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少年のキオク①

「おばあちゃんおばあちゃん!」


 自分の背丈より大きな薪を両手に抱えた少年が、手作りの椅子に腰掛けた老婆に駆け寄った。


「あのね、今日またあのヘビを見たんだ! 黒くて、とても大きいやつ!」


 長く伸ばした金髪は襟足付近で結われ、彼が動くたび、ゆらりと光を揺らす。


「そうかい、そうかい。よかったねえ」

「僕もおばあちゃんに見せてあげたかったけど、すぐにどこかへ行ってしまうんだ」


 しょんぼりする少年の頭を、彼の祖母はシワの多い掌で優しく撫でた。そして、柔らかい声で話しかける。


「ねえザメハ。もしかしたら、それはこの森の神様かもしれないよ」

「かみさま……?」


 少年は首を傾げた。


「そう。そのヘビさんは、きっとこの森に住んでいる神様なのよ。きっとその神様は、ザメハのことを守ってくれているのかもしれないねえ」


 老婆はふふふと笑う反面、少年は片頬を膨らませた。


「でも、僕は子犬に引っ掻かれたよ」

「その時は神様に会ってなかっただろう?」

「確かに……!」


 少年は目から鱗が出るほど目を大きく見開いた。


「じゃあ、おばあちゃんのことも守ってくれるのかな!」

「どうだろうねえ、そうだといいねえ」


 老婆は目の周りにたくさんシワを作って微笑んだ。

 少年はその笑顔が大好きだった。

 シンリンの奥底に建てられた手作りの、小さな小さな小屋。

 そこではいつも、幸せが生まれるのである。



「そんな……」


 その日、少年の瞳の光が消えた。

 美しい木漏れ日の先に、それはあった。


 暗い森の奥で光るのは、白くくすんだような瞳。ソレの輪郭は熊のようであり、猫のようであり、どの動物かと言われても難しい形。体はこの森に生える大木に負けないほど広く高い。

 その生物が手に持つのは——少年の、家の破片である。


 ソレは口であろう部分を大きく開くと、そのガラクタを丸呑みしてしまった。

 その度にバリバリッと、木材が悲嘆をあげる。


「家っ、が……」


 ——あそこにおばあちゃんがいるのに。


 彼は真っ先に、世界で一番大好きな魔法使いを思い付く。


 しかし、駆けよろうとするも体が動かない。恐怖に足を取られているのだ。

 その時、少年は持っていた薪を地面に落としてしまった。


 ——ガランガランガランッ!


 軽く大きな音が木々の中で鳴り響いた。

 その音を聞きつけた真っ黒な生物は、少年の姿を視界に捉えた。


「あっ————」


 彼は反射的に後退った。

 だがしかし、彼も気弱な少年ではなかった。足元に落ちた薪を一つ拾い上げ、自分の前で構えた。


「おい! えっと……お前なんて怖くないぞ! 子犬なんかよりずっと怖くないんだぞ!」


 少年にとっては一番嫌な言葉を選んだつもりだ。そして、これが家を守る一番いい方法だった。


 そんな貧弱な少年に、無慈悲な生物は目にも止まらぬ速さで襲いかかってきた。

 けむくじゃらの手に鋭い爪。少年を包んでしまうほど大きい。


 少年は、人生で初めてといっていいほどの勇気を振り絞って、武器を振り上げた。


 ——ゴツンッ!


 少年の武器は空を切った。

 そのはずなのに、打撃音がしたのは何故だ。


 その前に立ちはだかったものを見て、少年は唖然とした。



 それは影に溶けたように黒く


 魔物に負けないほど大きな



 あの、大蛇であったから。



——つづく——

短編小説じゃないんですねわかります

あと彼についてを知らない人は作者にお問い合わせください

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