造られた瞳
第2週
私の名前はメガネ。またの名をグラッシーズ、またの名をオチキ、またの名をゲーリャ
という。へー‼︎ そうだったんだ‼︎
ところで君は、メガネをかけたことがあるだろうか。メガネをかけたことがない人は、今すぐこの画面を閉じて勉強をはじめなさい。さもなくば目に無駄な金を使うことになるぞ。メガネをかけてる人は、特に言うこともない。もう手遅れだ。
ちなみにこの私、メガネには相棒がいる。
黒い短髪の、17才の人間の男。最近、スマホばっかり見すぎて視力が低下。それが私を購入した理由である。
そう、私達メガネは、人間と共に生きるのだ。人間と共存し、割られて、ゴミ箱へ。
お兄ちゃん。ガラスは燃えないゴミに入れてくれよ。もしくは粗大ゴミにな!
そんなこんなでこの世界に生まれた私は、今日も机の上に放置されていた。
私の主人にしてはよくあることだ。勉強が終わると、私をケースに入れ忘れる。
私は彼を責めるなんてことはしない。
しかし——相棒だけでなく、人間のみんなに知ってほしいことがある。
それは————奴らのことだ。
「ぎゃははははは! また会ったなぁ、ヘナチョコガラス‼︎」
噂をすれば影、というやつか。
けたたましい笑い声が、私の体内に震えて伝わる。音というのは、空中より物体中の方が4倍も速く伝わるんだぜ。みんな! これも覚えて帰っておくれよ!
「どうしたぁ! また放置プレイされてるのかぁ⁉︎ かわいそうなダブルグラッシーズだなあ!」
どすどすと歩いてくる奴の後ろには、彼より小さな体の軍隊が付いてきている。
そう、彼らは我々の宿敵、「ザ・ホコリーズ」である。
空気中に舞う繊維がたくさん集まった、汚い奴らである。
「さあ今日は、どれだけ汚してあげようかなああ〜?」
じわりじわりと大軍がこちらへ近づいてくる。
まずい! 私が彼らにやられてしまえば、体中が真っ白になってしまい、相棒の視界を塞いでしまうではないか!
そうはさせるか! いけっ! トランスフォーム!
私はそう叫ぶと、アームを地面に押し付け、ガラス部分を持ち上げた。
「く、くそっ! トランスフォームか‼︎ あれをされてしまうと、ガラス部分に届かないじゃないか!」
ザ・ホコリーズの首相、ザ・メモリーは地団駄を踏んだ。
さあ、これで終わりだ‼︎ 覚悟しろ、ザ・メモリー‼︎
私は二つのガラスを、フレームに両端をつけたまま軸回転させた!
「なんだとおおおおお⁉︎」
すると、二つの魂が光り出し、一気にビームを発射した!
くらえっ! 超必殺技『ガラス・ノ・ハート‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』
「「「ギャアアアアアアアアアアアア‼︎」」」
——ドカーン!
激しい爆風と共に、整列は弾け飛んだ。
やったぞ、と充足感に満ちた私は、トランスフォームを解いて、元のメガネに戻ることにした。
「……ははははは! これで終わりだと思っていたのか!」
頭上から声が聞こえた。まさか!
私の体に、なにかがたくさん付着した。それは、小さな白い繊維達だった。
しまった! 爆破と同時に舞い上がった奴らが、こちらへ落ちてきたのか!
ぐ……くそ、なんたる屈辱っ! 私としたことが、とんでもない失態を——!
「ああ、ここにあったのかー」
こ、この声は!
私が反応するとすぐ、私のアームの部分から順に、体が宙に浮いていく。
「ケースだけ持ってて中身を入れ忘れるなんて……」
私はアームに触れている体温や指紋を感じとり、その正体を認識した。
相棒! 助けに来てくれたのか……⁉︎
すると、遠くの方から女性の声が聞こえた。
「柚木ー! メガネあったー? 早くしないと遅刻するわよー」
相棒の親だ。そうか。私を忘れた事を思い出して、取りに帰って来てくれたのか……
私は嬉しくなって、思わずネジが緩みそうになってしまった。
「あ、長いこと放置したからホコリがいっぱい付いてるよ……拭いておかなきゃ」
すまない、相棒よ……手間を掛けさせるな。
私は、先程の戦闘で疲れてしまったのか、体に力が入らなかった。
彼が、黒いケースから、紫色の布を取り出す。
…………! あっ! ちょっと待て!
「はーっ」
——フキフキ。
ああっ! そんなっ!
そんなに息を吹きかけてから、隅々のホコリまで丁寧に磨かれたらっ!
ピカピカになって視界がよく見えるようになっちゃうううううううう‼︎
「はーっ」
——フキフキ。
砂漠地帯から、シベリア地帯になっちゃうううううううううう⁉︎
「よーし、これでいいかなー」
……っ、はあっ、はあっ。心臓に悪いじゃないか。冗談はよしてくれよ、相棒!
「ん、じゃあ忘れないように掛けていこうっと」
すちゃり。パッドが音を立てて、彼の鼻の形にフィットネスクラブ。
「やっぱメガネあるとよく見えるな〜、学校行きたくね〜」
私の相棒は、独り言が多い。
独り言だけど、私に話しているのかもしれない。最近はそんな風に思い始めている。
さあ、相棒。今日はどんな景色を見に行こうか。
度の入った私のガラスが、キラキラ光る太陽の光を、屈曲させてみせるのだった。