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猫より役立て‼ユニオンブレイブ  作者: がおたん兄丸
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第11話:冒険者はとりあえずビールのノリでとりあえずダンジョンを探検する02

 


 休憩も持ち物の確認も済んだので、四人はさっそくダンジョンへ向かうことにした。これから挑むダンジョンは七階層とやや多めの階層があるので、朝早くに街を出たとはいえもたもたしていたら戻ってきたときには夜になってしまうのだ。夜になるとミツユースの街の大門は閉門となり外にいた者は締め出しを食らってしまい、そうなった場合は朝まで一夜を明かし、晩御飯はクソまずいことで有名な冒険者ギルド印の保存食を食らう羽目になる。

 保存性を第一目的してつくられたそれは食品と言うよりはもはや生命維持をするための何かであり…とにかく保存と味付けを目的としたキツイ塩味に防腐処理を施した防腐剤そのものの臭いは酷すぎる。


「あんな美味しくないもの死にかけでもなけりゃ食べたくないよおいら。」


 アレンは冒険者の保存食がとても苦手だった。もちろん冒険者の間でも保存食の評判は悪く、好き好んで食べる奴はまずいない。


「三人は平気なの?」

「まずいまずくないで言えば確かにまずいだろう。アレを煮詰めてつくったスープは飲むと海でおぼれた気分になれるともっぱらの評判だからな。だが領域(フィールド)の奥地を彷徨いまともな食料を調達できない中であれば、腐ることも虫に食われることもないアレは何よりも頼りになる。まずいとわかっていても食わねばならぬ時もあるのさ。少なくともその辺の得体のしれない野草と虫けらを混ぜ込んで煮詰めて食うよりマシだ。」

「アレは夏場にゴミ捨て場で一晩過ごして蒸し焼きにされた生ごみといい勝負の味と臭いだな。だが食えんことはない。生きてさえいれば…生きよう。そんな気分にさせてくれる。」

「贅沢は敵でございますよ。それに栄養はバランスも量もしっかりとれますからね。保存期間が過ぎかけた放出品が安く出回ることがあるのででスープの材料に使うことはよくつかっていました。塩気を抜くのにはコツがあるのでございます。塩気さえ抜ければ普通の保存食ですから…」

「三人ともやっぱり嫌いだよね?」

「「「そんなことないです。食べられるだけ素晴らしいです。」」」


 街でごく普通の家庭で生まれごく普通に育った普人族でありまともな感性を持っているアレンにとっては保存食の食事は拷問に近い。しかし他の三人は冒険中の食事に文句言わない。なにせプロ意識だけはやたら高いベテラン冒険者、元スラム街の孤児、貧乏孤児院のシスター見習いという超豪華ラインナップ。あの保存食を食うことに一切の抵抗も拒絶もない。むしろこの中ではアレンの考えの方が異端だった。


「ちぇ…三人とは食の嗜好が合わないや。保存食のしょっぱい鍋のお世話にならないようにダンジョン攻略がんばろうっと。えっと、ダンジョンの入り口はこの奥かな~っと…あれ?」

 

 洞窟の中は日が当たらず昼間だと言うのに真っ暗だ。アレンが中をよく見ようとたいまつに火をつけて奥を照らし、もっと奥を見ようと洞窟の縁に手を置いたところで気が付いた。洞窟がすぐ入り口のところで塞がってしまっているのだ。

 もちろん崖崩れが起きて入り口が岩で塞がってしまったわけではない。洞窟を入ってすぐに赤いレンガが積み重ねられびっちりと隙間なく埋められて壁になっているのだ。統一された規格の天然のレンガなんて聞いたことないし、レンガが人工物である以上はこれは意図的な工作なのだろう。


「壁で塞がれてる…これじゃ入れないじゃんか。何処の誰だよこんなことしたヤツ‼」

「違う。これは悪質ないたずらではなく冒険者ギルドがわざと封じたんだ。このレンガは特殊な魔力が練り込んであって、俺達冒険者が一人一枚持っている冒険者ライセンスカードの持つ力に反応して入り口が開くようになっている。すなわち冒険者のみは入場可能なわけだ。見てろ…」


