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第0回「美少女YouTuberが癒しちゃうぞ」⑵

 今日もむごい一日だった。



 壮介はゴミ出し当番だったため、始発電車に乗って出社した。

 無論、この雑用に時間外手当は発生しない。



 昼休みには、社長に突然、「お前、ひまだろ」と声をかけられ、トイレ掃除を命じられた。

 無論、この掃除時間も休憩時間にカウントされる。



 壮介が仕事から解放されたのは、午前2時であり、終電は終わっており、タクシーで帰らざるを得なかった。

 無論、残業代もタクシー代も支給されない。




 自宅アパートになんとか生還せいかんした壮介は、ふるえる手でドアを開け、ふらつく足取りで玄関に現れる。

 

 仮にあなたがこの様子を監視カメラで見ていたとすれば、きっとこう思うだろう。

 「バイオハザードのゾンビだ」と。

 壮介は真っ青な顔をして目からは生気が失われてるから、その勘違いはいたし方ない。壮介自身、誤射ごしゃされる覚悟はできている。


 それから、あなたはこうも思うだろう。

 「この男は、このまま布団になだれ込むだろう」と。

 実際、壮介の眠気ねむけは限界を突破している。気絶しそうなくらい眠い。


 

 しかし、壮介には眠る前に必ずすることがある。それはシャワーを浴びることでなければ、歯を磨くことでもない。そんな健全なライフスタイルとはとっくに縁を切っている。



 壮介は、ワンルームの一角に置かれたデスクトップに向き合うと、電源を入れた。


 壮介はシステムエンジニアであり、仕事でパソコンを嫌というほど扱っている。しかし、このときばかりは、ファンの回る音に気持ちが高まる。蓄積ちくせきされた眼精疲労がんせいひろうも感じることはない。

 

 壮介は、ショートカットを駆使して、即座にお目当てのページに飛んだ。



「お、今日もちゃんと更新されてる。偉い偉い」


 壮介はほくそむ。こんな表情は会社では一切見せたことがない。



 壮介が再生ボタンを押すと、画面一面がパステルピンクに転換し、舌足らずで、少し気怠けだそうな声がスピーカーで反響した。



「美少女YouTuberのいのいのワクワクコブラパーク!」


 チャンネル名がコールされ、壮介の心臓の鼓動こどうが弾けた。

 

 パステルピンクの下地に、「美少女YouTuberのいのいのワクワクコブラパーク」というパステルイエローの文字が浮かぶ。正直,配色ミスで文字はめちゃくちゃ読みにくい。


しばらくして、画面が切り替わる。そこに現れたのは、宣言どおりの美少女だった。



 天城乃依あまきのい。愛称はのいのい。



 のいのいを一言で言うと、「世界一可愛い女の子」である。


 顔の面積の3分の1くらいを占める大きな目が世界一可愛い。

 ハッキリ二重とポッテリ涙袋も世界一可愛い。

 丸い輪郭りんかくも世界一可愛い。

 わし鼻も世界一可愛い。

 薄い唇も世界一可愛い。

 鼻と唇の間のスペースも世界一可愛い。

 

 どう考えても世界一可愛い。それがのいのいだ。異論は認めない。



 のいのいは、モニターを鏡替わりに使い、前髪を調整する。明るい茶髪が世界一似合っている。少し前までは黒髪にしていたが、それも世界一似合っていた。

 背中まであるロングヘアーが世界一似合ってるが、きっとショートヘアーも世界一似合うのだろう。



 のいのいの世界一おつよい顔を見るだけで、壮介の疲れはすべて吹き飛んでしまう。明日もまた頑張って理不尽に耐えよう、という気分になる。



 のいのいは壮介にとって絶対的な女神様めがみさまだった。壮介の心を癒してくれる唯一の存在だった。


 のいのいは前髪を直したあとで、今度はカメラの位置を直そうと、手を伸ばす。

 壮介の興奮のボルテージは最高潮さいこうちょうに達する。

 その理由は,男ならば誰しも知っていることだろう。


 そう。その格好だと胸の谷間が見えるからだ。



 のいのいは推定Dカップ。


 そう。世界一ちょうどいいサイズである。



 今回の配信は、のいのいの自宅からだった。


 のいのいは殊勝しゅしょうなことに、毎日欠かさず配信を行っている。

 

 カラオケボックスや今流行りのカフェなど、配信場所は多種多様であるが、さすがに毎日場所を変えて配信するわけにもいかないのだろう。2日に1回くらいは自宅の部屋を配信場所に使っていた。



 のいのいは自宅ではいつもベッドに腰掛けながら配信をする。

 ベッドにはキャラクターのぬいぐるみがところせましと並んでいる。いずれもUFOキャッチャー企画配信でのいのいがゲットしたものである。



「みんな、こんばんわ。のいのいだよ。のいのいの配信待ってた?」


「待ってた!!」


「ありがとう。のいのい、今日も可愛い?」


「可愛い!!」


「ありがとう。あなたのことが大好き」


 壮介とのいのいとの間で会話が成立しているようにも見えるが、実際には、のいのいに一視聴者である壮介の声がパソコン越しに届くわけではないし、そもそも壮介が見ているのは録画された配信である。


 いわゆるお決まりのコールアンドレスポンスなのだ。

 ほぼ毎回の配信がこのコールアンドレスポンスから口火を切る。



 さて、世界一可愛いのいのいにも、YouTuberとしては、実はある致命的ちめいてきな欠点がある。


 世界一の可愛さをもってしてもおぎなえないほどの大きな欠点が。




 それは、配信がクソつまらない、ということである。



今日は競馬で3万円近く勝ったので機嫌が良いです。

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