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とらわれた2人

 ワゴン車の荷台には窓がなく、扉が閉まると真っ暗になってしまい、車がどこをどう走っているのか全く分かりませんでした。この車が止まったらどうなるのか。

 それを考えると、怖くてお互いに何も話すことができませんでした。

 急にワゴン車が止まりました。後部の扉が開くかと思ったら、今度は、ワゴン車が後にバックを始めました。そのバックもすぐに終わり、ガチャリという音とともに扉が開きました。

「なんだ?こいつら?」

 そこには、ひげを生やした小太りの店員の代わりに、髪の毛を金髪に染めた若い男の人が立っていました。その後ろから、黒髪を肩まで伸ばした若い男も出てきました。

「出てこい!」

 黒髪の男が乱暴な口調で言います。しかし、2人とも足が震えて動くことができません。

 黒髪の男は、2人とも出てこようとしないので、荷台に上がってきました。ゆうたとみかは、男から逃げようと振り返り荷台の奥の方へ行こうとしましたが、男はランドセルをつかんで、2人を振り回すように荷台から引きずりおろしました。その勢いで2人のランドセルは肩から外れ、男は手に残ったランドセルを荷台に放りこみました。

 そこは、古ぼけた倉庫のようでした。天井はなく、小学校の体育館のように鉄骨で屋根を支えていて、屋根には大きな明かり取りの窓があいていました。ガラガラという大きな音がして、ワゴン車が入ってきた倉庫の扉が閉められます。

 扉を閉めた小太りの男は、ゆうたを見て驚きました。

「まさかこんなところまでルーベンカイザーを追ってきたのか?」

 ルーベンカイザーの名を聞いたとたん、ゆうたの中に勇気がわき起こりました。

「こんなことしても、すぐにおまわりさんに捕まるぞ!」

「ああ、このあいだ来た警官のことか?あの警官、どうも君のことを信用していたようだが、ルーベンカイザーは見つけられなかったよ。あれから何も話がこないところを見ると、どうやら君の作り話だったってことで片づけられたんじゃないかな」

「そんな・・・」

「店の倉庫の中をずいぶんくまなく探していたけど、あるはずないさ。警官の探していたルーベンカイザーはここにあるんだからな」

 そう言うと、カバンの中からゆうたのルーベンカイザーを取り出しました。ゆうたは、思わず身を乗り出しました。

「ぼくのルーベンカイザー!」

「おっと、これは君に返すわけにはいかない。今日の大取引の大事な商品なんだ。商売が終わって、我々が外国に高跳びするまで君たちにはこの倉庫の中にいてもらうよ」

 小太りの男がそう言うのと同時に、長い髪の男はゆうた、金髪の男はみかの口をガムテープでふさぎ、両手両足ををガムテープでぐるぐる巻きにしてしまいました。2人は、倉庫の一角に積み上げられたおもちゃのところに放りだされました。

「明日の朝、ここにゴミ収集車が来てこのおもちゃをみんな持って行ってもらうことになっている。そのとき、ごみ収集車の人たちが君らを見つけてくれるだろう」

 ゆうたは、首を動かして積み上げられたおもちゃを見上げました。

「このおもちゃは何かって?あっちゃならないものさ。このおもちゃはみんな10円で買い取ったものだが、本社への報告では100円で買い取ったことにして、差額の90円分店のお金をかすめとっていたのさ。ところがだ、来週本社から在庫確認に来ると言うんだ。本社の人間がそのおもちゃを見ればひと目で100円で買い取るものじゃないって分かってしまう。そうなれば、店のお金をかすめ取っていたこともばれて、おじさんはクビだ。だから、ここにあるものはみんな盗まれたことにして、みんなゴミで捨ててしまうんだ。もっとも、今日の取引が終わればそんな小細工も必要なくなるけどな」

 小太りの男は、自分の考えた悪知恵に酔っているかのようでした。

「おっと、よけいなことを言っちまった。じゃ、明日の朝までここでゆっくり寝ていてくれ。寝心地は悪いかもしれないけどな」

 そう言うと、ルーベンカイザーをカバンに入れて倉庫を出て行きました。扉が閉まり、外側から鍵がかけられる音が倉庫の中に響き渡りました。


 ゆうたは、みかの方を見ました。

 みかの目は、後悔の気持と恐怖でうるんでいるように見えました。ぼくが何とかしなくちゃ。なんとか、みかをはげますことはできないか。そうだ、とにかく動きまわろう。このままじっとしていたんじゃ、みかに何もかもあきらめてしまったと思われちゃう。

 ゆうたは、地面にはいつくばったまま、あたりを見回しました。そして、手足が縛られた状態のまま、身体をくねらせたり、膝を曲げ伸ばしして、積み上げられたおもちゃに寄りかかりながらなんとか立ち上がりました。

 よし、次だ。

 ゆうたは身体を回転させて、おもちゃの周りを回り始めました。おもちゃの周りを一周しながら、倉庫の様子を見ようとしたのです。と、その時、ゆうたの重さでおもちゃの一部が崩れました。それが合図になったかのように、ゆうたの上におもちゃが崩れ落ちてきます。ゆうたの体はおもちゃの下敷きになってみかのところからは見えなくなりました。