 クロノスが自分の薄汚れたライセンスカードを取り出してそれをレンガの壁に近づけると、たちどころにレンガはすうっと消えてなくなってしまった。クロノスがそこからカードを離すと、またレンガが現れて壁が元通りになる。


「本当だ‼壁が消えたり元に戻ったりしてる。なんかおもしろーい‼」

「壁はライセンスの持ち主一人を通すとすぐ戻るが、君たちも自分のライセンスを使えば問題なく入れる。」

「冒険者しか入らせないなんてヘンテコな壁だね。でもどうしていちいちダンジョンの入り口をふさいじゃうの?やっぱりダンジョンから得られる利益を冒険者と冒険者ギルドが独占するため?」

「すぐ利益の話につなげるのは流石は商人の街ミツユースの子供か…主な理由はそれだろうな。でもこれは冒険者業界から素人さんへの善意でもあるんだぜ。」

「善意?」

「ああ、こうすりゃライセンスを持たない一般人はダンジョンへ入れないから安全だろう。」


 ダンジョンの入り口である空間の裂け目は実体を持たないが、光っていたり空間が歪んでいたりするので見ればすぐわかるが、中にはそれらが希薄で可視化が難しいものもある。その場合この世界と異空間の境目がわからず何も知らない一般人が知らず知らずのうちにダンジョンへ落っこちてしまうことがあるのだ。だからこのように壁で囲ってそもそもダンジョンへ近づけないようにする必要があるわけだ。


「そして理由はもうひとつ。一般人が自らの意志でダンジョンへ入り、ダンジョンの(コア)をぶっ壊さないようにするためだ。」


 ダンジョンのどこか…大抵は最も奥地である最深層にダンジョンの(コア)がある。これはダンジョンの中心となりダンジョンのすべてを構成している文字通りの核にあたるものであり、これを破壊するとそのダンジョンは形を維持できず消滅してしまうのだ。冒険者にとってダンジョンはいろいろなものを手に入れられる大切な収入源である。だから探索して地図をつくって効率的に潜れるようにしていくわけで、探検を重ね様々な情報を蓄積してせっかく攻略しやすくしたものを壊されたらもったいない。なので冒険者の間ではダンジョンの核を見つけても破壊しないのが暗黙のルールだ。壊して何らかの罰則を受けるわけではないがわざわざ壊す必要もないので冒険者はそのルールを概ね守っている。


 だが冒険者にとってはダンジョンは業界で共有すべき大切な財産でも、周辺に住むダンジョンとは無関係な人々にとってはどうだろうか。中にはダンジョンのモンスターが外へ出てきて暴れると考える者もいる。ダンジョンが発見されると、たまに冒険者よりも先にダンジョンへ入り込んで核を壊してしダンジョンを消してしまおうと考える一般人が出ることがあるらしい。


「ダンジョンのモンスターが外に出られない…出ると消滅するというのは知っているな?だから近所にダンジョンがあっても安全と言うのは冒険者業界じゃ常識だが、業界外の素人が全員このことを知っているとは限らない。知らないヤツからしたら住んでいる土地の近くにあるダンジョンがあるのは恐ろしいだろうな。」


 もしもダンジョンについての知識がない者がいて、そいつが住む場所の近くでダンジョンが見つかったらどう思うだろうか。まずこう思うだろう。「ダンジョンのモンスターが出てきて自分達へ襲い掛かってくるのでは?冒険者は自分達の利益のためにダンジョンのモンスターは出てこれないから安全なんて嘘を言っているのかもしれない」と。 

 そうした恐怖からさっさとダンジョンを消してしまおうとする者はどうしても現れる。ダンジョンの核がダンジョンを創りだしていることは割と一般人でも知っているらしく、実際に辺境の村の近くで発見されたダンジョンが村の若者や自警団が集団でダンジョンへ乗り込まれ、核を破壊されギルドが認知する間もなくダンジョンが消滅してしまったようなケースは少なくない。


