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10/23

バレンタイン番外編「金のクチバシが出るまで帰れません!!」⑴

本編の流れを一旦ぶった切る形になってしまうのですが、季節ものなのでこのタイミングでアップします。

 2月14日、バレンタインデー。


 多くの男性と同様に、壮介は元々バレンタインデー廃止論者だった。


 男性は日頃より、背の高さ、鼻の高さ、脚の長さ、腕の筋肉といったあらゆる評価要素(ただし、それらは全て「ルックス」の範疇はんちゅう収斂しゅうれんする。)によって格付けされている。

 そうやって世の女子達に築かれたピラミッドを年に1度可視化しようという、あまりにも悪趣味なイベント、それがバレンタインデーなのである。


 クラスの人気者や社内のイケメンがチョコを独占し、ピラミッドの底辺にいる者たちへのトリクルダウンは期待できない。越◯リョーマ君など、二次元のキャラクターですら大量のチョコをもらえるご時世じせいであるにもかかわらずである。

 敗者のなすべきことは、羨ましげに上を見上げながら、たまに訪れるマリンスノウー義理チョコが降ってくるのを、口をパクパクさせて待つだけなのだ。




 しかし、今年の壮介は違う。



 なぜなら、壮介には同棲している女性がいるのだ。

 その女性は「妻」でも「彼女」でもないが、おそらくチョコレートをもらえる関係にはあると思う。


 非リア29年目にして、壮介もついにバレンタインデーの勝者となる資格を得たのだ。




 バレンタインデー当日、壮介は期待と興奮の最中にあり、四六時中ソワソワしていた。

 他方、同棲している女性ーのいのいには、普段と特段変わった様子は見られなかった。

 いつもどおりゴロゴロしながらスマホを操作するだけなのである。



 まさか、のいのいは今日が2月14日であることに気付いていないのではないか。


 そう思って、壮介は、のいのいに、


「今日何の日か知ってる?」


と直球で尋ねた。


 すると、のいのいは、スマホを見ながら、


「バレンタインデーでしょ。壮介君には縁のない日だね」


と直球で返してきた。

 完全にデッドボールである。



 期待を裏切られた壮介の目から涙がにじみ出る。こんな姿をのいのいに見られるのはあまりにもみじめである。




 壮介は、特に用事はなかったが、居たたまれなくなり、家を出た。



 行き先も決めずに外に彷徨さまい出た現代人がまず行く場所といえば一箇所しかない。コンビニである。


 壮介はブラリと近所のコンビニに立ち入る。


 入店と同時に、壮介は激しいめまいに襲われる。


 チョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコ。


 陳列棚にあるのはチョコばかりなのである。

 コンビニに行けばこんな簡単にチョコが手に入るのに、のいのいはその手間すら壮介にかけられないという残酷な現実を目の当たりにし、壮介はさらにむなしくなった。



 コンビニを出た壮介は、少し時間を潰そうと近所の公園に足を運んだが、あまりにも軽率だった。

 公園のベンチでは若いカップルがイチャイチャしており、さらに壮介の心を砕いたのである。




 結局、壮介は帰宅することにした。


 悔しいが、他に行き場はなかったのである。



 しかし、壮介を待ち構えてた残酷な現実は、壮介にさらなる追い討ちをかけた。

 


 なんと、自宅のドアにはチェーンロックが掛かっていたのである。



 壮介はドンドンとドアを叩く。



「おい、のいのい、何のつもりだ!?開けてくれ!!」


 しかし、返事はなかった。


 チェーンで繋がったドアの隙間からは、間違いなくのいのいの姿が見える。



「おい!!立てこもるな!!!一体誰の家だと思ってるんだ!!!」


 さらに壮介がドンドンドンドンとドアを叩き続けると、ついにのいのいが玄関までやってきた。



 のいのいはドアを開けることなく、言葉を発することなく、ドアの隙間から、ジェスチャーで壮介に何かを伝えようとした。


 のいのいは、自分の耳のあたりを指差した。のいのいの耳には、ワイヤレスイヤホンが付いている。



「音楽を聴いてるから、俺の声が聞こえない、って言いたいのか?」


 壮介の声に反応し、のいのいがうんうんと深く頷いた。

 なぜこの子はこんなにも人をナメ腐っているのであろうか。


 その次に、のいのいは、壮介の足元のあたりを指差した。



 壮介がのいのいの指の先見ると、アパートの共用部分にジングルが置いてあった。

 その隣には、メモ用紙が折り畳んで置いてある。


 壮介がそのメモを広げて読み上げる。



「今日の美少女YouTuberのいのいのワクワクコブラパークの企画は、『金のクチバシが出るまで帰れません!!』だよ。壮介君、頑張ってね」


 のいのいは握りこぶしを作り、ファイト!とポーズで伝えると、そのままバタンとドアを閉めた。



 あいつ、またクソみたいな企画をひらきやがって……。




 とはいえ、壮介には指示にしたがう以外の選択肢はなかった。


 壮介は、ジングルに自分のスマホを装着し、まずは自分の顔に向けた。

 我ながら絵にならない顔である。この顔ではPV数は稼げないだろう。

 壮介は基本的に自分を映さず、スマホカメラは外側に向けることとした。




 金のクチバシを求め、まず赴いたのは先ほどのコンビニだった。


 壮介は、とりあえず店にあった全てのチョコボールをカゴに入れ、レジに向かった。



 壮介がレジカウンターにカゴを置いたとき、店員は不思議そうな顔をした。


「これ、全部ご自身で召し上がるんですか?」


「ええ、まあ」


 店員は、「女からチョコがもらえないからヤケになってチョコを買い漁った非モテ野郎」という目で壮介を見た。仮に否定をすれば、「職場の男子全員にチョコボールを配る精神年齢の低いゲイ野郎」という目で見られることだろうから、壮介にはどうすることもできない。




 コンビニの前の駐車場でチョコボール開封式を始めた壮介は、早速、究極の2択に追い込まれた。


 

 開封したチョコボールを食べるか否か。



 金のクチバシが出るまでチョコボールを食べ続けるのは正直言って辛い。

 虫歯にもなるだろう。


 しかし、クチバシの色だけ確認し、中身のチョコボールを全て捨てていくとすれば、それはあまりにも食べ物を粗末そまつにし過ぎており、視聴者からバッシングされる可能性がある。



 そして何より、苦しみながらチョコボールを食べ続ける絵がなければ、動画に面白みが全くない。



 壮介は、開封したチョコボールは全て食べ、食べ終わるまで次の箱を開けないというルールを採用することにした。




 金のクチバシの出現率は、おそろしく低かった。


 いくら開封しても、金のクチバシはおろか銀のクチバシすら出てこない。

 思い返してみると、壮介は幼少期においても金銀のクチバシに出会ったことがない。ミッションは限りなくインポッシブルだった。



 結局、壮介はチョコボールを求め、2店舗目、3店舗目、4店舗目…とコンビニを巡り、その度にチョコボールを買い占める羽目になった。



 普通の味のチョコボールは食べ続けるとピーナッツを噛むのに顎が疲れるし、キャラメル味はさらに顎が疲れることを学んだ壮介は、5店舗目以降はイチゴ味のみを買って食べることにした。



ちなみに作者は今年は男性からしかチョコをもらっていません。

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