 ゆうたは、また地面にはいつくばってしまいました。

 こんなことしたってむだだ。ルーベンカイザーはもう誰かに売られてしまっているに決まってる。

 ゆうたの上にかぶさったおもちゃたち、明日にはごみになってしまうあわれなおもちゃたちが、ゆうたにそう言っているような気がしてきます。

 ゆうたがあきらめかけたその時、聞きなれたよく通る力強い声が聞えました。

「ゆうた、おれは売られてなんかいないぞ」

 ゆうたが見上げると、おもちゃたちの上にルーベンカイザーが立っていました。ルーベンカイザーは、おもちゃの山を下りてくると、ゆうたを覆っていたおもちゃをどかしました。

「こんなガムテープでゆうたの気力をくじくことなんかできん」

 そう言うと、ルーベンカイザーは、ゆうたの手足を縛っていたガムテープを引きちぎりました。

 ゆうたは自由になった手で口をふさいでいたガムテープをはがしました。

「いてっ!」

「いきなりはがしたら痛いに決まっている。さあ、次はみかの番だ」

「待って。どうしてルーベンカイザーがここにいるの?さっき、店の人がカバンの中に入れたはずなのに・・・」

「言ったはずだ。ゆうたが、俺たちを必要とするなら、地球の裏側にいようと、店の人のカバンの中にいようと関係なく、俺たちは時間や空間を飛び越えて、いつでもゆうたのところに駆けつけることができるんだ」

 ゆうたはしばらくぽかんとしていました。

 そんなことできるはずない。そんなこと信じることできない。

 でも、ここにいるのは間違いなくぼくのルーベンカイザー。

 信じよう。

 たとえ世界中のみんなが信じてくれなくても、ぼくは信じる。おもちゃたちはぼくのためにどんな不思議なことでもやってのけるんだということを。

 ゆうたは、にっこり笑ってうなづくと、ルーベンカイザーを片手に持ち、みかのもとにもどりました

 みかは、手足が自由になっておもちゃの山の陰から現れたゆうたを見て、信じられないという表情で見ました。ゆうたは、みかの手足のガムテープをはぎ取りました。でも、口をふさいだガムテープの時だけはやさしくゆっくりとはがしました。

「どうやってガムテープをはずしたの?」

 みかの問いに、ゆうたは、片手に持ったルーベンカイザーをみかに見せました。

「これは?」

「これが、ぼくのルーベンカイザーだよ」

「えっ?でも、さっき・・・」

「信じてくれなくてもいいよ。でも、これは間違いなく盗まれたぼくのルーベンカイザーなんだ」

 ゆうたは、片手に持ったルーベンカイザーを頼もし気に見ると、言いました。

「これで取り戻すことができた。あとはあいつらがまた来る前にここを逃げ出すだけだ」

 ゆうたは、まず扉に向かいました。

 みかも後を追います。

 2人で力を合わせて扉を開けようとしましたが、扉はびくともしません。

「やっぱり鍵がかかってる。どこかほかに扉はないかな。さがしてみよう」

 2人は手分けして倉庫の壁伝いに扉がないか、歩いて行きましたが、正面の扉以外に扉はありませんでした。

 あとは、屋根に空いた窓だけです。

「なんとかあそこに登れないかな」

 ゆうたは屋根にあいた窓を見上げながら言いました。

 みかは、壁を見ていて、

「あそこを見て。壁にはしごが取り付けられているわ」

 みかが指さす方には、鉄の棒がいくつも壁からコの字型につき出ていて、はしごのように屋根の近くまで伸びていました。屋根は丸くなっていて、格子型の金網の足場が、コの字型のはしごの先から屋根についた窓の所まで伸びていました。

「あのはしごを登れれば、窓に出られる」

 ゆうたは、さっそくはしごを登り始めました。

 鉄の棒の上下の間隔は、子供のゆうたには少し広めでしたが、それでも登れなくはありません。あっという間に3メートルくらいの高さまで登りました。しかし、その先の棒をつかんでゆうたが体をもち上げようとした瞬間、つかんだ棒が突然壁からはずれ、ゆうたは後ろ向きに下に落下しました。

「ゆうた君!」

 ゆうたがもうだめだと思った瞬間、ゆうたの体はすぐに何かにぶつかり跳ね返りました。おもちゃの山のてっぺんに落ちたのです。ゆうたは、体のあちこちを色々なおもちゃにぶつけながら、おもちゃの山の斜面を転がり落ちました。

「ゆうた君!大丈夫?」

 地面に転がり落ちたゆうたのもとにみかが駆けつけます。

 身体のあちこちがきしんでいるようでしたが、ゆうたはその痛みを歯を食いしばってぐっと我慢しました。

 はしごの方を見ると、3メートル上った所で、鉄の棒の間隔が急に広がってしまいました。ゆうたたちが登ろうとしても、もうとても手が届きません。

 ゆうたの肘はすりむけて、血がにじんでいました。

「血が出てる」

「大丈夫だよ。これくらい」

 でも、心の中はとても大丈夫とは言えませんでした。もう、外に出るための方法はなくなってしまいました。店員たちがルーベンカイザーがないのに気付いてやってくるまで、ゆうたたちは待ち続けるしかないのです。


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