「壊そうとする連中を悪くは言えないさ。安全を証明することができない冒険者ギルドにも非はある。説明をしても納得してもらえないならそれは説明をしたうちには入らん。だけどな、ダンジョン(コア)はまだまだ解明されていないことがたくさんある未知の物質なんだ。素人がおいそれと触っていいものじゃない。安易に壊すことでどうなるかわかったもんじゃないんだ。ダンジョンが消滅するだけならまだいいさ。例えば核を破壊したことでダンジョンを形作るエネルギーのようなものが暴走して周囲の空間を巻き添えにどっかーん‼…みたいなことだってありえる。何が起きるかがわからないからこそ下手に触るべきではない。…以前俺の知り合いがやらかしたことを覚えているか?」

「ああ、ダンジョンの核をいじくって出現するモンスターやダンジョンの範囲をいじくろうとしたんだったか。」


 クロノスに言われリリファはとある冒険者を思い出す。そいつは何か月か前にミツユースの近くにあるダンジョンのひとつを勝手に改造して迷惑をかけまくってくれたのだ。


「下手にいじくられたら放置するより怖いからあの時は核を破壊した。だけど壊した時、俺は内心ひやひやしていたぜ。マジで何が起きるかわからないからな。爆弾というのは爆発するかしないかわからないものが一番恐ろしいんだ。」


 あの時クロノスはそのダンジョンの核を破壊していた。本来なら暗黙の了解で破壊を禁止されている核の破壊行為をしたのはそういうわけだったのだ。


「そもそもそれ以前に素人がダンジョンの核まで辿り着くのは難しい。核まで辿り着けるのは難易度が低いダンジョンの話だけであって、実際は途中でモンスターや罠によって力尽きるケースがほとんどだ。勝手なダンジョン攻略で村の若者を多数失った後に泣きついてきてダンジョンの存在が発覚というケースもある。さっきも言ったがダンジョンの保護はどちらかと言えば一般人を守る意味合いが強い。」

「それならそもそもダンジョンに挑戦すること自体が間違いじゃないの?」

「それはまぁ…だけど仮に誰も入ってはいけないという風にしても、冒険者は勝手に入るだろ。なんせ攻略すればお宝ザックザクなんだから。その土地の持ち主もダンジョンを攻略させればギルドを通じてショバ代が入る。魅力的なダンジョンだったらそこを中心に街が発展する。前に迷宮ダンジョンのある迷宮都市へ行っただろう?あそこがいい例だ。だから壊すのとは逆に村や集落がダンジョンを秘匿して自分達だけのものにするっていうケースもある。何もない退屈な暮らしを一転させる財宝が手に入れられるかもしれないってのは可能性の話だけでも大変魅力的。辺鄙な村が急に栄えたと思ったら、実はそれはダンジョンの存在を隠して村人がそこから財宝を持ち帰っていたからだった…って事件もあったな。」

「しかし何の準備も情報もない素人が迂闊に入ってタダで済むはずがない。無茶な素人冒険でたちまち怪我人が多発して、そのうちばれてしまう。」

「そうだぞリリファ。壊すにせよ独占するにせよダンジョンは一般人が触れていいもんじゃない。だからギルドでは新しく発見されたダンジョンの報告にそれなりの報酬を与えさっさと自分達の把握下におけるようにしている。まとまった金の魅力の前にはいつまでも隠し通せないからな。そしてギルドは見つかったダンジョンへの入り口を冒険者ライセンスを持つ者のみが侵入できるこういった特殊な魔術を加えた壁で囲って、冒険者のみが挑戦できるようにしているわけだ。壁という存在があれば外から中へ入ろうとする輩を阻止するだけでない。中からモンスターが出てくると思っている連中を安心させることもできるんだ。真実を知っている者と知らない者、その双方を納得させる元も安易で安価な方法がこの壁と言うわけさ。」

「へー、壁で囲うのにそんな理由があったんだね。ただ危ないからってだけじゃないんだ。」

「根本的にあるのは安全上の理由さ。ダンジョンの中にはとても難易度の高いところもあるし、障壁の中には一定以上のランクのライセンスでしか通行を許可しないものも…長くなってしまったな。これは帰ってからの雑談にとっておこう。」


 四人がそれぞれ自分のライセンスをかざす。先ほどクロノスがやったようにまたも壁は消失して阻むものはなくなった。四人はゆうゆうと通過して、その先にあるダンジョンへと続く空間の裂け目を目指す。

