乗るに値する頑丈さであることを確かめる。そして三人は石の橋をゆうゆうと渡って向こう岸へたどり着き、アレンと合流した。その頃にはアレンのお怒りもすっかり収まっていた。気持ちの切り替えの早さも冒険者に必要なことだ。


「やっぱり投げられてこっちまで来るのが正解とは思えないなぁ。これ本来ならどうやってこっちへ来てレバーを引くんだろ。」

「さぁな。鍵爪のロープを向こうに木へ引っかけて渡るとか?」

「…たぶんそれで合っているよ。投げられる前に気付きたかった。」

「いや、このあたりの木はすべて木に化けたモンスターなのだろう?枝に引っかけても崖の上を飛んでいる瞬間に枝から鍵爪を外されでもしたら崖下へ真っ逆さまだぞ。案外クロノスがやったようにこちらへ誰か投げるか、自分で飛んでいくのが正解だったかもな。それができる技術の持ち主だけが行ける場所だったのかもしれない。」

「空を飛べる有翼人(イカロス)の仲間がいたり飛行(フライト)の魔術とか使えるとか。それだと難しいんだろうな。とりあえずそういう風に書いておくか。」


 地図に「向こう岸にあるレバーを引くと崖下から足場が出てくる。向こうへ行く手段は各自用意せよ」と注意書きしておいた。




「隠し宝物庫ってところか。ぜんぜん隠れていないが。」


 草むらをかきわけ少し進むとまたひらけた場所に出た。そこには大きな木の切り株があった。その上には宝箱が鎮座している。周囲は小さな木々(切り株の大きさでそう見えるだけで実際は普通の大きさの木だ)で囲まれており、それが部屋の形をつくっていた。


「宝箱だ‼おいらが開けていいでしょ‼おいらが活躍してここまで来れたんだし‼」

「待てアレン‼」

「なんだよリリファ姉ちゃん。ここまで来られたのはおいらのおかげでしょ‼」

「宝箱を開けるのはいい。だがまずは私が罠を確かめる。まだ誰も開けたことのない宝箱だからな…どんな罠が仕掛けられているかもわからん。」


 ダンジョンの宝箱には置き場所が固定されているものがあり、中身を取り出して消えたあと、しばらくすると復活して次に来た冒険者がまた開けることができるようになる。その時に罠の類も同じものが復活することがある。一番最初の誰も調べていない宝箱はどんな罠が仕掛けられているかもわからない。なので盗賊(シーフ)は特に慎重に罠を探る必要がある。


 罠の危険があるためリリファが先行し、切り株の手前でセンスサーチの魔術を何度も使って宝箱にも何の仕掛けもないか、もしくは切り株や近くの足元に罠がしかけられていないか確かめてみる。

 それからリリファは抜き足で静かに切り株に乗り、宝箱を周りから慎重に見定めていく。無理やり開けようとすると爆発するとか、鍵穴に針金を突っ込むと毒針が飛び出すとか、もしくは切り株の上から宝箱を離した途端重さの感知で上から檻が降ってくるというのもありえる。あらゆる罠の可能性を想定して対策をしなければならない。もし引っかかっても切り抜けられるのが一流の盗賊(シーフ)だ。


「センスサーチ。…よし、目に見えるような罠はないな。」

「早くしてよー。おいら早く開けたいよ。」

「うるさいな…」


 リリファは解錠した宝箱の蓋を少しだけ開け、飛び出しのしかけがないかも確認する。それらもなかったので宝箱を持ちあげ切り株の上から立ち去り、中身を見ないようにして持ってきてそのまま急かすアレンへ面倒そうに渡した。


「ほら、開けておいたからあとは蓋を開くだけたぞ。お前が一番に中身を見ればいい。」

「わーい‼さぁ中身は何かな…それっと‼」


 宝箱の開封を引きついだアレンはなんの警戒もなく蓋を勢いよく開ける。蓋を大きく開けると作動する仕掛けがある場合もあるのでアレンの行動は迂闊だが、それを注意する間もなかった。


 「これは…」とアレンが呟き宝箱に入っていたものを取り出した。その瞬間宝箱は煙に包まれ消えてしまった。ダンジョンの宝箱は開いて中身を取り出すと消滅してしまうのだ。四人は冒険者として既に知っている常識であったためか消えた宝箱の方には目もくれなかった。注目したのはアレンの掌の上に乗る宝箱に入っていたもの…


 それは黄色い星の形をした石のついたペンダントだった。首紐は金属のチェーンでできている。


「ただのペンダントじゃないか。こんなの自由市の出店でいくらでも売ってるよ。」

「ダンジョンで見つかるアクセサリーを小馬鹿にするなよ。こういうのには装備者に恩恵を与えてくれる「加護」が付与されていることもあるんだからな。」


 加護とは才能(スキル)や祝福とも称されるもので、手に入れた人間に新たな力を付与してくれるのだ。ダンジョンを攻略すると冒険者はこのような加護のついた装備品を手に入れることがあり、これがあれば単純に強くなって冒険ももっと効率的に行えるので欲しがる冒険者は多く、ダンジョン攻略で加護付きの装備品を手に入れるのはダンジョン攻略における目標のひとつとなっている。


「逆に呪われた装備で一度身に着けると取れなくなってマイナスの効果を与え続けるものもあるんだがな。だから手に入れてもすぐには装備してはいけない。どんな加護がついているか、呪われていないかをギルドで鑑定してもらう。それまではなんでもくんに入れておけ。」

「はーい。帰ったらすぐにギルドで見てもらおうっと。何かいい加護が付与されていたらいいな。」


 苦労して手に入れた加護の品であっても、それは呪われた装備品である可能性はあるのですぐさま装備してはいけない。ギルドの支店へ持っていき鑑定ができる職員に見てもらう必要がある。アレンはセーヌの持つなんでもくんに星型の石のアクセサリーを無造作に放り込んだ。


「クロノスさん。この辺りの詳細な情報の記述は終わりました。」

「ご苦労セーヌ。ならとっととおさらばして次へ行くぞ。」

 

 二階層目の未探索エリアの調査はこれで終わった。しかし今回のクエストはこの一か所だけではない。クロノス達はもうひとつの空白地帯である四層目の一角を目指す。




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