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どろぼうゆうた

 お母さんは、ゆうたの言葉を信じて、警察にルーベンカイザーの盗難届を出しました。

 あくる日、2人の警官がゆうたの家に来ました。一人は年配の人で、もう一人は若い警官でした。若い警官が、ゆうたから色々なことを聞き取りました。

「では、本物のルー・・・ルーベン・・・ルーベンカイザーは、君が3歳の誕生日にもらったもので、製造番号が・・・・BSの18066」

 若い警官のメモを見ながらの問いかけに、ゆうたはうなづきました。

「ところが、今ここにあるのは・・・DC97654。中古のおもちゃ屋ルミナスの店員が取り替えたものだと」

「そうです」

 ゆうたの返事に若い警官はうなづき、お母さんに向かって言いました。

「・・・これから、我々はルミナスに事情聴取に行きますが、お子さんに一緒に来てもらう必要はありません。まだ、相手が盗んだと決まったわけではありませんので、くれぐれも騒ぎたてないように。我々からの連絡を待って下さい」

 それまでおもちゃを手に取ったまま黙っていた年配の警官が口を開きました。

「3歳のころからのおもちゃにしては、みんなずいぶんきれいにしてある。たしかに使い古された感じはあるが、まるで毎回おもちゃの身だしなみを整えていたかのようだ」

 年配の警官は、取り替えられてしまったルーベンカイザーを手に取りました。

「これもきれいにしてはあるが、何か違う。そうだな、まるで店の陳列棚から出してきたばかりのような感じだ」

「じゃ、僕のことを信じてくれるんですか?」

「我々警官は、感じだけで相手を犯人にすることはできない。まだ、君の言ってることが正しいと決まったわけではないが・・・」

 年配の警官は、ゆうたを見つめて言いました。

「きっとその盗まれたおもちゃも、ここにあるおもちゃと同じようにきれいに扱われていたんだろうな」

 年配の警官はそう言うと、ゆうたの頭を手でやさしくなでました。


 警官からの連絡はなかなかありませんでした。この間に、ルーベンカイザーは売られてしまうのではないか?ゆうたは、気が気ではありませんでした。今すぐ、ルミナスに行ってルーベンカイザーがどこに隠してあるのか探したい。その気持ちを抑えるのに必死でした。


           ◆


 そんなある日のこと。

 ゆうたが学校に行くと、クラスのみんながゆうたの方を見てなにかひそひそと話しています。廊下の方を見ると、他のクラスの子が何人もゆうたのクラスをのぞいています。

「どうしたの?何かあったの?」

 ゆうたが、隣の子に話しかけると、隣の子は席を立って、他の子のところに行ってしまいました。後の座席の子に聞こうと振り返ると、やはり席を立って行ってしまいます。

 みんな僕を避けてる。

 ゆうたは急に悲しくなり、黙り込んでしまいそうになりました。でも、ここで黙り込んでしまったら、ゴミの授業の時のように自分が情けなくなって、あとで後悔するに違いありません。ゆうたは勇気を振りしぼって立ち上がるとみんなに聞きました。

「待ってよ!ぼくが何かしたの?」

 それでも、だれも何も言おうとしません。

「どろぼうゆうた君」

 突然、声が上がりました。みかの声です。

「なんでそんなこと言うのよ。みかちゃん」

 2、3人で部屋の隅にかたまっていた女の子の一人が言います。

「みんながかげでこそこそ言ってるからよ。本人だけそのことを知らないなんて不公平よ」

 みかは座ったまま、女の子たちの方を向いて言い放ちました。

「・・・ぼくがどろぼうって・・・・どういうこと?」

「あなた、ルミナスのおもちゃを盗んだんでしょ?何日か前におまわりさんがゆうた君ちに行くのを見た子がいるんですって。そのおまわりさんは、ゆうた君ちのあと、ルミナスに行ったらしいわ。それで、ゆうた君がルミナスのおもちゃを盗んだんだってみんな思ってるの。ゆうた君が、どろぼうする怖い子だってみんな思ってるの」

 それは、みんなの誤解です。

 盗んだのはぼくじゃない!ルミナスの店員が僕のおもちゃを盗んだんだ!

 ゆうたはそう言いたくなるのを必死でこらえました。それを言ったら、あの警官との約束を破ることになるからです。まだ犯人と決まったわけではないから騒ぎ立てないように、という約束を。

「ゆうたなんか、怖くないよ。なに言ってんの、お前」

 クラスの中でも暴れん坊の男の子がみかに向かって言いました。

「バッカじゃないの!」

 みかは、突然立ち上がって大きい声で叫びました。

「おまわりさんが家に行ったら、その家の子はみんなどろぼうになるの?ゆうた君が怖いかどうかなんて関係ない!だって、ゆうた君がどろぼうなんてするわけないもの!」

 いつも1人で誰とも遊ばない子。みんなが騒いでてもおとなしく座っている優等生。ときどき話すことは憎らしいことばかり。

 ゆうたがそう思っていた女の子は、クラスの中でただ一人だけゆうたを信じて、何も言えないゆうたの代わりにクラスのみんなと戦っていました。

「どうしてそんなこと言えるんだよ」

「赤ん坊のころからのおもちゃでまだ遊んでる子だもん。そんな子がどろぼうなんてできるわけないわ」

 最後の一言はひとことは余計だ、と言いたかったけど、それでもゆうたはうれしかった。凛として、クラスのみんなと向き合うみかがなんとなくまぶしく見えました。

 その時、扉が開いて先生が入ってきました。みんなあわてて、自分の席に戻ります。

 みかも着席しました。そのとき、みかは、ゆうたがずっとみかの方を見ていたことに気づいて、一瞬プイと横を向きましたが、横目でもう一度ゆうたの方を見て、まだ見ていることに気付くと、かすかに微笑みました。


           ◆


 その日の帰り。

 みかが、玄関に行くと、何人か女の子が待っていました。

「謝ってよ」

 そのうちの一人が言いました。

「何のこと?」

 みかが聞き返します。

「あたしたちが、まるでゆうた君のこと悪者にしてるようなこと言ってたじゃない」

「違うの?」

「そんなこと誰も言ってなかったじゃない」

「ゆうた君が、どうしてって聞いているのに、あなた達は何も答えないで遠ざかったのよ。そうやって、ゆうた君をのけものにしたのはどうして?それは、ゆうた君が悪者だって言ってるのと同じことよ」

「そう思ってるのはあなただけよ。他の子はだれもそんなこと思ってなかったわ。謝んなさいよ」

 ほかの一人が言います。

「そうよそうよ、謝りなさいよ」

「そんなのおかしいよ」

 女の子たちは、声のした方を見ました。そこには、ゆうたとまことが立っていました。

「ぼくのことをどろぼうじゃないって思ってたんだったら、それを言葉で言ってくれたみかに謝れっていうのはおかしいよ」

 ゆうたが言うと、まことがそのあとをつなぎました。

「お前ら、本当はゆうたのことどろぼうだと思ってたのに、そうじゃないってみかに言われて自分たちが恥ずかしくなったんだろ。その恥ずかしい思いをしたのをみかのせいにするなんて、お前ら最低だな」

 女の子の一人が何か言おうとしましたが、言葉が出てきませんでした。

 まことは、わざと女の子とみかの間に割って入り、

「みか、一緒に帰ろうぜ」

 と言いました。

 みかは、それに答えるように、外ばきに履き替えると、ゆうたとまことの後に続きました。 


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