 


 冒険者のライセンスカードを使って消したレンガの障壁を越えた先。そこは大して深くもなかった。ほんの十数メートルほどの距離を歩くと、すぐにダンジョンへと繋がる空間の裂け目がそこにあったのだ。

 裂け目自体は肉眼では確認することはできなかったが近くの壁にギルドが設置したランプが灯されていたので明るくなった空間がゆらゆらと不自然に揺らめき、その存在に気付くとができた。このランプも特殊な魔道具で、一度設置すると取り外さない限り炎が消えないつくりらしい。こんなことならこれは必要なかったとアレンがもったいなさそうに持っていたたいまつの火を消していた。


「じゃあ入るぞ。着いてこい。」


 一番にクロノスが空間の裂け目に近づく。一切の躊躇もない歩み。手の先が裂け目の輝きに触れそうになった瞬間にその場が光り輝き眩しくなる。

 次の瞬間にクロノスの姿はすっかり消えてなくなった。ダンジョンへ空間転移したのだろう。リリファ、アレン、セーヌの三人もそれに驚くことなく後に追って消えた。



――――――――


 ダンジョンへ入ったクロノス達を待ち受けていたのは、うっそうと茂る青々とした葉の木々たちによってつくられた森だった。しかしそれだけのことで特別なことはなにもない。洞窟の中から元居た森の中へ戻っただけにも思える。

 どこもかしこも木、木、木…それとそいつらを繋ぎ止める草だらけの地面しかない。洞窟の中は日の当たらない真っ暗闇だったはずだが、いまは青いお空に白い太陽が昇っている。


「森のダンジョンか。木も普通のばかりで一本一本に至るまで何の変哲もないな。」

「ですがリリファさん、不思議なものでございますね。さっきまで私たちは洞窟の中にいたはずだというのに今は森の中ですよ。」

「そりゃ洞窟の中にいたのにいきなり森があるのは少し驚くが…」


 ごく普通の森の景色にリリファはつまらなさそうにしていたが、セーヌは反対に光景に見とれていた。瞬間的にまったく別の景色に切り替わった不思議な感覚は彼女の感性に触れるものがあったのかもしれない。このような体験は彼女も冒険者として何度も体験しているはずだが、やはり慣れない者にとってはいつまでも慣れないのだろうか…セーヌが後ろを振り返ったがそこに洞窟のある岩場など影も形もなく、空間にできた白く光る亀裂があるだけだ。


「セーヌにとっては面白いのかもしれないが、私はもっとこう地面の土が残らずピンク色だとか、そこらじゅうの木がけたけたと笑い出すだとか、もっと現実とは違う要素をダンジョンに期待しているんだ。ミツユースのダンジョンはどれもこれも普通でまったくもってつまらん。」

「そうは言うがなリリファよ。やはりダンジョンは柔らかく言えば不思議で、厳しく言えば異常な場所だ。その辺の草木をよく見て見ろ。ミツユースの土地じゃ見慣れない種類が混じっている。俺はそこまで植物に詳しいわけではないが、もしかしたらあの中にはとうの昔に滅んだものや、もしくは現実にそもそも存在しない草のひとつやふたつ、どこかに混ざっているかもしれないぜ?」


 クロノスの言う通りでよくよく草木を見てみれば、馴染みの植物に混じって見慣れない形の草が混ざっている。しかし特別な価値を感じないので大したことはないのだろう。当然前に来た冒険者が記録をとり報告済みだろうから改めて調べる必要もなさそうだ。


「それに君の望むような非現実的な光景のダンジョンはたいてい難易度が高いから、景色を楽しんでいる余裕もないんだぞ。死と隣り合わせの冒険と非現実的な体験で頭がやられてそのまま廃人まっしぐらだ。そういうダンジョンを探検するようになると、逆にこういう見慣れた景色をゆっくりと眺められることに安心感を抱くようになるものさ。ミツユース周辺のダンジョンは難易度がそこまで高くはないが、逆に言えば基礎を学ぶのにはうってつけだろう。」

