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第0回「美少女YouTuberが癒しちゃうぞ」⑴

 「ブラック企業」という言葉が世間に広まり、流行語大賞にもノミネートされてから、もう何年も経つ。



 だいたい流行語というものは、短命で、流行ると同時に廃れていくものである。

 流行語大賞に選ばれる一発ギャグは、だいたい受賞の頃までには廃れており、表彰式でトロフィーを掲げる芸人を見て「ああ、懐かしい。こんな一発屋いたね」となるのが恒例こうれいだ。

 にもかかわらず、「ブラック企業」という言葉は、いまだに生き長らえている。それどころか、さらにさらに勢力を増しているのではないか、とすら思える。




 谷地壮介やちそうすけが務める「ブラック企業」は、少なくとも社員たちの間では、「元祖ブラック企業」と呼ばれている。

 もっとも、本当の意味での「元祖」ではない。

 そのことは、実は、この会社が、「ブラック企業」が流行語大賞にノミネートされた翌年の2014年に設立されたことから、いとも容易く裏付けられる。

 それにもかかわらず、少なくとも社員たちの間では、この会社が「元祖ブラック企業」と呼ばれるのには以下の理由による。



①  過重労働・違法労働・パワハラの三拍子がもれなく揃っている


② 会社の名前が、「黒岩システムサービス」である


③ 社長の名前が黒岩容一くろいわよういちである


④  事務所が黒岩ビルにある


⑤ 社長の黒岩容一には黒い繋がりがあるらしい



 こうやって整理してみると、②から④はほぼ重複している。社名に社長の名を冠する、持ちビルに事務所を構える会社の、社長の名字が「黒岩」というだけの話だ。


 また、①は、「ブラック企業」を名乗るための必要条件に過ぎない。

 無論,普通に考えたら超ヤバイし、ぜひとも労基署ろうきしょには動いて欲しいところではある。

 しかし、悲しいことに、この国にはこの手の会社が蔓延はびこっている。



 とすると、この黒岩システムサービスを「元祖ブラック企業」たらしめてる要因は、結局⑤ということになる。


 一応断っておくが,黒い繋がりはあくまでも噂である。


 しかし、黒岩容一は、事務所において、常に左手はポケットに突っ込んだままで、決して外に出さない。

 食事をするときも、スマホもイジるときも、タバコを吸うときも、黒岩は全て右手一本で済ます。

 黒岩システムサービスの仕事においては両手を使わないとできないことが大半であるが、そもそも黒岩は仕事を何もしない。


 つまり、社員は誰一人として黒岩容一の左の小指の存在を現認げんにんしていないのである。



「社長に逆おうものならば、金属バットでメッタ打ちされて、東京湾に沈められる」。


 これが黒岩システムサービス社員の共通認識であり、社長には絶対服従という、暗黙あんもくかつ暗黒の社訓しゃくんを生み出している。



 社員旅行も、地獄だった。行き先が北海道の登別温泉のぼりべつおんせんだったので、社員は至極当然に温泉旅館に宿泊し、温泉で日頃の疲れを癒せることを期待していた。


 しかし違った。


 社員は暖房器具だんぼうきぐのないプレハブ小屋のようなところに宿泊させられ、温泉の代わりに、毎朝,倶多楽湖くったらこでの寒中水泳かんちゅうすいえいを命じられた。社長は、社員が裸同然で冬の冷たい湖に飛び込む姿を,ベンチコートに身を包み,き火にあたりながら眺め、たいそうご満悦まんえつの様子だった。


 これでは社員旅行ではなくて合宿である。いや、ただの拷問である。

倶多楽湖に死体が浮かばなかったことが奇跡に近い。



 黒岩システムサービスの離職率は驚異の80%超えを誇る。


 理不尽な理由により、ときには理由すらなく、社長の一存でクビになった社員もいるにはいるが、ほとんどの社員が自主退職で会社を去っている。


 一部の賢い人間は、働き始めてすぐにこの会社が黒黒くろくろであることに気付き、早々に退職願を提出することができる。

 

 さらに賢い人間は、退職願を受理するしないという一悶着ひともんちゃくを避けるために、黙って蒸発ぶことができる。


 しかし、大半の人間はそう上手くはやれない。


 長時間労働に身体を壊され、社長のパワハラによってメンタルを潰され、もはや働くことができなくなってしまった結果、自主退職を余儀なくされる。

 退職後にはハローワークに行く前に、精神科におもむかなければならないケースが圧倒的に多い。



 そんな環境の下にあっても黒岩システムサービスに勤務し続ける2割弱の人間は、一体どんな超人なのであろうか、と気になるところだろう。

 

 実際に壮介の目から見て、超人としか思えない同僚もいるにはいる。


 総務の礒野いそのは、社長にこっぴどく叱られても三歩歩けば忘れてしまうニワトリ超人にしか思えないし、人事の里中さとなかは社長に殴る蹴るの暴行を受けても一切辛いそぶりを見せないカメ超人、もしくはドM超人だ。



 では、壮介も同様に超人なのだろうか。



 否、それは違う。



 壮介は普通の人間である。


 こっ酷く叱られたら、普通にへこむし、殴る蹴るの暴行を受けたら、普通にいたい。


 むしろ、どちらかといえば、壮介は打たれ弱い方だ。ちょっとしたことですぐにお腹が痛くなる。




 それにもかかわらず、なぜ壮介は「元祖ブラック企業」での勤務を続けられるのか。



 答えはシンプルである。



 壮介には心の支え-絶対的な「癒し」があるのだ。




皆さま,かなりご無沙汰してます。菱川あいずです。


久しぶりの作品が推理小説でなくてごめんなさい。


ただただ僕が書いてて楽しいだけの作品です。現状,めちゃくちゃ筆が進んでますので,毎日アップすることを目指します。


本当にくだらない作品ですが,ご愛顧いただけると嬉しいです。

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