「ふぅん…あ、そういやこのダンジョンはなんて名前なの?おいら知らなかったかも。」

「おいおい、自分が冒険する場所の名前くらい前もって調べておけよ。ここは…その名も「洞窟茂り」さ。」

「洞窟茂り…なんか変な名前だね。」


 ダンジョンの名前は踏破した文字数の上限以外は者の自由でルールは一切ないが、だいたいはダンジョンの特徴をよく表したものになる。ゴブリンばかりが出てくる林の中にあるダンジョンだから「ゴブリンの林」。海岸整備で砂浜を掘っていたら出てきたから「海浜の堀中」。洞窟の中で火炎の玉が飛んでくるから「前方火炎玉要注意の洞窟」。入って三歩目のところに落とし穴があるから「初見殺しの落とし穴」。強力な守護者(ガーディアン)「ケルベロス」…通称ポチが出現するから「ポチの犬小屋」。ミツユースの周辺の他のダンジョンもそんな感じだ。


 ああ、守護者(ガーディアン)というのはダンジョンの重要部分を守る手強いモンスターだ。大抵は最深部に待ち構えていて、完全踏破の最後の壁となる。倒すと魔貨や貴重な宝を落とすのだが、いないダンジョンにはいない。このダンジョン「洞窟茂り」にも守護者はいないそうだ。

 なお守護者は倒すとダンジョンごとに数日から数週間の一定の期間を経て復活してまた戦うことができる。先も言ったように倒せば質のいい宝が手に入る可能性が高いので、ダンジョンを攻略するパーティーの実力と守護者の復活期間がかみ合うなら、それはそのパーティーにとって効率のよいダンジョンと言えるだろう。もちろん手に入る宝などの換金効率も考慮しなくてはならないが。


「なんかどれもこれもセンスがないよね。おいらだったらもう少しマシな名前をつけるよ。」

「ダンジョンの名前は冒険者個人のセンスに依存しているからなぁ…これでもマシな方さ。命名の権利は譲渡可能だから、冒険者の中には名前をつけるのを面倒くさがって権利を誰かに売ってしまうヤツもいる。その権利が宣伝目的の商会や団体に渡るとたちまち「いい肉売ってるハルファー精肉商会」だの「古文書保護ならオンバルヤ古文書保護協会」だの、ぜんぜんダンジョンと関係ない名前をつけられてしまう。かえってマイナスの印象になるとか思わないんだろうか。」


 ちなみにこれらはクロノスの思い付きのたとえではなく、実際に大陸に存在する正式な名前のダンジョンなのだ。ただしそれを名付けた商会も団体も既にこの世になく、変な名前だけが残っているだけだそう。ちなみに冒険者の間では酒の席でしばしば「大陸でもっともダサいダンジョン名議論」という不毛な話題が出ることがあるのだが、満場一致は「~偉大なるアイスファー・コッサク・ハルトマン猊下先生を称える会一同より~」らしい。頭と尻に「~」がつくのがダサさの極みなんだとか。なお名前に反してダンジョンの難易度は最高クラスでこれまでに二百人を超える死者行方不明者が出ている。


「どいつもこいつもセンスがなくて嫌になるな。もっとダンジョンの特徴を捉え、命名権利者の主張を奢りすぎずかつ謙遜すぎないスマートな名前をつけてほしいもんだぜ。」

「ならばクロノスだったらこのダンジョンにどんな名前をつける?」

「…草木ボーボー森の中。」

「…」

「いやいいだろ‼名前でどんなダンジョンか想像つくし‼ぜったい他と被らないし‼いいじゃん草木ボーボー森の中‼」

「わ、私は…素敵、だとっ、思うのでございますよっ…‼」

「下手に褒めなくていいぞセーヌ。袖で口元を隠しても引きつってるのわかってんだからな‼」

「クロノス兄ちゃんのセンスのなさはおいといて…それよりもここを攻略した冒険者はどういう意図があってこう名付けたんだろう。もしかして洞窟の中からうっそうと茂る森林に出るから…とかだったりして。」


 アレンはダンジョンの名前よりも、それを名付けた名付け主の意図の方に興味があったようだ。ダンジョンの名前は、そのダンジョンを一番最初に踏破した冒険者のグループに命名の権利が与えられることになっている。この場合の踏破とは最深層まで辿り着くことだ。いや、辿り着いて無事現実世界へ戻って最深層まで行ってきたことを報告するところまでだろうか。ダンジョン攻略は帰ってくるまで攻略なのでたとえ最深層まで辿り着いたとしても帰りの途中で力尽きたのならで失敗扱いになる。


「ダンジョンの名前かぁ。おいらもいつかどこかのすごいダンジョンを一番最初に攻略して、初踏破者としてダンジョンにカッコいい名前をつけて自分の名前も遺してやりたいや。名前が遺るってのは冒険者としてとっても名誉なことなんでしょ?」

「ああ、なにせ自分が死んでも名前と偉業が後の世に語られ続けるんだ。何百年も前の人間なのに未だに名を知られた有名な冒険者の名前は君もいくつか知っているだろう。」

「うんそうだね。「万夜砂漠物語」に出てくる「シンド・バッド」、「冒険少年シリーズ」の「トゥム・ソーヤー」、「七つ海の覇者」の「ガオリ・バー」とか…有名なのは学校の読書の授業で読んだことあるよ。あとは…」

「おい、いい加減に進まないか。」


 話題が弾んでいたがリリファに注意されてしまった。さすがにこれ以上は雑談のレベルを超えるので打ち切りだ。


「よし、では出発の前に確認。ダンジョンから帰りたければそこの空間の裂け目に飛び込めばいい。そうすりゃ元の洞窟の中だ。小さいダンジョンだからないと思うが、もしはぐれて迷った場合は必ずここへ戻ってこい。まっすぐに引き返せば戻って来れるはずだ。」

「それは知ってるよ。忘れ物をしちゃだめだってこともね。」


 ダンジョンに持ってきた武器や道具を置き去りにするといつの間にか消えて失われてしまう。しかし二度と戻らないというわけでもなく、何か月も経って別の冒険者が宝箱を開けたらそこにアイテムとして入っていたとか、出現したモンスターがその装備で武装していた…なんてこともあるそうだ。なのでダンジョンへ挑戦する冒険者向けに、冒険者が特定のダンジョンで無くした武器が見つかったら返してほしいという依頼をが時々出ることもある。

 幸いなことに今回この洞窟茂りのダンジョンではそういった失せ物探しのクエストは出ていないので、余計な寄り道をせずさっさと地図の未記載エリアを調べて帰るだけでいい。先述の通りこのダンジョンには守護者もいないのでそこまで危ない戦いはないだろう。


「長時間の休憩もやはり一度ダンジョンから出て行うべきだろうな。洞窟の中は壁に囲まれているからダンジョンからも現実の外からも敵はこない。まぁ途中で引き返さないのが理想だけどな。さて、改めて探索しなくてはならない場所の再確認だ。」


 クロノスは持っていた地図を小さめに広げて目当ての二か所をとんとんと指で突いて指し示す。そこは二層目と四層目の情報が書かれている場所で、マップの一部が真っ白な状態のところだった。


「二層目と四層目にある未記載エリアの詳細な地図の記入…それから最深部の七層目を改めて見てきてほしいそうだ。」

「二層目と四層目は地図が埋まっていない場所だけど…なんで最深部まで?そこは最初に調べられているよね?地図もちゃんと描かれているし。」

「ダンジョン(コア)の確認をしてきてほしいんだと。本来はダンジョンを攻略する冒険者に定期的に見させるそうだがここは半年前に確認されて以来それきりだからな。それに最深部かと思いきや更に深い階層に繋がる隠し通路や未確認の財宝の眠る隠し部屋の可能性もある。人気のないダンジョンは最深部へ行くのも面倒くさがって最初以外は誰も調べないこともよくあるからな。ここには「帰還の魔法陣」を設置しないから最奥まで行くと歩いて入り口へ戻るのも酷…そうそう、それだよ。帰還の魔法陣。うっかり忘れるところだった。さっきセーヌに確認しておいてもらったのに俺ってばうっかりさんだな。」

「帰還の魔法陣?おいら初めて聞くよそれ。」

「ダンジョンに置いておいても消えない特殊な魔道具の一つだ。二か所に設置して片方に乗ると一瞬でもう片方を置いた場所に出ることができるんだ。だからダンジョンに入ってすぐと最深部に置いておけば、一番奥に着けばそのまま入り口まで戻ることができる。」

「わざわざ歩いて帰る必要がないんだね。迷宮都市の迷宮ダンジョンにあった帰還のクリスタルみたいなもんかな。」

「それを研究してつくったと聞く。預かってきたのは入り口に戻るだけの一方通行の安物だが、一番奥からまた歩いて帰るのは面倒だからな。最深部まで行けた奴は置いておく決まりなんだ。このダンジョンは最深部まで行く奴がいないから、もしかしたら誰も設置していないんじゃないかって言われていてな…見たところこの辺には設置していないようだしな。」


 帰還の魔法陣の片方はよほどの理由がない限りダンジョンに入ってすぐの場所に見えるように設置しておくものだ。しかしここは周囲を見渡してもそれらしきものはまったく見受けられない。誰も設置しなかったかもしくは耐用年数が過ぎて自然消滅したのだろう。片方がないということは最深部にもない可能性が濃厚である。


 このダンジョンに帰還の魔法陣は設置されていないと判断したクロノスは、セーヌに持たせていたなんでもくんの中から巻物(スクロール)を取り出させると、それに結ばれていた紐を解きするすると開いていく。


「それが帰還の魔法陣か…私も初めて見たな。これまで挑んだダンジョンはどれも短いものだったから置いていなかったんだ。これは入り口に置いたものから逆に最深部へ行くことはできないのか?」

「ギルドがくれる共用で使うのは一方通行の安物だよ。長期間経つとダンジョンの修正力に飲まれて消える。もっといいヤツだと簡単には消えないし相互通行でこちらから向こうへ行くこともできるが…それは個人で購入して使うんだ。例えば長いダンジョンを攻略中に一度帰りたくなったとする。そしたらこれを進んだところに設置して、一度ダンジョンから帰還。そして外で準備や休息をしたらまた途中まで転移して続きから攻略を再開…ってな具合にも使える。」

「それは便利だな。いちど通った道をまた進まなくていいし、労力も荷物もぐっと減らせる。」

「ただ相互通行は高級品だから買えるパーティーは限られる。稼ぎからして最低でもC級くらいのパーティーでないと払えたもんじゃない。買えたとしてもダンジョンの攻略の稼ぎが割りに合わないケースも多いから使いたいダンジョンがあっても事前の情報を吟味して、よほどのことがない限りは使わない。少なくともこんなダンジョンに使うものではないさ。」

「個人で設置した魔法陣の方は誰にでも使えるのか?」

「いや、起動に符号…鍵となる呪文(スペル)が必要だから、誰かに教えない限りは設置したヤツとその仲間しか使えないようになってる。他人が使いたければそいつらに頼むしかないな。見返りに金を出すとかギルドに提出していないダンジョンの秘密の情報を共有し合うとか…その辺は冒険者同士の駆け引きだな。…よしできた。」


 話をしながらクロノスががさごそとやっているうちに、帰還地点用の魔法陣の設置が終わったようだ。それは巻物(スクロール)に魔法陣が描かれただけのものに見えるが、アレンには魔術の知識がないので魔法陣の意味もわからない。とりあえずなんかすごい技術ということだけわかった。


 クロノスが立ち上がり巻物(スクロール)から離れてから指をぱちんと鳴らすと、巻物(スクロール)に青い炎がついてそのまま燃え出してたちまち全体が炎に飲みこまれる。

 しばらくして巻物(スクロール)が燃え尽きると灰の中から描かれていた魔法陣が浮き上がり、風が巻き起こって灰を飛ばすと地面に張り付いてにぶく、そしてちかちかと光りだした。


「光ってるけどこれでつかえるようになったの?」

「起動はしたがまだ使えない。こっちは()()だから後は()()にあたるもうひとつを設置しないとだな。これで目的の一つは終了だ。残りもこの調子でいくぞ。」

「まだ来たばっかりだけどね。」


 帰還の魔法陣の設置も終えてやっとこさダンジョン攻略の開始だ。




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